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信仰都市アンデロス


「改めて見れば、凄い光景ね……」

 皇子の言った通り――少しばかり埃の匂いがする専用機・夢の残り香(フォグトリナ)号の中で、ルイザは眼下に広がる光景をまぶたに焼き付けるように見ていた。

 それはいつ見ても変わることのない、一面に広がる白銀の景色を維持し続ける大雪原であり、他国の侵攻を阻む超自然の氷壁であった。


 さらば、氷雪の帝国――ルイザがそのような考えにふけっていると、ポーチの中で念石が不規則な唸りを上げる。

 操縦士に念石間での通話を行うことの断りを入れ、発光を続ける球体状の石を取り出すと、発信元を確認し、急いで通話を行う。


「――もしもし?」

【俺だ。先ほど皇子から連絡があり、貴方が持ってきた遺物を、公衆の面前で破壊した――とのことだった。――何か、起こしたようだな】

「……その言い方だと、私が何かやらかしたみたいに聞こえるけど? 何のことはないわ、ただクエストを依頼されただけよ。()()ってのが頭に付くけど」


 ルイザはデュランダルに、皇子の依頼内容、その一部始終を話した。

 ガンデラ大氷山に封印されていた、大戦時代の残骸。その後始末。崩落せし洞窟内部。


【なるほど……あの辺りは昔から気の流れが妙なことになっていると思えば、大戦時代の兵器が眠っていたとは】

「気の流れ?」

【そうだ。魔物が近づかない場所――と言えば聞こえがいいが、魔女由来の魔力、そしてそのような古代兵器が眠っていたとなれば、魔物が近づかないのも当然だろうな】


「つまり私は、遺物処理に駆り出された――ってわけね。しかも持ってきた遺物は、皇子の威を振るうために破壊された――」

 その分析を聞いたルイザは、ふう、とため息を付いた後、くたびれた様子で呟いた。

「まあいいわ、しばらくは探索行に出なくてもいいほどの報酬貰ったし」

【そうか。俺は再び、動天の足取りを追うつもりだ。縁があればまた会おう】


 念石の内側から響いていた声が聞こえなくなり、通話が切れた旨が魔導言語で表示される。

 元となった遺物に秘められた魔力を動力源として動いている念石は、大戦時代に使われていたとされる魔術言語でしか言葉が表示されないため、必然的に探索者たちは大戦時代より前に使われていたとされる古代の魔術言語を学ばざるを得ないのである。

 言葉の源流とも言うべき存在であり、現代で使われている世界中の公用語と乖離している部分は少ないため、表面的な習得はそれほど難しくはないが、その中身は昏き深淵の如き形相を呈しており、マナが消え、魔術が使えなくなった時代なのにも関わらず、古代魔術言語の研究だけで一生を費やす人間もいるほどである。


「さて、これからどうしましょうか。まずはアンデロスで大聖祭に顔を出して、それからは……」

「――そういえば、今年のアンデロスの大聖祭って開催するかどうか怪しい状況だったような」

 ルイザが大きな独り言を呟いていると、突如操縦席から声がかけられる。

 そちらを振り向いたルイザは、それはどういうことか――と説明を求めた。

 操縦士の男は、側でこの飛行船を制するハンドルを握る人間に指示を出しながら、怪訝な表情をするルイザに答えた。


「宗教同士のドンパチですよ。最大派閥であるツァルレゴ派とエルロニア派が争った結果、エルロニア派が勝った――と言っても、電撃的な不意打ちでツァルレゴの手段をことごとく潰していった結果、らしいですけどねえ」

 あくびをしながら答えたその男の言葉を、ルイザは脳内で反復させる。


 アンデロスには、世界創造の祖とされる六神の内、火の守護者ウルバク神を信仰するツァルレゴ派、氷の守護者ネヴァンジュ神を信仰するエルロニア派の二つの宗教派閥が存在し、水面下での内部闘争を長年に渡り行っている――という情報は、ルイザの耳にも入っていた。

 しかし、つい先日決着が付いた、という情報までは、閉ざされた大地であるアルテイニア、そのさらに奥地にいたルイザには入ってきていなかった。


「――それで、ツァルレゴ派はどうなったのですか?」

「エルロニア派が勝利のどんちゃん騒ぎをしている間に、急いで荷物をまとめて全員逃亡。復讐の機会を疑っている――みたいな話ですけど、又聞きなので何が本当やら」

「ありがとうございます。実際のところは、現地に行って確認するしかなさそうですね――」



「それでは、皇子によろしくお伝えください」

「ええ、気を付けてくださいね」


 アルテイニアからおよそ二時間。

 アンデロスを目と鼻の先に捉える街道付近に、飛行船は降り立った。

 そして操縦士たちと簡単な挨拶を交わすと、信仰都市アンデロスに向かって歩いて行った――。

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