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天雷


 突如空間に巨大な穴が開き、そこから現れた巨大な存在に、ルイザは絶句した。

 煌々と黒銀に輝く体表、あらゆる存在を一挙手一投足で薙ぎ払えるかのように設計された、現存する巨竜では絶対に及ばないほどの剛体、森羅万象を睨み据える碧き双眼、旧き時代に人間界のマナと共に消滅したとされる絶対的存在ドラゴンが、突如シルディルス大陸に襲来した――。


 ◆◆◆


 人間界より遠く離れた次元にある、大魔界。

 文字通り次元を超えた先に存在する場所であり、人間界と地続きではないため、船や飛行船などの端的な移動手段では行くことができず、足を踏み入れるにはマナのねじれによって発生したポータルを通って行くしかなかった。

 その()()()()()()は、魔族由来の遺物、あるいは念石の力でしか見つけ出すことができず、また一度発生してから長持ちするものではないため、()()()()捜索が重要であった。

 当然これは人間界から足を運ぶ時にする行為であり、魔界から人間界にコンタクトを取る際には別の行動が必要であった。


 その中でも、特に雷が降り注ぐ大地に立つ巨大な城にて……。



「バッカヤローーーーッ!!!!!! お前のせいで停戦協定が破棄されるようなことになったら、どう落とし前付けるんだああああああ!!!!!!」

「ごめんなさいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!」


 槍の如き二本の剛角を兜から生やした、魔人種と呼ばれる存在に属する風貌の女騎士に、フードの中に尖った耳を隠した、こちらも魔人種と思わしき少女が追いかけ回されていた。

 女騎士の鎧はこれまで嬲ってきた者の血が塗りつけられているかのように赫色に染まっており、その丹念に鋳造された剣のような肉体、バックプレートに背負った鬼面の如き異形の紋章も含めて、ただならぬ存在であることを感じさせた。

 その女騎士、そして自らがしでかした事の重大さに怯えるフードの少女は、同年代の女性に比べると比較的豊満な胸と、腰に携えた藍色の杖を揺らしながら逃げ回っていた。

 女騎士がその鍛え上げられた腕で少女の肩を鷲掴みにし、全力の手加減を込めて壁に叩きつけると、べちゃっ――という軟性の物体を壁に叩きつけたような音と共に、フードの少女は昏倒した。


「……いいか、私はお前の()()を買っているんだ。だがな、波を起こす前の一滴のしずくの如き騒動を起こす、その()()が気に入らないんだ! ――もういい、起きてしまったことはしょうがない。そのドラゴンはポータルをぶち壊し、どこに飛んだのか覚えているか?」

「……一面の大草原。それ以外には……」

 ぐらぐらと頭を回しながら、フードの少女はこれ以上の暴力が飛んでこないように必死に起きたことを回想する。

「何だ? もう少し正確な情報がないと、草原だけで探るのは難しいぞ」


「鉄……そうだ、鉄の塊が、黒い煙を上げながら走っていました!」

 その言葉に、女騎士の眉がぴくりと反応する。

 そして、しばし頭を巡らせる時間を挟んだ後、ゆっくりと唾を飲み込み、ふと呟いた。

「なるほど……人間たちの時代は、また鉄の車が走っているところまで到達したのかい……」

 そう言うと、女騎士は部屋に立てかけていた身の丈以上の大きさを誇る槍を背負うと、精神を集中させ、別の場所にいる人物との念話を開始した。


『こちらマグノリア。諸事情あって、人間界へのポータル通行許可を要求したい』

『その()()()を話していただけませんと、通行許可はお出しできません』

『……ジニュエルが()()召喚獣の手なずけに失敗した。しかも呼び出された召喚獣が、ポータルを破壊して人間界に行きやがった。これで十分か?』

『……了解いたしました。期限は五十二時間。それを超えると、強制的に帰還過程が行われますので、ご注意ください』

『OK。んじゃあ、ちょっくら行ってくるぜ』

 

 マグノリアの脳内で念話が切れた瞬間、右手に熱が籠り、ポータルを渡るための通行証が浮かび上がる。

 それを確認すると、マグノリアはフードの少女の首根っこを掴み、自らの背に乗せた。


「わ、私も行くんですか!?」

「あったりめえだろうが! 自分が起こしたことなんだから、自分で始末付けるんだよ! ――しっかり掴まっていろよ!」

 

 マグノリアはそう言って、目の前に開いたポータルに飛び込んでいった――。


 ◆◆◆


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