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趣味探しでVRMMO始めました  作者: たぬきちのしっぽ
第一章:VRMMO始めてみました
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028-3日目終了-

 美代はそれから何度か罠の作成をしてみたが、手持ちのラットリネットリが切れるまでにLv2を作成することはできなかった。

 素材がなければ罠の作成もできない、ということで買いに向かおうとしたところで、グルンガルトが練習用として代用ネットを渡してきた。


「これで作った物は、あくまで練習用でな。作ってみれば分かるんだがの」

「あ、ほんとですね。エレクトロネット(弱)Lv1になってます」

「そういうことでな。まぁ、実戦ではまったく使えん代物よ」


 ということで、代用品で出来上がった罠は小動物狩用の罠になるらしい。作った物が無駄にならないところは良いことだが。

 黙々と練習を続ける美代に対して、グルンガルトはその場からいなくなり、時折様子を見に来る程度だった。


「あの娘、なかなかの集中力だの。とは言ったものの、そろそろ今日は切り上げ時かね」


 グルンガルトが家の中で用事を済ませたあとに様子を見に来ると、もう日が落ちる頃合いになっていた。

 しかし美代は、あたりが暗くなっていることにも気が付いている様子もなく、楽しそうに罠を延々と作っている。

 その姿に呆れたように笑いながら、グルンガルトは彼女に近づいた。


「アルファさんや。もうすぐ日が落ちる。今日はそろそろ帰った方が良いでな」

「えっ! もうそんな時間ですか? って、うわっほんとに暗くなり始めてるっ!?」


 グルンガルトの声に反応した美代は、慌ててあたりを見回すと、彼の言う通りだと気が付いた。


「すみませんっ! こんな時間まで長居させていただいてしまって」

「いやいや、お気になさらず。若い人の一生懸命な姿は、こちらも見ていて励みになりますからな」


 はっはっは、とグルンガルトは楽しそうに笑う。


(イヤリング作るときもそうだったけど、私ってすぐに周りが見えなくなるんだよね……)


 美代としては良い歳して、時間を忘れて遊んでいたような姿だったので、恥ずかしいばかりである。


「しかし、だいぶ罠作成の動きが様になってきたの。これならば、明日には目標を達成できるかもしれんな」

「はいっ、Lv2は十回のうち六回は作れるようになってきましたから。あとは時間をなんとか短くできるように頑張ります」


 今日一日で美代はなんとかエレクトロネットLv2が作れるようになってきた。しかし、それも一つ一つの作業を丁寧に行っているからこそである。

 十回のうちの四回の失敗は、主に時間を気にしすぎて作業が雑になったときに起こっていた。


「丁寧にやれば作れるんですけどね……」

「はっはっ、まぁそう簡単ではないの。練習あるのみ、と言ったところだな」

「…………そうですね。何事も練習しないといけませんから」


 グルンガルトの励ましに、美代はしっかりと頷いた。


「良ければまた来なされ。儂はしばらくは家にいる予定なのでな」

「ありがとうございます。それではまたお邪魔させていただきます。

 ただ、しばらくは私が忙しいので、お邪魔させていただく時間が遅くなってしまうかもしれませんが……」

「うむ、別に構わんよ。とは言っても、さすがに深夜に参られても困ってしまいますがな!」


 冗談混じりに笑いながら、快く請け負ってくれてたグルンガルトに礼を言って、美代は早々に彼の家を後にした。


◇◇◇


 美代はタブサに戻ったことを知らせると、ゲーム内の夕食も食べずに部屋に戻った。

 ゲーム内御飯も楽しみだったのが、さすがに時間がまずい。自業自得である。


「うわっ、二十一時過ぎてる……。軽く晩御飯済ませて早く寝ないと」


 メニューで現実時間を確認した美代は、慌ててログアウトボタンを押した。

 明日は普通に会社があるため、早く寝る支度などをしなければならない。ゲームのやりすぎで寝坊や体調不良なんて真似はできないし、したくはなかった。

 ボタンを押して数秒後、視界が暗転して美代は現実世界に戻る。



 いつもの浮遊感が終わった後、目を開いて何度かパチパチと目蓋を動かしてから、美代はメンタルコネクターを外した。


「よいっしょっと。とりあえず御飯の支度しないとね」


 横になっていた体を起こすと、軽く伸びをして立ち上がる。眩暈もなく、体調的には問題なさそうだ。


「うっ……、いきなりきた。支度の前に……」


 立ち上がった後に、美代の身体を襲ってきたのは生き物としての当たり前の生理現象である。

 さすがに六時間近くもゲームをしていたのだがら、当然といえば当然だ。

 ゲーム内にいるときに現実の身体がこの手の状況になった場合は、メンタルコネクターが異常を感知して、ログアウトを呼びかける。今回は異常感知の前に美代がログアウトしたということだろう。


「ゲームの前にはお手洗い。必須だね……」


 美代は独り言を漏らすと、別のものは漏らさないうちに、などと寒いことを言いながらお手洗いに閉じこもる。

 年頃の女性の言うことではない、というツッコミを入れる相手は、残念ながら一人暮らしの彼女にはいないのであった。


◇◇◇


 夕食を済ませ、その他諸々の支度も終わらせた美代は、ベッドの上でPCを開いている。その画面に開いているのはメモ帳で、そこには休日に行ったゲームの記録が書かれていた。


「日記ってわけではないけど、さすがに仕事が忙しいと忘れそうだし」


 繁忙期ではないので、今はそこまで仕事が詰まっているわけでもない。忘れることは早々ないだろうが、思い出として記録をとっておく人もいるのではないだろうか。

 美代は自分がどこまでゲームを進めたか、どういったことをやったのかを書いて、それから『重要!』と書いた項目に『【罠作成】スキルの取得のためにグルンガルトさんの家に行く約束がある』と記入した。


「まずはこれを取ったら、次はどうしよう? 罠をもってまた森に行くっていうのもいいけど、グルンガルトさんが雷撃エキスは錬金術でって言ってたし、そっちやっても良いよね」


 天井を見上げながら、考えにふける美代だったが、その顔は楽しそうな笑みを浮かべていた。


「うーん、もうちょっと考えておこう。あっ、もう寝ないとっ」


 時計の針は深夜十二時を指している。これ以上は明日にしようと、美代は考え事を打ち切って、大人しくベッドに潜り込んだ。


(明日も帰ってきてから、できたらいいな)


 期待に胸を膨らませながら、美代は眠りにつく。

 趣味作りで始めたゲームだが、彼女はすでにその魅力にハマり始めているようだった。

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