絶対に異世界転生させたい猫耳女神vs女神をもふもふしたいおっさん
一面を光に包まれ、床と天井が無い神秘的な空間。そこに、猫耳を生やした女神と一般的な中年男性がいた。
「――猫美々 藻浮郎34歳会社員男性。トラックに轢かれそうになっていた子猫を助けて死んでしまった。何か間違いはないかにゃ?」
女神は仰々しく書類を読み上げ、目の前の藻浮郎を見上げた。その動作に合わせて、頭に付いた猫耳がぴょこんと揺れる。
「合ってるよ」
ずっと猫耳を見ていて女神の話を聞いていなかった藻浮郎は、適当に返事をした。
「実はあなたは神の手違いで死んでしまった、可哀想な犠牲者なのにゃ……そこで、なんと! あなたには異世界に転生する権利をあげるにゃ!」
「ふーん……」
「あれ、反応が薄いにゃ……この世界の人間は、異世界転生と聞くと泣いて喜ぶと聞いていたのに……あっ、チート能力の説明を忘れていたにゃ! あなたに与えられた能力は」
「あの……ちょっといいかな」
ノリノリで説明する女神を遮り、藻浮郎はスッと手を挙げた。
「なにかにゃ?」
「いや……別に転生とかいらないんだけど。人生やり直しとか御免だし、チート能力? とか正直意味分かんないし」
「おろ? 無欲な人間もいるにゃぁ」
「でもさ、代わりと言ったらあれだけど俺の願いを一つ叶えて欲しいんだ」
「何でも言うにゃ。私に叶えられない願いはないにゃ」
「猫耳もふもふさせてくれ」
「……は? お前、何言ってるにゃ?」
「俺さ、猫大好きなんだ。特に、猫耳少女をもふもふするの、夢でもいいから一度やってみたかったんだよね」
「きゃ、却下。他の願いを言うにゃ」
「いや、そちら側が起こした不祥事で俺死んでんだよ? お詫びの指定くらいさせて欲しいな」
「そこを突かないで欲しいにゃ……て、転生してチート無双すれば女の子からモテモテ! もふもふし放題の天国にゃ!」
「だから、別に転生はいらないんだって。ちょっともふらせてくれれば」
「じゃあ! 転生したらオプションで猫耳少女を付けるにゃ!」
「いらないし、そっちもオプションとか面倒でしょ? 頼むよ、軽くタッチするだけで満足だから」
「思いの外しつこいにゃ……し、仕方ないにゃ。1秒だけにゃ」
「やったぜ。じゃあ失礼しまーす」
ニタァと笑い、指をわさわさ動かす藻浮郎に、女神は本能的な嫌悪感を抱いた。
「にゃああああ! やっぱ無理! きもちわるいにゃ!」
ベシッ!
「あれ、夢か……ま、俺もお前も生きてるし、別にいっか」
藻浮郎は道路に倒れたまま、両手に抱えた子猫をもふもふした。