無限の力、無の力①
ああ、彩先生が来ていたとは。
『さあ、レイちゃん、これから一緒に遊ぼうか。このお部屋の大捜索。お宝探しゲームね。』
『わーい、楽しそう。レイ、いっぱい見つけるね。ぼんちゃんが隠しそうなところ、何となく分かるんだあ。』
『あ、あ、彩先生。ちょっと待って、、、』
『ヒロ君は、そこで正座。文句ある?』
俺はしぶしぶ正座をした。ああ、イエメンの地雷より、自分の部屋のエッチな地雷の方が怖い。大宮に来る前に、処分しておくんだった。そうだ、新宿には、まだまだ一杯あるはずだ。明日にでもバレる前に処分しよう。
『へー、新宿にもあるんだあ。ヒロ君、明日、一緒に新宿に行こうね。』
彩が、不敵な笑みを浮かべた。
余計なことを考えてしまった。彩先生に心を読まれてしまった。
『みつけたあ〜。これで、4個目。』
レイが声を上げた。
『すごい、レイちゃん。わたくしも頑張らないと。』
『彩先生。もうおやめ下さい。もう、それで全部です。』
『本当かしら。ふーん、本当のようね。レイちゃん、数えようか。わたくしは、6つ見つけたわ。』
『レイはね、7、8、9。9個見つけたあ。』
『すごい、レイちゃんの勝ちね。勝者には、ケーキがあるわ。向こうのテーブルにあるから、食べておいで。』
『はーい。』
レイは、喜んで部屋を出て行った。
『女子大生の放課後、OLの秘密、淫乱看護婦、、、へー、ヒロ君はこう言うのが好きなのね。あなた、いくつ?恥ずかしくないの?かすみさんがいるのに。こんないやらしい本を隠して。最低だわ。』
『それは、かすみと出会う前に、もらった本です。処分するタイミングがなくて、、、』
『かすみさんと出会う前ね。じゃあ、わたくしでは不満でしたの?』
余計なことを言ってしまった。火に油を注いでしまったようだ。
『今日は許しませんよ。覚悟しなさい。徹底的に、教育します。』
教育。彩先生の教育は、厳しい。まだ、お仕置きの方が楽だ。何時間のレベルではない。何ヶ月のレベルだ。何を教育されるのかは、だいたい分かっている。プログラムは、二段階。一段階目は、文章を読み、その感想文を書く。教育なので、0歳から20歳まで用意されている。まずは、0歳用の文章を渡され、その感想文を書く。満足できない場合は、書き直し。合格すれば、つぎの年齢に進める。ほとんどが道徳的なものであるが、年齢が上がるにしたがって、難解な哲学的文章になっていく。何度も何度も書き直しを要求され、人格をボロクソに言われることもある。
俺は、ちょうど良い機会だと思った。完璧な人間、神になるために、むしろありがたいと思ったのだ。
難しいのは、第二プログラムである。彩先生が担当だと本当に厳しいプログラムである。普通の人は、第二プログラムを修了することは、まず無理である。やることは、ただ坐禅を組むだけであるが、、、。
俺は第一プログラムを2日で終わらせた。これは異常に早いスピードである。彩先生の元で修行していた時、何度も繰り返し、このプログラムを行なっていたので、覚えているのも理由の一つである。心が洗われたような感覚になっている。
明日からは、第二プログラムが始まる。午前中、坐禅を3時間行う。彩先生のOKをもらえれば、それで終了。ダメなら、午後にまた3時間。ダメなら、夜に3時間。ダメなら、翌日に、、、。と、永遠に続いていく。仏教に『只管打坐』という言葉がある。ただひたすらに座るという意味である。これが難しいのである。ただ座る。つまり、他のことは考えてはならないのだ。煩悩を排除せねばならない。この部屋で坐禅を組まなければならない。煩悩だらけの部屋で。3人の女神たちが、じっとしてるとは思えない。
『ああ、かすみに抱っこして欲しいなあ。』
などと思った瞬間に、不合格になる。心を無にする。俺が、今一番必要としていることだ。無限の分身仏を作り出すのには、絶対に必要だ。
俺は今までとは違う気持ちで、純粋な気持ちで、彩先生の教育を受ける覚悟をした。
『ぼんちゃん、遊ぼう。』
レイが近づいてきた。これだ。これが、1番怖い。今はいい。坐禅をしている時に、声をかけられて、『無』のままでいられる自信がない。
『レイちゃん、なーに?』
『久しぶりに、トランプやろう。』
トランプか。そうだ、心を無にして、神経衰弱をやったらどうなるのか試してみよう。
『いいねえ。今日は、おじさん、負けないよ。』
俺は、ワクワクしてきた。レイもニコニコしていた。
やったあ、俺の勝ちだ。作戦が成功した。心を無にすること、つまりは無欲の勝利だ。
『あーあ、負けちゃったあ。ぼんちゃんは、やっぱり凄い。エッチなところは嫌いだけど、尊敬しちゃうなあ。』
『そっかあ。おじさんは、レイちゃんと遊んでいると、とても楽しくて、なんか幸せな気持ちになるよ。』
3歳の子供にトランプに勝利して、大喜びするヒロ。気分良く、プログラムに挑めると思っていた。
『ママ〜。ぼんちゃんと遊んできた。とてもおもしろかった。』
『そう、良かったね〜。何して遊んだの?』
『えーとねえ、神経衰弱。』
『じゃあ、レイの勝ちかな。』
『違うよ。今日は、ぼんちゃんが勝ったの。』
『えっ、そうなの。彩さん、どういうことかしら。』
かすみも彩も不思議に思った。ヒロは守護神であるから、主である私たちには勝てないはずである。
『彩さん、ヒロ君が盧遮那仏として、目覚めてしまったのかしら。』
『たぶん、違うと思うわ。ねぇ、レイちゃん、どうして負けちゃったの?』
『あのね、なんか、最近、ぼんちゃん、元気ないから、わざと負けたの。そしたら、大喜びしてた。ぼんちゃん、喜ぶの見て、レイもおもしろかったよ。』
かすみと彩は、顔を見合わせて、爆笑した。
『ヒロ君たら、ほんと子供みたい。レイに負けてもらってるの知らないで、大喜びしてる姿を想像すると笑いが止まらないわ。』
『その辺が、ヒロ君の良いところであり、悪いところでもある。でも、ヒロ君が、レイちゃんの慈悲の心を動かしたのは偶然かしら。さて、それでは、天狗になっているヒロ君の教育をしてきましょうかね。』
彩は、席を立ち、ヒロの元に向かった。