嘘か誠か①
もう、恥ずかしくて仕方がなかった。かすみやレイのいる前で、彩先生から散々からかわれた。ほとんど赤ちゃん扱いされた。彩先生の本当の年齢は127歳。それを考えれば、俺など赤子同然だけど。
『さあ、テストも終わったので、わたくしは北朝鮮に戻りますね。その前に、AGUに寄ってこうかしら。
「I am a dog. 」こんな面白い話は、なかなかない。早く、誰かに伝えたいわあ。』
『ちょっと待って下さい。お願いですから、誰にも言わないで下さい。恥ずかしいですから。』
『えー、こんな面白い話を秘密にするなんて、もったいないわ。』
ああ、ダメだ。この話はあっという間に広がる。身から出た錆だ。仕方ないか。
『もう、なんでこうなるんだあ。犬になったり、IQ25で4歳の知能と言われたり、あああああ、もう4歳でなくても、0歳でも1歳でもいいや、もう、どうでもいい。』
俺は完全にふてくされた。彩は、笑っている。そして、かすみの耳元で囁いた。
『かすみさん、このことは誰にも言わないから安心してね。でも、ヒロ君をからかうのは楽しいから、やめられないわ。わたくしの可愛い弟だから。』
『彩さん、本当はやはり嬉しいんですね。』
かすみは、ホッとした。彩さんは、弟であるヒロを可愛がっている。ヒロが反発するから、それを楽しんでいる。なんとなく、その気持ち、分かるような気がした。
俺の戯言をレイは聞き逃していなかった。
彩は北朝鮮に帰った。俺は「I am a dog. 」が、櫻井に伝わり、中川総統に伝わり、いずれ、皆に伝わるのではと心配していた。もしも、その件で俺をからかう者がいたら、俺の恐ろしさを思い知らせてやる。彩先生は、例外だが、、、。
『ぼんちゃん、来て。』
久しぶりに、レイちゃんからの呼び出しだ。しかし、今日、呼び出された場所は、かすみのマンションだ。行っていいものかどうか迷ったが、呼び出されたからには、行かざるを得ない。俺は、すぐに飛んだ。
『はーい、レイちゃん。呼んだかな。』
『うん。遊ぼうと思って呼んだの。』
『ママは、いないの?』
『お買い物に出かけた。でも、すぐに戻るって。』
とりあえず、部屋を出て、公園にでも散歩するのが得策だと思った。
『ねぇ、ぼんちゃん。また、小さくなって。』
えっ、今度は何をするつもりなのか。もう、ザリガニとの戦いは、ゴメンだ。
『どうして、小さくしたいの?』
俺はストレートに聞いた。
『おままごとをしたいから。』
なるほど。こんな大男相手では、リアルさに欠けてしまうのは無理はない。相変わらず、レイちゃんは素直でいい子だと思った。
『いいよ。で、今回はどれくらい小さくなればいいかな?』
『えーとねぇ、これくらい。』
レイが、両手を広げて、大きさを示した。だいたい50cmくらいだ。
『オッケー。
はあああああああああ、はあ!』
俺の体が徐々に小さくなり、レイの指示の大きさで止めた。
『これでいいかな。』
『うん。いいよ。ぼんちゃん、赤ちゃんね。』
『えっ、赤ちゃん?』
『ぼんちゃん、0歳になりたいって、この前言ってたよ。』
あのときだ。彩先生から、散々からかわれて、そんなような愚痴を言ったかもしれない。レイちゃんは、それを覚えていたんだ。純粋な心を傷つけてはいけない。俺は、しばらく、おままごとに付き合おうと思った。
俺は座布団の上に寝かされた。普段、お人形さん相手にやっているだろうおままごとを、生身の人間相手でやろうというのであるから、レイのテンションが上がっているのが分かる。タオルをかけられ、お腹をトントンされている。俺は何もすることがない。うとうとしてきた。
ガチャ!
ドアの開く音がした。
『ただいまあ。レイ、いい子にしていたかな。』
かすみの声だ。かすみが帰ってきた。どうしよう、なんだか恥ずかしい。
『ママぁ〜、お帰りなさい。ねぇ、見て見て、レイの赤ちゃん見て〜。』
『???』
かすみは、何のことか、さっぱりという感じであった。こっちにやってきた。
『何これ。レイ、どうしたの?この赤ちゃん。』
『ママ、よく見て。ぼんちゃんだよ。』
レミは、ニコニコしている。
『あっ、本当だ。ヒロ君だ。かわいい。』
『ぼんちゃんにお願いして、おままごとやってるの。凄く楽しいよ。』
かすみが俺を見ている。近づいて、手を伸ばしてきた。俺はかすみに抱かれた。
『よしよし。ヒロ君、かわいい。』
なんだか幸せだ。
『だめー、レイの赤ちゃんだもん。』
『はいはい。』
俺は再び寝かされた。




