もう一人の天才②
ああ、疲れた。点数が悪くても悔いはない。気分はさっぱりしている。レイがやってきた。
『ママ〜、ねえねえ、レイ、ぼんちゃんの真似出来るようになったよ。』
レイがかすみに甘えている。いいなあ〜、レイが羨ましい。俺もかすみに甘えたい。
バシッ‼️後ろから頭をはたかれた。
彩先生だ。
『この、エロオヤジが。』
『彩ねえちゃんも見て見て、ぼんちゃんの真似。 はああああああ、はあ!』
両手を素早く動かしながら、本を読んでいく。千手観音の技だ。
『レイ、どうしたの?』
かすみが心配な顔をした。
『ぼんちゃんを見てて覚えたの。レイ、ぼんちゃんの速い動き、全部見えるんだあ。』
『レイちゃん、すごいね。だけど、これはお友達の前では、見せてはいけないよ。お友達がビックリしちゃうから。』
彩が優しく諭した。
『はーい。秘密にするんだあ。』
一番驚いていたのは、ヒロだ。俺の動きを見切っている。そういえば、以前、誤ってお漏らししたときも、素早い動きを見られた。彩先生でさえ、確認できないほどの速さなのに。レイちゃんは、俺よりも能力が高いと言わざるを得ない。やはり、一緒にテストを受けていたら、負けていたかもしれない。
『テストの結果が出ました。』
彩がニヤニヤしている。嫌な予感がする。
『ヒロ君の点数はゼロ点です。IQは最低レベルの25。4歳児の知能という結果です。』
彩の笑みが止まらない。実は、この4歳という年齢が、後日、ヒロの運命にかかわるのである。
『ヒロ君、残念でした。』
怒るかと思ったのに、笑っている。
『せ、せ、先生。そんなはずないです。俺、テストの手応え、かなりありました、ゼロ点なんて、ありえないです。』
俺は、大声で抗議した。
『あら、ヒロ君たら、往生際が悪いわよ。よしよし、お子ちゃまだから、仕方ないかな。』
『そんなあ。』
俺は涙目になってきた。
『彩さん、本当に間違いないのですか。ヒロ君、かなり本気で取り組んでいましたけど。』
かすみは優しい。かすみだけは、いつも味方だ。
『簡単な話よ、かすみさん。このテストに記名がされてないのよ。どんなテストでも記名なしの場合は、無効になるものでしょ。』
俺は、さらに強く抗議した。
『彩先生、俺は名前欄に記載しました。間違いなく記載しました。名前が書かれていないなど、ありえないです。』
彩は、まだ笑っている。過去の経験から、笑いは余裕に繋がっている。
『じゃあ、お聞きします。氏名欄に何と、お書きになりましたか。』
よし、ここははっきり言っておこう。
『I am a god. そう、はっきり書きました。俺は神だ。』
彩が答案を手にした。
『かすみさん、これ見て。ヒロ君がおバカさんの証拠よ。』
かすみは、答案を受け取った。
『ギャハハハ、ウゥ〜苦しい。』
かすみが大声で笑いだした。
『ねえ、これでは、ゼロ点にするしかないでしょう。かすみさん。』
彩も笑っている。
『もう、ヒロ君ったら、笑わせないでよ。面白くて死にそう。』
かすみの笑いが止まらない。俺にはさっぱり分からない。俺の答案におかしい所があるのか。
『かすみ、彩先生、何を笑ってるんですか。こっちは真剣なんです。』
俺は不愉快になってきた。俺が怒っているのを見て、レイがやって来た。
『ぼんちゃん、どうしたの。いじめられちゃったの。』
ああ、いけない。冷静にならないと、レイまで心配させてはダメだ。
『大丈夫だよ。怒ってないし、いじめられてもないからね。お話してるだけなんだあ。』
レイの様子を見て、かすみも彩も笑うのをやめた。
『ヒロ君、これ見てごらんなさい。あなたが書いた答案の氏名欄。』
俺は、自分の書いた氏名を確認した。
『I am a god. これに何があるというんですか。』
かすみも彩も、また笑いだした。
『ホントにおバカさんなんだから、まだ気がつかないの?よく見てごらんなさい。スペルが違ってるわよ。』
俺はもう一度、氏名欄を見た。
『I am a 、、、dog. 』
えっ!書き間違えている。俺は神だ、ではなく『犬だ』になってる。
猛烈に恥ずかしくなってきた。顔が赤くなるのが分かる。
『ヒロ君、何か反論あるかしら。』
彩が勝ち誇ったように話した。
『いいえ。ゼロ点を認めます。』
レイが答案を覗き込んできた。
『ねえ、彩ねえちゃん。ぼんちゃんのテスト、全部「丸」になってるよ。だから、0点なの?』
それを聞いて、かすみも覗き込んで来た。
『本当だ。凄い。全問正解だわ。』
かすみが驚いている。彩先生が怒っていない理由が分かった。
『実は、そうなのよ。もし、きちんと氏名が書かれていたなら、満点でした。IQテストで満点など、普通はありえないことよ。今回のヒロ君を含めると、満点を取ったのは過去に2名だけです。一人は、わたくしですけどね。』
『凄い。彩さんは、天才なんですね。』
かすみは、再び驚いた。しかし、満点を取ったと聞かされても、ヒロは喜べないでいた。
『ああ、ふざけないで、普通に名前を書けば良かった。』
『そうよ、ヒロ君。あなたは、お調子者。真面目さが足りないの。真面目さ、それは純粋さと言ってもいいわ。レイちゃんを見習うことね。』
確かに、反省する必要がある。テストの件は、潔く諦めよう。
『でもね、正直、わたくしは嬉しかったの。ついに、わたくしの記録に並び、そして追い越してくれた人物が現れたから。そして、それが自分の弟子なのですから。』
彩は、にっこりと笑った。
『ヒロ君、今回のテストの結果から、あなたの推定IQは292です。もちろん、現在の最高です。過去にはジョン・フォア・ノイマンという天才がいました。コンピュータを思いつき、開発した人です。彼のIQは300と言われていますが、実際には計測されていませんので、実質、ヒロ君が一番です。』
なんだか、褒められたら、急に嬉しくなってきた。やはり、俺は天才だ。そして、神だ。ニヤニヤしている俺を見て、彩先生は釘をさした。
『ほらほら、かすみさん、そこのおバカさんが、もう天狗になり始めてるわよ。きっと、「俺は神だ」なんて、考えてるのよ。』
俺は、再び顔を真っ赤にした。
『ぼんちゃんは、やっぱり凄いね。また、遊んでね。』
レイは、可愛い。
『ヒロ君、素敵、好きよ。』
かすみは、優しい、そして綺麗だ。
『でも、ヒロ君。テストの結果はゼロ点ですから。IQは25。4歳の知能レベルと記録されます。』
彩先生は、厳格な人だ。もうちょっと、融通が効いてもいいと思うんだけどなあ。と心に思った瞬間、、、
バシッ‼️
平手打ちをされた。
『ひろちゃん、4歳の知能だからといって、甘えちゃ、ダ、メ、よ。』
今度は頭を撫でられた。




