鬱憤②
ガタガタガタガタ、ドアから黒づくめの集団が入って来た。
『どうしたんだ、このありさまは。佐々木はどこだ。』
奥で腰を抜かしている佐々木組長は、震える声で応えた。
『ここです。会長、沢田会長。やられました。組は壊滅です。』
『これだけの男たちを、だ、だ、誰が?』
『魔人バブーです。新聞にのっていた、あの魔人の記事。本当だった。』
暴力団の幹部連中は、唖然と見ていた。そして、奥のソファーでくつろいでいる彩先生と俺を見つけた。
『会長、ダメです。あの二人にだけは、関わらないで下さい。』
彩先生が会長に近づいていった。
『あら、沢田君じゃないの。懐かしいわあ。まさか、わたくしのこと、お忘れではないわよね。』
会長をバカにした様子を見て、幹部らが詰め寄る。会長は、彩先生を見つめている。そして、顔色がみるみる変わっていく。
『あ、あ、彩さま。』
『あら、嬉しいわ。覚えていてくださったのね。でも、随分、偉くなったのね。挨拶の仕方は、忘れたのかしら。』
汗まみれの会長。それを見ている幹部らの動きが止まった。
『お久しぶりです。彩さま。』
そう言うと、会長は土下座をした。
そして、振り向き、叫んだ。
『お前ら、頭がたかい。全員、ひざまづけ。』
『か、、会長、こんな女一人にどうしたのですか。』
幹部から不満の声が漏れて来た。
『沢田君、後ろの子たちに説明してあげなさい。』
『お前ら裏社会にいるなら聞いたことがあるだろ。伝説の女の話だ。一人でヤクザ100人相手に素手で立ち向かい、傷一つ受けずに全員を抹殺。そして、裏社会だけでなく、政財界の闇でうごめく輩たちをことごとく叩きのめし、そして、この国を牛耳ったと言う伝説を。あれは伝説ではない。実話だよ。俺はこの目で見たんだ。俺は小学生にも満たない子供だった。燃え盛る炎の中で、100人相手に戦う女を。俺は、その女に拾われ、小さな組で暮らすことになり、今日にいたるのさ。その女性の名前は「宗彩聖」。中国人のふりをしているが、列記とした日本人女性だ。日本名は「赤崎彩」。
美しい女性だ。彼女が伝説なのは、強さ、美しさがあるからだけではない。彼女は歳を取らない。不老不死であるからだ。そこにいる女性こそ彩さまだ。60年前にお会いしてから、全く姿が変わらない。本質は優しい女性だ。俺の心は何度となく彼女に救われた。彼女は神だ。俺ら凡人とは全くちがう。』
そう説明し、再びひれ伏した。彩先生は、会長の頭を踏みつけた。
『沢田君、あなたの教育が悪いのよ。もっと、末端の子たちにも気を配り、本当の任侠に育てなければ、この国は、腐ってしまうわ。返事は。』
『はい。仰せの通りでございます。』
ぼーっと、たたずんでいる幹部連中。少し、脅してやるか。俺は、宙に浮いて、幹部の頭上をくるくる回った。それを見ていた佐々木組長が声を荒げた。
『その子が、怒り出す前に、ひれ伏してくれ。俺の子分たちは、その子一人にやられた。』
俺は黄金のオーラをまとい、目からビームを出して、カーテンを燃やした。
『頼む』
佐々木組長が泣いている。ちょっと、やり過ぎかな。俺は、口から冷風を吹き出し、炎を消した。
『後ろの子たち、わたくしが、どう言う女か理解していただけたでしょうか。おバカな脳みたいだから、簡単に説明してあげる。60年前から、この国のリーダーは私だということ。歴代の総理大臣も全員、わたくしの足元にひれ伏せたわ。信じないなら、安倍でも、小泉でも呼びましょうか。なんなら、北朝鮮から朴正恩を呼んでもいいわよ。』
彩先生は再び会長の頭を踏みつけた。幹部らは次々とひざまづいていく。
『まだ、理解してない子がいるようね。』
後ろの若い幹部が、仁王立ちのまま、睨み返していた。彩先生は、俺に合図した。俺はその男の頭上に舞い上がり、そしてオーラを放射した。男の頭が二つに割れはじめ、そのまま全身までも二つに割れた。
『バブバブ、バブバブ』
次の獲物を探すように、俺は天井近くを飛び回る。
『あなた方は、とても運がいいわ。素直にひざまづいたから。わたくしは強いです。でも、世界は広い。わたくしより強い人はいます。一人は、きっとご存知のはず。この新宿を故郷にしている「ヒロ」です。圧倒的な力で裏世界で999連勝。この記録は未だに破られていません。残念ながら、彼は病気で亡くなりました。しかし、彼よりも強い神が、今、ここにいます。わたくしも勝てません。暴れ出したら、誰も止められないの。空を飛んだり、火を吹いたり、その上、防御は完璧。銃弾や刀も効きません。まさに魔人よ。今はまだ、赤子。成長したら、どうなるのか、わたくしにも分かりません。わたくしはこの子の暴走を食い止めるのが、今の使命なの。この子、ずば抜けた記憶力を持ってるのよ。あなた方の顔は、すでにインプットされてるはず。隠れても、それは無駄。念じるだけで、行きたいところ、会いたい人の元に瞬間移動できるわ。狙われたら、その段階で命はないの。さっきの子は、わたくしを睨みつけていました。魔人は、わたくしが嫌な気持ちになったと悟り、死の判決を下したのよ。恐ろしい子なのよ。だから、助けに来たのに。そこで倒れてる子たちは忠告を無視して、わたくしに襲いかかって来たの。死刑の判決はすぐに降りました。ただし、組長さんと、そこの女性は優しかったらしく、魔人に好かれたみたい。優しさの恩を忘れなかったということね。』
俺は佐々木組長の膝の上に座った。組長はビクビクしながら、俺の頭を撫でている。
『沢田君、女、子供を誘拐するなんて、卑劣な真似は今後いっさいしないよう、きちんと指導しなさい。いいわね。』
『ははあ〜。』
一同、同意をした。幹部らは彩先生に対し、恐怖の顔で青ざめていたが、沢田会長は恐ろしさより、懐かしさ、いいえ、愛しさを抱いていた。
『お前ら、あや様のお言葉を有り難くちょうだいするんだぞ。』
俺と彩先生は瞬間移動で事務所を後にした。
部屋に戻ると、かすみとレイちゃんが迎えてくれた。
『ちひろちゃん、大丈夫。怖かったね。』
かすみが抱きしめてくれた。
『バブビバ、アアウ。』
彩先生は決めたことは必ず守る。こんな日でさえ、俺におしゃぶりをつけていた。
『ああ、ちひろちゃん、ママに甘えてる。レイ姉ちゃんにも、甘えていいよ。』
ここは、天国だ。癒される。
最強の男として君臨していた俺が、今ではちひろというベビーになってしまった。しかも、女の子だ。第二の人生を歩んでいるような錯覚を抱いている。しかし、さすがに今日は疲れた。彩先生の許可をもらい、体をリセットするため、元の自分に戻った。




