驚愕
北朝鮮に戻って行った彩先生から、連絡が来た。もちろん、テレパシーで。
『大変なことが起きているから、すぐに来て。』
いったい何が起きてあるのか。彩先生が驚くことだから、一大事に違いない。俺は分身仏を一人自宅に残し、瞬間移動した。分身仏を残したのは、かすみとレイの護衛の為だ。
彩先生は、朴正恩の住む屋敷にいる。屋敷の中の指示されたところに、彩先生は待っていた。
『ヒロ君、お久しぶり。なんだか、たくましくなったわね。』
『彩先生こそ、お変わりなく、美しいです。』
『まあ、お世辞も上手になったこと。』
彩先生の機嫌がいい。俺はホッとした。
『彩先生、何かあったのですか。』
『ヒロ君、北朝鮮のテレビとか、ご覧になったことある?』
『いいえ、全くないです。』
『そうよね。では、こちらをご覧になって。録画したものよ。』
俺は、テレビ画面を見た。こ、こ、これは、、、。録画されていたのは、歌番組である。問題は、歌って、ダンスしている人物だ。
『彩先生、こらは、もしかして、』
『そうなの。真ん中で歌っているのが、朴正恩よ。』
朴正恩がレイの力で、心を開き、その性格が変わったとは聞いていたが、ここまで変わるとは、驚きのほかない。
『ヒロ君の目は、節穴ね。よく見て見なさい。朴正恩の後ろでダンスしている男を。』
俺は、もう一度、画面を見た。お前ら、何をしてるんだ。バックダンサーに見覚えがあった。新垣、青木、櫻井の3人だ。
『先生。これはいったい、、、』
彩先生は、笑いながら話し始めた。
『今ね、この国で一番人気のアイドルユニットよ。』
『アイドル?ユニット?』
『そうなの。ARAPっていうの。作詞、作曲は、なんと朴正恩がやってるの。ビックリでしょ。本当に一人で作ってるの。ダンスは、AGUの3人が振り付けを考えてるんだけどね。』
『で、なんで、こんなことになったんですか。』
『日本でレイちゃんと一緒に見たテレビが楽しかった見たい。それで、自分もアイドルになりたくなったんだって。そうなったら、彼は権力者だから、部下にひとこと命令して、あっという間に、デビューしたってわけ。』
何やってるんだ。この国の指導者は。他にやることがあるだろう。俺は呆れ果てた。
『新垣、青木、櫻井も、朴正恩と意気投合したようで、自分の置かれた立場、任務を忘れて、歌とダンスに夢中になってるの。』
俺は頭を抱えた。完全に朴正恩のお守りになっている。
『ヒットチャートで、連続一位を続けてるのよ。』
そんなもん、どうせインチキだろう。朴正恩を一位から落としたら、命がないと思ってる輩ばかりのはずだ。
『それで、俺にどうしろって言うんですか?』
『朴正恩が本当に恐れてるのは、ヒロ君だけ。わたくしも怖いと思われてると思うけど、慣れてしまったようで、最近、言うことを聞かないのよ。心が開いてから、本当の自我が芽生えたようでね。言って見れば、反抗期になった幼児と同じ。反抗するというより、駄々をこねる感じなの。』
なかなか難しい相談だな。しかし、彩先生が困ってるのだから、何とかしないといけない。
『分かりました。なんとかしましょう。ただし、少し考えさせてください。』
俺は、瞑想に入った。
まともな指導者にするために、どうすればいいのか。俺は考えた。騙す、脅す、頼む、、、そんなことをやっても、その場しのぎに過ぎない。俺は、正面から、やつの心に響かせることを選んだ。彩先生に、明日の朝、朴正恩と役立たずの3人を連れてくるように伝えた。
翌朝、朴正恩と3人が待つ大広間に、俺は通された。俺は歩かず、浮いた状態を保った。横には彩先生がいる。正面に朴正恩、後ろに新垣、青木、櫻井が立っている。
『朴、俺が誰だか分かるな。』
すでに、朴正恩は怯えている。
『はい、承知しています。ヒロさんです。そして、神と呼ばれている方です。』
『そうだ、私は神だ。私の言うことは、絶対なり。今日はお前と、後ろの3人を小旅行に連れて行ってやる。』
そう言って、俺は分身仏を4人出した。彩先生以外の4人は驚きを隠せないでいる。
『はあああああああ、はああ!』
俺は体を大きくした。俺を含めて、身長15mの俺が5人揃った。俺は彩先生を、分身仏は、残りの4人は分身仏が手のひらに乗せた。
『さあ、行くぞ。』
俺が声をかけ、5人の俺が空を駆け上がった。俺の考えは、朴正恩にこの国の実態を見せることだ。朴正恩は頭の悪い男ではない。心に響けば、きっと変われるはずだ。なぜなら、レイの優しさ、純粋さを感じ取り、心を開いたのだから。
俺は平壌の街をぐるりと回り、それから農村部に向かった。痩せた土地、まともな作物など育ってはいない。そこで暮らす村人も痩せている。村には電気や、ガスなど通っていない。そのありようを、朴正恩に見させた。隣の村も、その隣の村も、全て同じようなものであった。朴正恩の顔から血の気が引いている。
次に向かったのは、地方の街だ。暴力が支配している。役人、警察官が腐敗している。賄賂がまかり通っていて、市民は余計な税金を払わなければならない。逆らえば、暴力、逮捕。女性ならレイプされ、どこかに売られてしまう。無法地帯だ。誰一人、この状況を改善しようとしない。朴正恩よ、改善できるのは、お前だけだぞ。
最後に向かったのは、ミサイル発射基地だ。ここで働いている人たちは裕福だ。だが、顔は死んでいる。やりたくないことをやらされているからだ。無論、拒否権などない。拒否イコール死なのだ。国の威信という名目で、死の灰を降らせようとしているのは、分かっているのか、朴正恩!
俺らは、元の屋敷へ戻った。朴正恩も、新垣、青木、櫻井も声がなかった。何かを感じてもらえれば、それでいい。
『朴正恩、それと後ろの3人。お前らがダンスと言う名の遊びをしているとき、国民は何を思い、何を考えているのか想像してみろ。彼らは生きることに精一杯だ。彼らを救いたいとは思わないのか。朴、お前はこの国の最高指導者だ。自分の国を最高の国にしてみろ。お前ならできるはずだ。俺は期待してるぞ。』
巨大な俺らは黄金のオーラを放ち、空へ帰った。




