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邪気①

 俺は彩先生に聞きたいことがあった。

『彩先生、今日の俺のメッセージは、朴正恩の心に響いたと思います。変われると信じてます。ただ気になることがあるのです。』

俺はあることに気づいたのだ。

『ヒロ君も気づきましたか。』

『はい、何か変です。朴正恩には、この国のことは何一つ知らされていない。この国の政策には関わっている気配が感じられません。支配者は、朴正恩ではないですね。そして、その支配者は守られている。俺らのような能力者に。』

『さすがですね。その通りです。わたくしも、CIAもその事実を掴んでいます。その支配者にとって、朴正恩は、何もしないことが都合がいいのです。』

『支配者の正体は、誰なのですか?』

ちゅう 舍定しゃじょう。中国人です。通常PAと言われてます。彼がこの国を牛耳っています。わたくしも、彼には近づくことが出来ないの。CIAの命令で近づくなと。居場所は分かるのですが、異様に強い念で守られているのがわかります。』

つまり、そこで俺の出番というわけか。ARAPの話はお遊びか。しかし、彩先生でも近づけないとは、どんな奴なのだろうか。

『そのPAが能力者なのですか。』

『分かりません。謎に包まれているので、彼なのか、彼の守護者なのか。』

面白い。誰が相手だろうと構わない。悪い奴は、徹底的につぶす。ただ、一つだけ気がかりなのは、ミサイルだ。逃げられないと思ったときに、暴挙に出ることが心配だ。密かに近づき、速やかな解決が必要だ。


 こういう時に必要なのは、やはり情報だ。俺はMr.Tに連絡し、忠舍定について調べるよう伝えた。北朝鮮に入った時から、感じていた気がだんだんと強くなっているのが分かる。俺自身も気を出しているので、警戒して見張っているのだ。Mr.Tからの情報によると、国籍は中国、57歳の男。写真が添付されていた。それ以外の詳しい情報は掴めないらしい。しかし、俺は写真を見て、なるほどと思った。彩先生に写真を渡した。

『これは、仁?』

『そう、俺の兄弟子。彩先生もご存知のはず。近藤仁。』

『仁が、忠舍定?あの男ならありえるかも。』

近藤は、暗殺者としての素質は俺も認めた逸材だ。だが、人間として、ダメだ。他人の心を一切無視する冷酷非道な男だ。人間、そんなに悪い心を持つものなどいない。しかし、近藤は根からの悪だ。ゆえに、俺が修行場から追い出した。この国に入ってから感じた気が、汚れているのに納得した。邪気だ。

 彩先生から聞いた奴の居場所は、平壌から南に50kmほどの山の上にそびえ立つ城で、レッドシャトーと呼ばれているそうだ。CIAでも、彩先生でも近づけないとは、相当用心深く警備しているのだろう。まあ、俺に警備など無駄ではあるが。俺は10人の分身仏に偵察を命じた。罠が仕掛けられている可能性が高い。10人をウイルスほどに小さくした。そして、一気に瞬間移動で、レッドシャトーに飛ばした。彼らからは、随時テレパシーで報告が送られてくる。

 忠舍定。ふざけた名前をつけやがって、破門になったお前が、どれほどの力をつけたのか、楽しみだ。


 分身仏から、報告が入った。城の警備は、地上からの侵入を防いではいるが、空からの侵入は容易いそうだ。城は塔になっており、10階構造の10階に忠舍定、つまり近藤仁がいるそうだ。近藤の側近は2人で、田中と野々村という男だそうだ。近藤ら3人は、怠惰な生活からか、太っており、とても格闘家、暗殺者とは思えないらしい。おそらく、特殊能力だけが頼りと思われる。俺は分身仏に、そのまま待機するように命令した。

 修行時代、近藤は攻撃型の格闘家、暗殺者であった。相手に攻めさせない。一方的に攻めることを得意としていた。それには理由がある。守備力が弱いのだ。いったん攻められると、極めてもろく、たちどころに破れてしまうのだ。近藤の最も得意なことは悪知恵が働くということだ。日本にいては、自分以上の力を待つ人間が多く、トップにはなれないと思ったのだろう。そこで、目に入ったのが北朝鮮だったということだ。中国人になりすまし潜入し、邪魔な奴を一人ずつ消し去り、ついには、この国を裏から操り、甘い汁を吸い尽くしているのだ。奴の頭のいいところは、表に出ずにいるところだ。表は朴正恩に任せておけば、問題なしと考えたのだ。

 分身仏に気がつかないようでは、近藤ら3人は、ポンコツだ。もし、気がつかないふりをしているのなら、どうだ。俺を誘っているということになる。俺の中にある、僅かなスキを狙っているかもしれない。どちらにせよ、用心してかからないといけない。

 翌朝、俺は、彩先生に挨拶をし、レッドシャトーに向かった。瞬間移動ではなく、空を飛ぶことを選んだ。そして、分身仏に連絡をし戻るよう命令した。すぐに10人全員が戻ってきた。

 レッドシャトーは静まり返っている。俺は9階のバルコニーに下りた。邪気は確かに感じる。近藤がいるのは確かだ。逆に俺は自分の気を消した。気配を消したのだ。空いている窓を探し、そこから侵入した。建物の中はヒンヤリとしている。邪気の元へ、ゆっくりと足を進める。階段を上ると、大きな扉があった。邪気はこの中から放出されている。

 俺は扉の前で、瞑想に入った。邪気が強くなってくるのが分かる。ところが、強い邪気の間から、弱い綺麗な気が感じられた。そういうことか。この建物のどこかに人質が捉えられている。おそらく、この国の権力者の家族だろう。卑劣な奴が考えそうなことだ。CIAが手出しできなかったのは、人質がいたからだ。おそらくは、何人もの諜報者が侵入しただろう。しかし、人質を見殺しに出来ずに、自分の命を落としたに違いない。彩先生にストップがかかったのも頷ける。俺は再び、分身仏を10人だした。そして、その10人がさらに、それぞれ10人を出す。つまり、100人の分身仏を送り出した。ウイルスと同じ大きさになり、建物中をくまなく探し、人質を探すよう命令した。弱い気を追うのだ。

 5分ほどで、分身仏から報告が来た。建物の2階から5階に人質が閉じ込められている。警備員はいない。その代わり、赤外線のセンサーが張り巡らされている。1階に集中管理室があり、そこに警備員が二人いるそうだ。

 俺は綿密な計画を分身仏に伝えた。

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