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どう足掻いたって無理なもんは無理


 ルイザは一呼吸を置くと、水面のように揺らぐ眼を鎮めるべく、目頭を抑えた。

 そして、目の前で不敵な笑みを覗かせる存在を、強く見据えた――。


「貴方が、()()の魔女だというの……!?」

 ローブの女性はその言葉を聞くと、くつくつと笑い出し、ローブの下の素顔を明らかにした。

 何十年、あるいは何百年とこの人間界に君臨しているはずなのに、一切の衰えを感じさせないその素顔は、以前黒い鎧の男(デュランダル)から聞いた特徴と酷似していた。

「……誰からそのことを聞いたのかしら。私のことを知っている人間は、そう多くないはずなのだけれど」

 それすなわち、歯向かってきた存在は総じて血祭りに上げてきたということ――その純然たる事実を耳にして、ルイザの体の震えが収まることはなかった。



「……そうよ。私が動天――シーカーラ。|ウィルシャ・ラーズクレス《私に散々迷惑をかけたあのくそばばあ》の血を受け継ぐ貴方には、特別にこの名を使ってあげる――」

 

 シーカーラがふわりと空間に手をかざした瞬間、()()()()()()()

 部屋に立てかけられていた白銀の鎧は一瞬にして黒に染まり、床に敷かれていた赤いカーペットは蒼宝石サファイアを思わせるような深い青色へと変貌していく。

 頭を垂れる群衆は一瞬にして視界から消滅し、この空間には二人の女が立つばかりであった。

 それは簡略化された術式でも、遺物の力でもなんでもなく、現代ではより高純度の魔力マナを蓄えた魔女だけしか使用できない――《《魔法》》であった。


「――その名(シーカーラ)が意味するものは、変転する生と死。歪みし白と黒のの双玉。魔月まがつを超えもたらされるは、果てのいくさにより遠ざけられし我が分体――」

「――っ!?」

 シーカーラが魔力マナを込めた言霊を唱えた瞬間、叩きつけるような紫色の暴風が空間に吹き荒れ、ルイザは吹き飛ばされそうになってしまう。

 すんでのところで剣を大地に突き刺し、風の影響下より逃れたルイザは、眼前でその姿を変質させていくシーカーラを見据える――。

 

 風が吹き止んだ瞬間、空間が凄まじい音を立てて破裂した。

 そしてその後に存在したのは、比類なき大きさの大蛇の影を纏う、シーカーラの姿であった。


「……魔女として戦った相手でここまで見せるのは、ほとんどいない、とんだ出血サービスよ。最も、血を流すのは貴方の方なのだけれど――()()()()()()()()()()()()()()


 シーカーラの双眸がぎょろりと赤く光ったかと思うと、ルイザの体は一瞬にして地に倒れ伏していた。

 何が起きたのか理解する暇もなく――ルイザの細首はシーカーラの腕に掴まれ、万力の如き握力が、柔らかな細首に襲い掛かった。



 ◆◆◆



【この道で会っているのか、ウィリアム!?】

「あったりめえよ、俺がこの国に何年いたと思ってる!」


 隠れじの纏具を纏い、アルネビアの人間からは見えなくなっていたウィリアムであったが、同じく遺物の一種を身に纏った存在であるからか、デュランダルとは普通に会話することができていた。

 そのせいでアルネビアの住民には、ぶつぶつと独り言を呟く黒い鎧の男が走っているようにしか見受けられなかったが、今の二人にとっては些細なことでしかなかった。


【……ここか?】

「ああ、旦那がお望みの場所だ」

 複雑に入り組んだアルネビアを西から東へと駆け巡り、二人が足を運んだのは、元老院派の本拠地――賢者を見据える塔(ガウ・シンベル)と呼ばれる建物であった。

 その大きさはアルネビアの西に存在する教皇派の本拠地より目視では確認できない範囲で上回っており、自らの組織の建物がアルネビアの象徴であることを周知させていた。


【……突入するぞ、準備はいいな?】

「ああ、俺も元老院派コイツらに用があって来たんだからな、とっくに準備はできている!」

【……頼もしいな。行くぞ!】


 そして塔に一歩足を踏み入れた瞬間、二人の姿は跡形もなく消滅した。



「あら、ようやく()()が勢揃いしたみたい。ずいぶんと待ちくたびれちゃったわあ。ねえ、デュランダル――」

()()()()()!!!!】


 その空間に降り立ち、ルイザの首を締め上げるその姿を見た瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がシーカーラめがけて襲い掛かった。

 反射的にルイザの体を盾にしたシーカーラであったが、勘であったか予測であったか、デュランダルはその行動を起こすことを既に見抜いており、強引にルイザの体を引き剥がし地面に降り立ったばかりのウィリアムに投げつけた後、文字通り鉄槌の如き肘鉄を魔女の顔面に見舞った。


「ッ――!!!!」

 歪んだ顔を抑えのたうち回るシーカーラに向けて、ずるりと背中の大剣を引き抜いたデュランダルは、一切の遠慮なしにその体に刃をぶち当て、強引に引き裂いた。

 しかしそこから人間であることを証明する赤い血が流れてくることはなく、引き裂かれたその体はぐずぐずと溶けていくばかりであった。


【貴様――――――!】

 背中からにじり寄る気配を一瞬で察知したデュランダルは、自らと同じ漆黒の鎧の軍団、部屋に積み上げられた廃材の数々、立てかけられた剣が意思を持って襲い来るのを見て、即座に剣を振り上げ、廃涜の軍団(スクラップ)に立ち向かっていった。



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