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六方世界の探索者  作者: 兼沢ほろろ
雪原の帝国
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アルテイニア帝国第一皇子 オズウィル・ユプティアル


 目の前に柔らかな笑みをたたえ、かたわらに専属の執事を従えてたたずむその男は、ルイザを一目見た途端、かっと目を見開き、勢いよくソファから立ち上がった。

 お互いに装着していた皮革レザーの手袋を外すと、右手同士で固い握手を交わした。


「よく来てくれた、ルイザ・マルレイン。私がオズウィル・ユプティアル。この国の第一皇子だ」

「お初にお目にかかります。オズウィル皇子――」

「オズウィルでいい。堅苦しいのはどうにも苦手なのだ」

 ルイザの発した言葉を手で遮り、訂正するオズウィル。その蒼い宝玉の如き双眸には、世界を巡る探索者に対する憧憬の念が渦巻いていた。


「……では、そのようにさせていただきます」

 来客用のソファにゆっくりと座り込んだルイザは、腰の鞘を外してソファに預け、この場において不戦の意思を示した。


【それでは失礼致します、皇子】

「ああ、ありがとうデュランダル。彼女をここまで連れてきてくれて」


 ◆◆◆


「……さて。いざ対面してみると、何から話したものか悩んでしまうな」

「中央の流行品、最近の探索者事情など、自分が知りえる範囲であればお答えできますが」


 悩むオズウィルをよそに、執事より出された高級茶、そしてアルテイニア独自の製法で作られた茶菓子を、領地を簒奪さんだつする覇者めいて頂戴していくルイザ。

 

「……探索者というものは、そのように強引でなくば務まらないものなのか?」

「あっ、いや、これは……!」

「いや構わない。これは貴方のために用意したようなものだから」

 ほぼ無意識下で行っていたとはいえ、この行為は咎められてもおかしくない。そう考え身構えたルイザを、オズウィルは優しく肯定する。


「……聞きたいのだが、他国の菓子と我が国の菓子、どのような違いがあるだろうか?」

 しばらく時が流れた後、オズウィルはそのようなことを呟く。

 途端、先ほどまでの柔らかなまなざしとは異なり、ルイザがフォルドーラの同伴で茶会に行った時の貴族たちのぎらつくようなまなざしへと変わった。

「……気候の違い、万年降り積もる雪で食料品は保存性が高いのが好まれるというのか、他国の菓子より味が濃い。と言っても、こちらの方が好み――って言う人もいるかもしれませんが。例えば……子供とか」

「うむ。まさしく我が国の菓子は、大人より若年層に人気がある――という調査結果が出ている。……大人たちは、酒のつまみとして楽しむようだが」


「貴方は、魔導大戦での英雄――マルレインの血を引く者と聞いた」

「まあ、数ある子孫の内の一人――と言っても、直系という自負は常に持ち合わせております」

「……実は、我が国の図書館を私的に調べていたら、このような資料が見つかってな。ぜひ貴方に見せたいと思っていたのだ」


 オズウィルが取り出したのは、一冊の本――バルジニアという一切の来歴が不明の著者が記した、およそ五百年ほど前に人間と魔族が起こした魔導大戦、その経緯について書かれた本であった。

 皇子が本をゆっくりとめくると、大戦で発生した各国の被害状況、世界中に放流された魔導遺物のおおまかな内訳、この人間界にこれから起こりうるであろう事案が、事細かに記載されていた。


「私が着目したのは、ここだ」

 『大戦・人類編』と書かれたそこには、ルイザも当時の資料などで知っている大戦で功を成した者たちの名前、そして本人の顔を正確に再現した肖像画が描かれていた。

 そこには当然ロストリオ、そして()()と呼ばれた超越的存在であるウィルシャの名前と顔も存在し、ルイザは目を細めた。


「そして英雄ロストリオ・マルレインは、大戦終結直前に謎の失踪を遂げた――ここまでは、貴方も知っているはずだ」

「大戦後期、突如人間界から大部分のマナが消失し、マナを動力源としていた兵器がエネルギー切れで使用できなくなったことによる膠着状態の結果、大戦を終わらせざるを得なくなった――でしたっけ」

「うむ。話は戻るが、どうやらロストリオは失踪する前、数人の仲間と共にガンデラ大氷山に魔導兵器――遺物を封印していったようなのだ。ここを見てくれ」


 オズウィルが指し示した箇所には、ロストリオ・ウィルシャの二人と他数名が、大氷山の岩壁を見上げている光景が詳細に描かれていた。

 そしてそこに並んでいた――シグロード・ユプティアルの名前を見て、ルイザは瞬間的に皇子の顔を見た後、あっ、という叫びを上げた。


「どうやら、ロストリオ・マルレインと我らの祖であるシグロードは、浅くない交流があったらしい。他にも様々なページで、我らの祖と英雄ロストリオの名前が同時に出てくる箇所が見受けられる」


 オズウィルが、自らの覚えているページをめくりだす。

 そのページの全てに、シグロードとロストリオ、見切れたウィルシャが一緒に写っている絵が描かれていた。


「……当時はまだ写真を残す念石なんてできていないはずなのに、ここまで精密な絵を残した書物が存在していたなんて」

「バルジニアという単一の名義が存在するだけで、筆者は複数人存在する――という説もあるが、それでもここまで事細かに魔導大戦のことが書かれた書物は他にはないだろう」


「……それで、ユプティアルと交流があったとされるマルレイン家――の血を継ぐ私に、いったい何をしろと?」

「ああ、ここからが本題なのだ」

 本を閉じたオズウィルは、手を振って執事に依頼し、棚に置かれていた運搬ケースの内の一つを運び込ませた。

 その中に入っていたものを見て、ルイザは勢いよく後方に吹き飛びそうになった。



「ルイザ・マルレイン。探索者としての貴方に、クエストをお願いしたい。内容は、シグロード・ユプティアル、そしてロストリオ・マルレインが封印した遺物の確認、もしもそれがこのアルテイニアに陰を落とすようなものであれば、民衆の前での破壊作戦を慣行する。これはその手付金――十万ブール存在する。残りはクエストが終わり次第、早急に私のポケットマネーから支払わせていただく。クエストというものを依頼するのは初めてなのだが、この条件で受けてくれるだろうか?」

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