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趣味探しでVRMMO始めました  作者: たぬきちのしっぽ
第一章:VRMMO始めてみました
20/30

019

 フララニア糸専門店はNPCが経営している店だった。

 数多く、色とりどりの糸の種類に美代は目を輝かせたものの、先立つものがあまりない。目的の麻糸だけを購入して、後ろ髪を引かれつつも店を後にする。

 そのままギルドへ向かい、今日も出ていたスライムの討伐クエストを受けて、その場で結晶を提出することで所持金を現在の安全帯まで戻すことができた。


「さてっ、頑張って作るぞー!」


 材料を一通り揃えた美代は、工房で作業場を借りて弓の製作に取りかかった。

 仕掛け弓のレシピはイヤリングよりも格段に難度が高い。イヤリングのように単純ではなく、複雑な工程も多いからだ。

 美代はレシピを一通り読んで、それから木材を観察し始めた。

 そこで気付いたのは、イヤリングよりも木材の光っている場所が少ないということだ。しかもその光の強さも比べものにならないほどに弱々しい。


(さすがに難易度が全然違うもんね……)


 美代はそこで一度大きく深呼吸すると、イヤリングの時よりも意識を木材に集中させる。

 すぐに目の前の木材以外の物が気にならなくなり、周りの音も聞こえなくなった。


(よし)


 ゆらりと木工用ナイフを持ち上げて、美代は自身の扱うことになる弓作りに没頭した。


 

 どれほどの時間が経ったのだろうか。美代にはもうその感覚がなくなっていた。

 一心に木を削り、磨き、それらを組み立てていく。

 やがて、最後の一パーツを組み合わせたとき、軽やかな鈴の音が頭の中に響いた。

 『木製の仕掛け弓Lv2が出来上がりました!』

 『アルファの木工師レベルが4に上がりました!』

 システムアナウンスが鳴り、ようやっと目的の弓が出来たことが分かったが、今の美代はそれを気にする余裕もなかった。


「…………はぁっ、はぁっ……、つっかれたぁぁぁーー」


 極度の集中状態から解放された途端に、美代の身体を疲労が一気に襲う。

 ゲームの中なので本当の肉体的な疲れではないため、精神疲労と言ったところだろうか。

 思わず美代は椅子から転がるように床に降りて、そのまま寝転がる。


「はぁ~、こんなに頑張ったのって大学受験以来かもなぁ」


 作業場の天井を眺めながら美代はしみじみと呟く。


「とりあえず出来上がった弓を見てみないとっ、ね!」


 よっと、とかけ声を出しながら起き上がり、作業台の上の完成した弓を見る。


「これが私の弓かー」


 手に取ると見かけよりも軽く感じるその弓に、美代は目を輝かせた。

 ふふふ、と無意識に笑いながら色々な方向から弓を眺める。


「えーと、持ち手を持って、くるっと回転させる感じで……」


 どうやらシステムアシストが働くようで、初めての弓の展開もどうすれば良いのかが分かる。

 迷わこともなく、スムーズな動作で弓を展開させた美代は、壁に向かって弓を構えた。


「へぇ、サイズとかもぴったりなんだ」


 美代は不思議に思ったが、このゲームでは武器や防具のサイズなどは、装備者の体格に自動的に調整されるようになっている。

 そのため作成した仕掛け弓が美代にぴったりなサイズなのも当たり前なのだ。


「うん、いいかも」


 様々な角度や構え方を試してみたが、特に違和感を感じることもない。美代は自分の作った弓の出来に満足したのか、自然と口角が持ち上がっていた。


「うーん、試し撃ちとかしたいけど、さすがにちょっと疲れたし……。とりあえず、一度休憩しようかな」


 集中のしすぎで少し頭痛も感じた美代は、ゲームから一度ログアウトすることにした。

 少し現実の方で休みを取った方がいいだろうという自己判断からである。


「そうすると、作業場ここの使用申請を終了させないとね。あ、あと弓用の防具とかあるとかも聞いておこう」


 弓をアイテム化してストレージに収納すると、美代は立ち上がって工房から出ることにした。


◇◇◇


 受付で尋ねたところ、弓用の防具としてはチェストガードとアームガードがあるらしい。

 それと矢筒を合わせて用意した方が良いとアドバイスをもらった。

 チェストガードは弓の弦 (ストリングというらしい)が引っかからないようにするためのものらしく、アームガードはその名の通り、弓を持っている腕を保護するための防具だという。

 チェストガードは胴体の追加装備扱いで、アームガードは腕の装備に入るのだとか。


「現実とは違って単純化されてるらしいけど、結構色々と必要なんだなぁ」


 それらの装備を付けていないと、自身の弓でダメージを受けるとのことで、弓をメインにするなら必須の防具だろう。


「とりあえず次ログインしたら、防具屋さんか露店でプレイヤーメイドの物を探してみよう。ついでに矢についても聞けるといいんだけど……」


 ゲームならではの弓矢もあるのでは、と美代は考えている。

 というか、さすがにないとそれはそれで期待外れでもあるのだが。


「まぁ、なんであれ一度ゲームからログアウトして休もうかな」


 美代はメニューを呼び出して、ログアウトボタンを押した。

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