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趣味探しでVRMMO始めました  作者: たぬきちのしっぽ
第一章:VRMMO始めてみました
8/30

007-初日終了-

 ドブラドの講習は、全員の実戦訓練が終わった後に解散となった。

 もちろんすぐに終わったわけではなく、訓練を受けていた最後の一人のHPが回復するまでの間に、パーティのメリットや戦闘スキルなどについて説明された。


「講習を終えたからスキルを一つ覚えているはずだ、って言ってたけど」


 美代はドブラドが最後に言っていた言葉を繰り返しながらメニューを開く。スキル説明のときに教えてもらったとおりにスキル項目をタッチすると、スキル一覧を見ることができた。


「えっと、一撃離脱(スプリングアタック)? 使用者のAGIを一定時間強化、5mまでの距離なら一瞬で詰めて攻撃可能かー。……速度も上がってるから、当てた後に距離をすぐに空けられるわけね」


 これは割と有用かもしれない。とはいえ、美代は今回の訓練でやはり自分が前衛が向いていないと考えていた。

 前衛で戦う人間がモンスターが怖いからと、一々恐慌状態になっていたのでは話にならない。美代はナイフはあくまで補助武器にして、メインは距離を取れるものを選ぶつもりだった。


「やっぱり弓かなぁ。サブジョブを木工職にしてるし、ちょうどいいのかも」


 ギルドからの帰り道、ぶらぶらと町中を見て回りながら宿屋を目指す。面白そうな食材や素材などを売っている店が多い。冒険者ギルドが近いからこその店並びかもしれない。

 途中で寄った素材の露店を開いているプレイヤーから聞いた話では、通りを一つ挟んだところではまた違った店が多いらしい。今度のぞきに行ってもいいかもしれない。


「とりあえず今日は宿屋さんに戻って、夕食にしたらログアウトしよう」


 宿を出たのが15時で、今はもう18時を過ぎている。現実ではとっくに深夜を回っているだろう。おそらく2時くらい、たぶん3時にはなっていないはずだが。

 仕事が休みとはいってもやることはあるのだ。そろそろ寝なければならない。

 ならばすぐにログアウトすれば良いのだが、美代はVR空間内での食事というものをしてみたかった。現実の食事とは感覚が違うとは聞いているが、ではどんなものかと言われると想像もできない。


「お腹がいっぱいになるっていうのとはまた違うらしいけど、どんなのだろう?」


 美代はまだ見ぬVRの食事に思いを馳せた。


◇◇◇


 宿屋の酒場はちょうど忙しい時間らしい。現実ではもう寝ている人も多いが、プレリュード内では夕飯時なので仕方がないだろう。

 宿に戻ったことを受付にいたタブサに知らせたところ、酒場で夕食を頼めると教えてもらった。


「ふふ、楽しみだなぁ」


 そわそわとする内心を抑えながら、美代は笑みを浮かべる。自分の注文はもう済ませたあとで、頼んだのはタブサがおすすめだと言っていたアラトニア肉のじっくり煮込みだ。アラトニアが何なのかは分からないが、肉とついているなら動物なのだろう。


「はーい、お待たせしました。アラトニア肉のじっくり煮込みです。

 パンはおかわり自由ですので、必要でしたら呼んでくださいね」

「はい、ありがとうございます」


 そう言ってにこやかに去っていく店員にお礼を告げてから、やってきた料理に美代は意識を向けた。

 アラトニア肉というのはやはりよく分からないが、トマト風ソースのようなもので煮込まれた肉はとても食欲を誘う見た目だ。一緒についてきたパンは硬めで、おそらくソースと絡めて食べるのだろう。


「それじゃ、いただきます」


 食前の挨拶を済ませると、美代は早速とばかりに料理に取りかかった。


「んっ! おいしいっ!」


 肉の食感や臭いはラム肉に似ている。少々臭いが強いので、苦手な人もいるかもしれないが、美代にはあまり気にならなかった。

 タブサがおすすめだと言っていただけはある。美代はしばらくの間、料理を食べることに集中した。


◇◇◇


「あんなに食べたのに、全然満腹感がないなんて不思議……」


 食事を終えた美代は、自室に戻った。お腹を撫でながら思うのは、料理のことだ。

 結局のところ彼女はメインの他にパンを三つも食べてしまった。割と小さいサイズだったとはいえ、現実であればもう満腹な量だ。

 それなのに今はまだ全然そんな感じがないのだから不思議である。

 ひとまず美代はメニューを呼び出して、自身のステータス項目を開く。


「ゲーム内の空腹度は満腹になってるんだね」


 このゲームでは空腹度が存在して、ゲージが最後までなくなるとバッドステータスを受けるらしい。講習で教わったことだが、長時間の戦闘を行う際には先にチェックしておくことが重要と言っていた。

 美代の空腹度は、今は満タン状態になっているので料理を食べた効果は確認できる。

 それから美代はメニューを閉じると、ふうっと息をついた。


「それにしてもこのゲームはすごいなぁ。

 たくさん覚えなきゃいけないこともあるけど楽しいし、これなら続けられるかも……」


 プレイ時間自体は短かったが、かなり濃い時間を過ごせたと思う。

 美代はうん、と頷くとベッドに横になった。


「ボイスコマンド【ログアウト確定】」


 コマンドと共に目の前にメッセージウィンドウが表示される。


『本当にログアウトしますか? はい いいえ』

「はい」


 確認のメッセージに対して、美代が肯定を返すと視界がゆっくりと暗転した。


◇◇◇


「んっ……」


 小さく声を漏らして、美代はゆっくりと目を開く。

 電気が付いているので周りは明るい。


「戻ってきたんだ……」


 ぼーっとしながら身体を起こして、メンタルコネクターを頭から取り外す。時計を確認すると、針は二時半を少し過ぎていた。


「うわ、もうこんな時間。 いけない、いけない。もう寝なくちゃ」


 身体はずっと横になっていたのだが、脳はそうではなかったためだろう。まったく休んでいた感覚はなく、それどころかほどよい疲れを感じている。


「うーん、脳波信号を誤認させているから、とか?」


 考えてもよく分からないが、ゲームの中とはいえあれだけ暴れたのだから疲れていても仕方がないのかもしれない、と美代は納得することにした。


「んーっ! よいしょっと、寝る支度しよう」


 立ち上がって軽く身体をほぐす。寝るために着替えなどをしなくてはならない。

 顔を洗うために洗面所へ向かう途中、振り返ってメンタルコネクターを見る。


「とりあえず、続きはまた明日、かな」


 ゲーム内の出来事を思い出しながら、美代は楽しそうな笑みを浮かべた。

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