転換
『でもね〜。やっぱりヒロ君は、男の子だから、ちょっと可哀想かなあ。』
『それが普通の考えよね。わたくしも、状況が普通なら、何にも申し上げませんのよ。全ては、レイちゃんを守るためという使命があるからなの。わたくしが、ヒロ君と話するわ。』
なんだか、俺のことでもめてるようだ。彩先生の手が伸びて来た。俺をベビーカーから抱き上げ、公園の芝生の上にシートを敷き、その上に寝かせた。
『ヒロ君、あなたの役割はもう分かってるわよね。』
『バビブブ、アアバア。』
『ちょっと待ってね。おしゃぶり取りますから。』
『彩せんせ、、、彩姉ちゃん。もう自分の使命は理解してまちゅ。』
『あら、ヒロ君、ちゃんと赤ちゃん言葉を話せてるね。偉いわ。偉いヒロ君に、もう一つお願いがあるんだけど、やっぱり無理よね。いくら世界最強でも、これは出来ないよね。』
『なんでちゅか?おれに出来ないことなどないでちゅよ。』
『こら!「俺」なんて、言葉遣いはダメよ。』
『ああ、ごめんなさい。でも、僕、何でも出来まちゅ。何をすればいいのでちゅか。遠慮ちないで、平気です。』
『転換よ。』
『転換?それって、なあに?』
『性転換。分かる?』
『性転換って、まさか女の子に変身するっていうこと?』
『ね、いくら世界のヒロ君でも無理よね。』
彩は、ヒロの天狗になっている自尊心をくすぐっているのだ。
『彩姉ちゃんは、変身が得意ですが、性転換もできるのですか?』
『わたくしには、そこまでの能力はありませんわ。だから、やはり、ヒロ君にも無理よね。わたくしに出来ないことが、ヒロ君に出来るわけないわ。このことは、忘れてね。』
彩先生にも出来ない技かあ。これが出来れば、世界初ということになる。俺なら出来るかもしれない。ここは、俺の凄いとこを彩先生に見せつけて、いっぱい褒めてもらうチャンスだ。
『彩姉ちゃん、僕、やってみる。でも、出来るかどうかは、わからないけどね』
本当に、操りやすい性格なんだから。彩はかすみに、ウインクした。
さてさて、どうすれば性転換の変身が出来るのか。体を大きくする、小さくするのとは訳がちがう。体の構造そのものが違うのだから、全く分からない。俺は公園の芝生の上で寝転んだ状態で瞑想に入った。
かすみとレイは、彩先生が見ているから大丈夫だ。30分ほどの瞑想でヒントを得た。以前、小さくなった体で、籠の中に閉じ込められた時、「ここから出たい」という願望では、その目的が達成できなかった。「かすみに会いたい」という愛の力で克服した。今回も同じ手法でチャレンジしてみることにした。つまり、女が好きだとか、女になりたいなどでは、絶対に目的は達せないと判断したのだ。
俺は目を見開いた。
『バアアアアアア、、、バブー!』
俺はかすみを守る、レイを守る、世界平和、そのために変身する、、、そう強く念を入れ、気を集中させた。俺の体は、黄金のオーラに包まれ、空に稲妻が走った。体の組織が分解され、そして再構築されていく。意識が遠のいていく。
『バブバブ、はあ、はあ、、、』
俺は気絶した。
人が駆けつけてくる音で目が覚めた。かすみと彩、それにレイちゃんもいる。
『バブバブ、、』
『ヒロ君、おしゃぶりつけてないよ。』
レイちゃんに言われて気がついた。いけない。完全に癖になっている。
『彩姉ちゃん、やってみたけど、変身出来てるかなあ。』
俺は自分で言ったことの重大性に気づいていなかった。
『どれどれ。』
彩先生が手を伸ばしてきた。
パチン。パチン。バリ。バリ。
この音は、オムツを開ける音だ。ここは、公園の真ん中。すでに昼ごろなのか、人もいっぱいいる。まさか、ここで、裸にされるのか。
『やだよ。恥ずかしいよ。』
彩先生に、そんな言葉は通じない。すかさず、口におしゃぶりを入れられた。俺は抵抗しようと、両手と両足をバタバタさせたが、赤子の力は非力だ。大人の力で、あっという間にお股をオープンさせられた。
『かすみさん、レイちゃん、見てごらん。ヒロ君のおちんちん無くなってるわ。女の子への生まれ変わり成功したみたいよ。』
『本当だあ。弟から妹に変わっちゃったね。』
喜ぶ二人に対して、かすみは複雑な思いでいた。
『彩さん、ヒロ君、元に戻れるのかしら。』
えーっ、とんでもない発言を聞いて、心臓がバクバクしている。
『大丈夫よ、かすみさん。これは、あくまでも変身ですから、本来の姿は変わらないです。本人が戻りたくないというなら、別ですけどね。』
かすみはホッとした顔をしていた。俺は、もっとホッとした。というか、いつまで、大衆の面前で裸でいないといけないのか。やっぱり恥ずかしい。俺は、手足をバタつかせ意思表示をした。
『かすみさん、オムツを宜しくね。わたくしは、ヒロ君のオーラを見てた人の記憶を操作してきます。』
かすみが、優しくオムツをしてくれた。ベビー服を着せて、頭を撫でてくれている。
『ヒロ君、私たちのために、無理させてごめんね。』
そう言うと、大粒の涙を流し始めた。
『バブバブ、ウウバブ。』
かすみが、おしゃぶりを取ってくれた。
『俺は、いつでもかすみの味方だ。かすみの為に生まれてきたのだから、このくらい平気だ。こんな姿だか、ピンチの時は、すぐ呼んでくれ。俺は世界最強。そして、世界で一番、君を愛している。』
かすみが抱きしめてくれた。
『こんな言葉遣いを彩先生に聞かれたら、ぶっ飛ばされてしまう。言葉遣いを直さないといけない。教えてくれるね。』
『もちろんよ。私も、いつだってヒロ君の味方よ。』
『レイも、ぽんちゃんの味方よ。』
『ふたりとも、ありがとう。では、赤ちゃんに戻るぞ〜。ママあ、おのど、かわいたあ。』




