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帰還


【……目覚めたか】


 無意識からの帰還を果たしたルイザが見たのは、崩れ落ちた火山内部の光景と、特に巨大な岩石を椅子代わりに使っていたデュランダルの姿であった。

 未だ無意識下にいるような感覚があり、脳にもやがかかったような状態であったルイザは、強く頬を引っ張ると、自らの体が現実世界に存在している事実を確信した。

 そして下を確認すると、溶岩に飲まれたはずの服装は元通りになっていた。どうやらご先祖――ウィルシャは、起きた時に全裸であったということのないよう、配慮を利かせてくれていたらしい。


【なんだそれは】

「……ここが夢ではないことを証明する、まじないのようなもの。それより貴方、この惨状の中で、よく無事だったわね」

【伊達に不死身とは言われていない】


 ルイザが見渡した光景は、炎竜が破壊をもたらした後と言っても説明が可能なほど、灼熱の殺風景を象徴する雰囲気が満ちていた。

 岩石は爛れ、噴出孔からは噴水のように溜まった溶岩が湧き出し、二度とこの洞窟は元には戻らないだろう、そう思わせるような光景であった。

 ルイザは身を起こすと、この惨劇の中でも形をとどめていた大宝石の元へ向かい、必要な量を――手のひら大のサイズを二個――削り出した。


「さて、これで私の目的も終了。とっとと帰りましょう。あまり長居はしたくないわ」

 ルイザは汗によって張り付いた銀色の髪をかき上げると、崩落したことによって現れた出口に向かって歩き始めた。


【どこへ行く? ()()で戻ればすぐだろう】

「少し頭を冷やしたい気分なのよ。貴方だけ先に帰っていて」

【……そうか。ならば、十四の刻までには帰ってこい】

「なぜ?」

【俺がシルディルスまで送り届ける】



 ◆◆◆



「ウィリアムさん! そんな所で寝ると、砂付いちゃいますよ!」

「いや……しんど……マジで……」

 

 ヤズサは自らのキャンプ用具、そして調査に使った罠などを風呂敷に回収し、島から離れる準備をしていた。

 そして一方のウィリアムは、キャンプ用具を片付けた後、満身創痍の状態で寝ころんでいた。

 ヤズサが荷物を全て包み終えたその直後、突如発生した爆発音を聞いて、二人は顔を見合わせた。


「……魔物!?」

「結界の術式は!?」

「二日で切れるようにしてあって、今日がその二日目……」

「どうすんだ!? 旦那かルイザか、あるいは両方がいるならまだしも、俺たちだけじゃ……!」


 二人は息を飲み、音の主が通り過ぎるのを待った。

 しかし音の主は、まるで存在に気付いているかのように足を速め、着実に二人の元に近づいていた。

 ずしん、ずしんと聞こえてくるその音は、まるで歯向かうものは踏みつぶす大地巡りの巨人(タイタン)を思わせるような威圧感であった。

 そしてその巨人は、ちっぽけな人間など意にすることもなく、二人を惨たらしい砂のシミに変え――



【……何をしているんだ?】

 変えることはなかった。


「――旦那ァ!?」

 目の前に現れたよく知った存在を見て、ウィリアムはすっとんきょうな叫びを上げた。

 その言葉を聞いてか聞かずか、デュランダルは高等級の念石を取り出すと、とある場所へ連絡を開始した。


【――私だ。ああ、定刻通りに頼む。ちと荷物が増えるが、大丈夫だろうか?】

『……!』

【そうだな……人間二人、そしてその者たちが所持する荷物だ】

『…………!』

【いつも迷惑をかけてすまない。しかし、クエストは何が起きるかわからない。同行した人間がいなくなっているということもあれば、今回のように帰りの人数が増えるということもある。では、よろしく頼むぞ】


 ――同行した人間がいなくなっている。

 その言葉に、ヤズサは反応した。


「……デュランダルさん。ルイザ姉は? 同行したんですよね?」

 突如ヤズサに話しかけられたデュランダルは、一連の流れを話そうとしたが、この状況ではあらぬ誤解を生むと考え、

【その内――少なくとも、俺が指定した時間には戻ってくるはずだ】

 と、言葉を濁した。


「貴方の中では、その内という言葉は今に相当するってわけ?」

 その声を聞いた途端、ヤズサの表情が電気を走らせた蛍光灯のように明るくなった。


【……戻ってきたのか。俺はあのまま、樹海で自決するとでも思っていたのだが】

「は? この私が老衰以外で死ぬなんてありえないわ」

 軽口を叩いたルイザは自らのキャンプ地まで向かうと、ヤズサが手をつけていなかった己の荷物を回収した。


「それで? 十四時に何がやってくるというの?」

 そう言って、ルイザは荷物の中の時計を眺める。その針はちょうど十二方位の北と北東を指していた。

【……今にわかる】

 大地を眺めていたルイザに対し、デュランダルは空を眺めていた。


 そして、大地を揺らすほどの轟音と共に、それは訪れた。

 ――漆黒のクジラ。

 ルイザがそれを見た感想は、その一言に尽きた。


 貴族であるルイザといえど、それを見たことは人生の中で数回しかなかった。

 複雑な機構を搭載し、プロペラによって空を浮く飛行船。

 竜の紋章――アルトニア帝国の国章が刻まれたその飛行船が、ルイザとヤズサ、そしてウィリアムの前に降り立っていた。


「――デュランダル。貴方帝国関係者だったの?」

【昔の話だ。その昔のコネクションを使い、こうやってクエストに利用している――というだけだ】

「そう……まあ、ちゃんと送り届けてくれるなら、問題はないのだけれど」

【それは保証させてもらう。さあ、今の爆音に気づかれる前に乗ってくれ】


 

 そして一行は、魔の島・ボンガリアに別れを告げた――。

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