二人の天才
1ヶ月が過ぎた頃、かすみのもとに一本の電話が入った。日本メンサ協会の長瀬という女性である。先日、受験したIQテストの件で、伝えたいことがあるらしい。かすみは、レイを連れて、日本メンサ協会に向かった。
メンサとは、IQの高い人だけが入会できる協会である。受験者の上位2%のみに資格が与えられる。簡単に言うと、天才の証明書をくれるところだ。
『大沢さんですね。お待ちしておりました。こちらへどうぞ。』
通されたのは、応接室らしき部屋である。
『ママぁ、このソファー、ふかふかで気持ちいい。』
レイはソファーの上で飛び跳ねて、はしゃいでいた。
『こら!レイ、おとなしくさなさい。』
かすみが叱ると、ほぼ同時にドアが開き、先ほどとは違う女性が入ってきた。
『長瀬と申します。本日は、お忙しい中、お足を運び頂いて有難うございます。このお嬢さんが、レイちゃんかな。』
長瀬は笑顔を見せた。
『それて、伝えたいこととは、どうなことですか。』
『まずは、レイちゃんについてです。結論から申し上げますと、今回のテストで算出されたIQは198です。』
かすみは、言っている意味が分からなかった。
『それって、どういうことですか。』
『東大生の平均が140から150と言われてます。160あると、いわゆる天才と呼ばれます。つまり、お嬢さんは間違いなく天才だということです。今回受験された方々の中でも、断トツのトップです。』
長瀬は興奮している。
『そ、そ、そうなんですか。』
『今回のテストというより、日本、いいえ、世界でもトップクラスだと思われます。もちろん、メンサの入会資格はクリアしています。』
『信じられないんですけど、、、』
確かに、まだ3歳の子供である。
長瀬は続けた。
『それで大沢さん。レイちゃんですが、アメリカに留学させてはいかがでしょうか。3歳でも、決して早いわけではないです。』
『留学ですか。それは、ちょっと、』
『金銭面は心配なさらなくて大丈夫ですよ。これだけのIQがあるのですから、スポンサーは何人でも付きますわ。当協会も、全面的にバックアップさせていただきます。』
『そう、言われても、、、少し、考えさせて下さい。』
『そうですよね。返事は急ぎませんから。それと、同時に受験なされた方がいらしたと思うのですが、ご年配の男性で、赤崎さんという方ですが。』
『ええ、レイと一緒に申し込みして、受験しています。彼がどうかしましたか。』
再び、長瀬は興奮し始めた。
『最初、冷やかしで受験をしに来た、おじさんだと思いました。あっ、失礼。男性だと思いました。結果も悪く、IQ81です。』
ああ、これ聞いたら、ヒロ君、がっかりして落ち込むなあ。彩さんから、レイに負けたと冷やかされると思うし。
『大沢さん、私も、そこそこのIQを持っているのよ。で、レイちゃんと一緒に受験したおじさんが、いえ、男性が、こんな点数ありえないと思って、答案を検証したのです。そしたら、途中までは、完璧。ところが、途中から解答欄を一段抜かして書いてしまったようで、ほぼゼロ点でした。それに気がついて、解答欄を正しい位置にして、採点し直したところ、最後の5問を残して、全て正解でしたの。』
『レイ、どうしてか知ってるよ。ぼんちゃん、途中で、おなか痛くなって、トイレに行ってて、30分くらい、いなかったんだあ。』
それを聞いた長瀬の顔色が変わっていくのが分かった。
『レイちゃん、それ本当なの。』
『本当だよ。トイレから戻ってから、すごい速さで、テストやってたよ。でも、5分くらいしか時間なかったから、全部できなかったんだって。』
『時間があれば、解答欄の記入ミスに気がつき、さらに全問正解の偉業を達成していたのね。』
長瀬の興奮は冷めることはなかった。
『それで、IQを算出し直しました。驚くべき結果が出てしまって、当協会もどうしていいか分からなくなって、アメリカの本部に問い合わせたのです。そしたら、「その男は本物の天才であることは間違いない」という回答が来ました。それで、正式にIQを認定しました。222。これが結果です。』
数字を聞いても、ピンとこない。それが、凄いことなのかも分からない。かすみの反応がないので、長瀬は、ちゃっとがっかりしながら、続けた。
『大沢さん、アインシュタインはご存知かしら。彼のIQは180よ。レオナルドダビンチが190と言われてます。レイちゃんも彼らを超えてるけど、赤崎さんは、さらにその上。日本の歴史上、1位と2位が同時に誕生したのよ。』
『長瀬さん、今の話が本当なら、留学の話は、お断り致しますわ。なぜなら、レイの教育をしてるのが、ヒロ君、あっ、赤崎さんなの。赤崎さんより、IQの高い人がアメリカにどれくらいいるのかしら。私は、赤崎さんを信用してるし、レイも彼を頼ってますから。』
長瀬は、ちょっと残念な顔をしたが、さすがは頭の回転が速い女性だ。すぐに考えを改めた。
『そうね。大沢さんの言ってることは、正しいですね。でも、必要な時は、ご遠慮なさらずに言ってきてね。』
『ありがとうございます。』
『レイちゃん、おじさんは、優しい?』
『うん。優しいよ。そして、強いよ。』
『そう。良かったね。それにしても、赤崎さんは、誰に教育されたのでしょう。』
『彩ねえちゃんだよ。』
レミがすかさず答えた。
『彩ねえちゃん?彩ねえちゃんは、おじさんより頭いいのかな?』
『うん。ぼんちゃん、いっつも彩ねえちゃんに怒られてる。ママにも怒られてるよ。』
『こら、レイ、何言ってるの。』
かすみは顔を赤くした。
かすみは長瀬にひとつお願いをした。ヒロのIQの結果を81でも222でもなく、レイより少し下の190にして欲しいと伝えた。81では、しょげるし、222だと天狗になるし、190なら、本人も満足顔で、
『ちゃんと受けたらレイちゃんより高かったはずだ。』
とか、言うに違いないと思ったからだ。長瀬は快く引き受けてくれた。
一週間後、彩が来ていた。
『かすみさんに呼ばれたのよ。ヒロ君、IQテストを受けたんですって。どうして隠していたのかしら。』
そんなの決まってるじゃないですか。レイちゃんより下だったら、ボロクソにけなすでしょ。
『ちょっと色々あって、言うの忘れてました。』
『まあ、いいでしょう。それより、核爆弾の件、ありがとう。無事、ソウルで見つかり、処理も済みましたわ。それより、なぜ、直ぐに帰ったの?食事でもして、お話したかったのに。どうして?教えなさい!』
なんか、やばい雰囲気だ。
『えーと、ちょっと色々ありまして、、、』
『ヒロ君。』
パシッ‼️平手打ちだ。
『どうして、言い訳をするの。はい、すぐに正座!』
ああ、心を読まれる。
『素直に、正直に話せばいいのに。わたくしを助けに来た時、IQのテスト中だったのね。こっちにおいで。』
あっ、彩先生が、優しくしてくれるのかなあ。
『ヒロ君、ありがとうね』
そう言いながら、頭を撫でてくれた。彩先生に褒められると嬉しい。
『でもね、3歳のレイちゃんに負けたら、許さないからね。あなたは、わたくしの弟子なのですから、負けは許されないのです。例え、どんな事情があろうとも、勝たなければダメです。』
やばい、これはやばい。いつも、ここぞと言う時に、レイには負けている。レイは天才だ。負けるかもしれない。




