鬱憤①
俺が拐われたということを聞いて、かすみは半狂乱のように泣いていた。
『ちひろちゃんが拐われたあ、、。彩さん、どうすればいい?警察に届けた方がいい?』
『かすみさん、ちょっと冷静になりましょう。確かに、ちひろちゃん、赤ちゃんだわ。でも、よく考えてね。正体はヒロ君よ。ヤクザが何人いようが、軍隊が相手だろうが、負けないわよ。拳銃で撃たれても死なないし、空飛んだり、変身したり、、、ね。』
『そうだったわね。私、赤ちゃんの母親の気持ちになってた。』
かすみは、ようやく泣き止んだ。しかし、一番怒っていたのは、レイであった。
『もっと、ちひろちゃんと遊びたかったのに。レイ、ちひろちゃんを連れて行った人、許さない。』
『レイちゃん、大丈夫よ。ちひろちゃんは、無事だから。さっき、連絡が来たのでね。でも、一つだけ心配なことがあるので、わたくし、現場に行ってみます。かすみさん、これ受け取って。』
彩は、鞄から何やら取り出して、かすみに渡した。
『これって、もしかして。』
『そう、分身仏よ。3人いるわ。命令すれば、何でもするのよ。今は、鞄の中に入るサイズですけど、ヒロ君の分身なので、いくらでもサイズ変更できますから。護身用に二人、それと帰りのドライバーに一人使って。わたくし、ちひろちゃんを連れ戻しに行って来ますから。』
『ああ、小さいボンちゃんだ。可愛い。』
レイの機嫌が戻った。
『高い、高い、高い、、、』
『ケタケタ、キャッキャッ、、、』
組長は、俺と遊ぶのが楽しいようだ。俺は、怖そうなヤクザの親分が楽しそうな顔をしているのを見て、面白くて、キャッキャッ笑っていた。そんな二人を姉さんが写真に撮っている。
『ねえ、見て見て、よく撮れてるでしょ。本当の親子とみたいよ。』
そう言われ、ますますご満悦な組長。子分たちは、ニヤニヤ笑うしかなかった。
ダンダン‼️
扉を叩く音がした。外で男の悲鳴がする。扉を開けると、ボロボロになった男が投げ入れられた。
『ア、アニキ、申し訳ない。』
あっ、俺を拐った佐田という男だ。ということは、もう来ちゃったかな。
『返すよ、この男。その代わり、赤ちゃん戻しな。』
やっぱり、彩先生だ。なんだ、もうちょっと組長と遊びたかったのに。
『あっ、この女です。俺ら2人に恥じをかかせたのは。バカじゃねーの。女一人でヤクザの事務所に乗り込むなんて。助けてーと叫んでも誰も助けに来てくれないぞ。』
『バカはお前たちよ。。何か勘違いをしているようね。わたくしは、あなたたちを助けに来たのよ。』
まったく動揺さない彩を見て、逆に若い子分どもがざわついている。ベビー服を買ってきた「健くん」が、ナイフを俺の首に当てがった。
『赤ちゃんの命が惜しければ、姉ちゃん、服を脱いで裸になりな。そして、俺たちに土下座して謝れ。』
形勢逆転かと思われたが、彩は動じない。
『さっき言ったこと聞いてないの?わたくし、あ、な、た、たちを助けに来たのよ。赤ちゃんを刺したければどうぞ。でも、知らないわよ。あなた命無くすわよ。』
坂田が動いた。
『姉さん、なかなか度胸があるな。褒めてやるよ。でもな、俺らもこの稼業をしている以上、舐めらるわけにはいかんのよ。さあ、とっとと服を脱ぎな。命まで取らないぜ。』
さすがはアニキ、といった感じだが
レベルが違いすぎる。こりゃあ、完全に俺の出番はないな。
『バブバブ、バブバブ。』
俺は、ナイフを持ち俺を抱えている男を見つめた。
『なるほどね。ヤクザ稼業ね。それでしたら、業界紙とかお読みになってる。今週の「裏世界新聞」読んだ?世界最恐暗殺者ランキング1位の記事、お読みになった?』
ざわつく、互いに顔を見合わせる。奥に控えている組長が声を出した。
『魔人バブーだってよ。バブーの声を聞いたら命はないとさ。下らねえ記事だ。』
『お気に召さなかったようね。わたくしの記事。せっかく新聞で忠告して、ここでも忠告してるのに。わたくし、どうなっても知りませんよ。』
『おい、その女取り押さえろ。』
坂田が叫んだ。男数人が彩先生を取り押さえようとしたが、捕まるわけがない。さらりとかわして逃げていく。ところが、こぼれた飲み物に滑らせ、足を取られたとき、偶然、男のパンチが顔に当たり、彩先生が倒れた。彩先生の顔が腫れている。あの完璧な顔が歪んでいる。
『バブバブ、バブバブ』
俺の声が響く。体から黄金のオーラが一気に発する。首に当てられたナイフが溶けていく。ナイフを持っていた男にオーラが当たる。男は瞬時に蒸発した。
『バブバブ』
俺の体が大きくなる。体が触れるもの全てを破壊する。
『魔人バブーだ。』
誰かが叫んだ。俺は、朝の二人を見つけた。目からビームを出して切断。坂田を捕まえた。顔の上に座り、窒息。彩先生の顔を殴った男を探す。テーブルの下に隠れているのを発見。テーブルの上から千手観音。ズタズタに引き裂かれるテーブル。そのまま、男も千手観音の餌食。残ったのは組長と姉さん。
『パ、パ、』
そう言って、高い、高いしてあげた。恐怖の顔をしている組長。姉さん、お漏らししている。組長を下ろし、姉さんにはタオルをかけた。
『バブバブ、バーブーー!』
『もう、おやめなさい。』
彩先生の声で、俺は暴れるのを止めた。そして、ちひろに戻った。
『組長さんと、そこの姫君、貴方たちは、ベビーに優しかったのかしら。魔人にも心はあるのよ。二人は生かすことにしたみたい。だけど、組長さん、悪さをすると、すぐにまたやってくるわよ。空からね。』
俺は、宙をゆっくりと旋回した。ああ、鬱憤が晴らせた。




