邪気②
俺が出した指令は次の通りだ。まず、集中管理室の警備員の身柄を拘束。赤外線センサーを、OFFにする。人質を助け出す。人質一人に対し、分身仏一人が対応する。分身仏の人数が足りない場合は、増やして良い。人質を彩先生のところに運ぶ。全ての人質を運び終えたら、報告をし、速やかに瞬間移動で戻る。
すぐに実行するよう、指示を出した。その間、俺は10階に不穏な動きがないか、見張ることにした。
40分ほどで、分身仏が次々と帰って来た。計画通り、人質の救出が終わったのだ。俺は、扉のドアを開けた。部屋の奥で、何も知らずに談笑している男が3人いた。俺は奴らの方に、ゆっくりと近づいた。邪気は、やはり近藤から出ている。他の2人は、ただの子分ってところだ。10mあたり手前で、やっと俺に気がついたようだ。その慌てぶりが伺えられる。子分の1人が、何やらボタンを押した。天井から分厚い強化ガラスの壁が降りて来た。男らはホッとしている。俺は、その壁を瞬間移動ですり抜けた。さっきの男が、今度は、別のボタンを押そうといしている。
『近づくな。近づけば、人質の命はないぞ。このボタンを押せば、人質を閉じ込めた部屋が爆破されるぞ。いいのか?』
『俺には関係ない。よお、近藤、久しぶりだな。戦うか、逃げるか選べ。』
『なんだ、ヒロじゃねえか。弟分だから、特別に見逃してやる。ここから出て行け。』
近藤は叫んだ。そして、俺に向かって邪気を放出した。俺は邪気を浴び、体が粉々になった。
『正義をかざして、ぬけぬけとやってくるのが悪い。地獄で反省しろ。』
近藤は、大声で叫び、大声で笑った。
子分の2人は、俺の粉々になった体を片付けようと近づいたとき粉々の体が、それぞれ黄金に輝き始めた。目が開けられないほどの、輝きの中から、数百体の俺の分身が復活した。そして、2人を取り囲んだ。俺自身は、近藤の後ろに立っていた。
『近藤よ。お前の力で、俺を倒すことは出来ないぞ。そこの2人。田中と野々村だったかな。俺は神だ。お前らにも、選択させてやろう。近藤の部下のままでいるか。神の言うことを聞くか。今すぐ、選べ。』
ガタガタと震える田中と 野々村。小さな声で、震える声で答えた。
『か、か、神に従います。』
『それでよし。お前らの命は救われた。さて、近藤、お前はどうする。』
この状況でも、近藤は動じない。
『ヒロ、俺を甘く見ない方がいいぞ。俺にはまだ奥の手がある。泣くのは、俺ではない。お前だ。』
バカな男だ。お前の考えは、全て読んでいる。核ミサイルを発射すると言って、俺を脅すつもりだ。すでに、分身仏を数名、ミサイル発射基地に待機させている。何の問題もない。
『確かに、以前の俺は甘かった。あのとき、修行場から追い出すだけで、お前を抹殺しなかったこと。甘かった。後悔している。だが、今日はどうかな。俺は何があろうと、お前を抹殺する。さっきの言葉、そっくり返してやる。地獄で反省しろ。』
俺は近藤の体を掴とうとした。近藤はするりとかわした。その辺は、さすがだ。
『ヒロ!とにかく、ここから立ち去れ。さもなくば、俺はこのボタンを押す。何か分かるか。核ミサイルだ。照準は東京にしてある。お前の最愛の人の命もないぞ。』
『なるほど。やれば。勝手に押せばいい。俺には関係ない。押そうが押すまいが、俺はお前を抹殺する。』
俺は黄金のオーラを大きくした。近藤は俺の本気を悟ったようだ。
『後悔しろ。』
そう言うと、核ミサイルのボタンを押した。
しかし、ミサイルが発射されることはなかった。ミサイル基地に待機していた分身仏が、基地を破壊したからだ。もし、ミサイルが発射されたなら、俺がミサイルに抱きつき、そのまま瞬間移動で宇宙に向かうつもりであった。
『近藤、さらばだ。』
俺は黄金のオーラで、近藤を包んだ。近藤は焼かれ、尽き果てた。
『行くぞ。』
俺と分身仏、それと田中と野々村は、建物の外に出た。
『レッドシャトー、お別れだ。』
俺は気で、建物を爆破した。
『帰るぞ。』
俺は瞬間移動。分身仏を2人残し、田中と野々村は、分身仏とともに朴正恩が待つ、屋敷に飛んだ。
今回のことで、俺は新たな考えを思いついた。日本に帰ったら、試してみたい。
一仕事を終えて、ホッとしたら、愛するかすみに会いたくなってきた。
彩先生の元に戻った俺は、忠舍定、つまり近藤仁を始末したこと、政府関係者の人質を解放したこと、ミサイル基地を破壊したこと、田中と野々村を確保したこと、を説明した。
『ヒロ君ありがとう。CIAも、喜んでいたわ。これで、この国も変われば嬉しい。』
『田中はコンピュータ、野々村は危機管理の専門家だ。使える人材だ。この国に残し、櫻井の下で働かせることにした。それと、人質救出は、朴正恩の計画のもと行われたことにしてくれ。政府関係者は、朴に感謝をし、朴のために働くことだろう。朴の心に変化が現れれば、この国も変わるはずだ。いや、変わらなければならない。』
『ヒロ君、立派になったわね。もう、わたくしを超える存在になったかしら。わたくしは嬉しいです。』
あの恐ろしい彩先生に、優しい言葉をかけられて、俺は照れくさくなった。でも、嬉しい。
『ちょっと、ヒロ君。恐ろしいって、どういうこと?』
バシッ‼️
思い切り、平手打ちをされた。
彩先生は、変わっていなかった。




