表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
趣味探しでVRMMO始めました  作者: たぬきちのしっぽ
第一章:VRMMO始めてみました
19/30

018

 美代が目を開けると、目の前に黒い壁があった。


「…………? なんだろ、これ」


 ぼおっとしている思考のまま、自分の頭に手を伸ばすと指先にあたる金属の感触。

 そこで美代は昨日のことを思い出す。


「ああ、そっか。寝ちゃったのかー」


 そこまで思い出したところで、体を起こして頭のコネクターを外した。


「えーと、どこで寝ちゃったんだっけ……?」


 昨夜の美代の最後の記憶は5つ目のイヤリングを作ったところまでだ。

 2つ目まで作って深夜になり、そのあとに作成時間が半分になったイヤリングを3つ作った。


「たしかに5個目を作ってるときにはだいぶ眠かったけど……。あちゃー、やっちゃったのかぁ」


 右手で顔を隠しながら、美代は猛省する。

 遊びに夢中になって、それが終わった途端に充電が切れたように寝てしまうなど、まるで子供みたいではないか。

 さすがに良い歳の大人がやるような真似ではない、と恥ずかしくなった。


「そっか、それでメンタルコネクター(これ)が自動的に切ったのかな」


 美代は、流し読みしていた説明書にも書いてあったような気がする内容を思い出した。

 メンタルコネクターは使用者の身体に異変や周囲の環境に異常が発生した場合は、強制的に接続を解除するようになっているらしい。

 美代が身体につけている計測機器が異常を感知したため、コネクターが接続を自動解除したのだろう。


「それはたしかに、寝ると脳の活動も鈍くなりますからね……」


 さすが高性能機械と美代は感心した。


「あっと、とりあえずお風呂行こうかな」


 時間は午前10時だ。昨日というか今日ではあるが、寝てしまったのがおそらく4時頃だろうか。

 ゲームを終えたら入るつもりだったが、そのまま寝てしまったので結局お風呂には入っていないのだ。

 まだ季節的には暑くなる前なので、汗でびしょびしょということもないが、さすがに1日入っていないというのも気持ちが悪い。

 美代は計測機器を取り外すと、ベットから起き上がって着替えを探す。

 お湯を沸かしていないのでシャワーだけだが、汗を流すくらいならそれでも良いだろう。


「こんな生活をお母さんに見られたら、ゲームばかりしてたらいけませんって怒られるだろうなぁ」


 美代は(しつけ)に意外と厳しかった実家の母を思い出して、改めて気を付けないといけないなと自戒した。


◇◇◇


 色々と用事を済ませた美代がゲームにログインしたのは、現実で15時をまわってからだ。

 買い物や軽い掃除はすぐに終わったのだが、次の日は週初めで仕事のための資料を用意していたら、それに時間がかかったのである。

 美代がログインすると、そこは木工工房の休憩スペースだった。


「作業場でログアウトしちゃうと、ここに出るんだね」


 おそらく作業場の貸出時間をオーバーしたので、休憩所(ここ)に出されたのだろう。


「とりあえずレベル確認しちゃおうかな」


 ステータスを開いて、サブジョブのレベルをチェックする。

 美代は木工職のレベルが3にあがっているのを見て満足そうに笑った。


「やったっ。昨日の最後に作ったので、6個目だったからレベルが上がったのかな?」


 木工職の項目に残りスキルポイント2と表示されている。

 美代は獲得可能スキルの一覧を開いて、何が取得可能なのかを確認した。


「えーと、≪初級新レシピ獲得≫、≪木材の扱いLv1≫、≪木工道具の心得Lv1≫かぁ。他のはまだ取れないのね」


 序盤はどうやらその3種のみらしい。

 美代は悩んだが、≪木工道具の心得Lv1≫と≪初級新レシピ獲得≫を取得した。

 スキルを選択した瞬間、鈴の音が鳴る。


「えーと。獲得したレシピは……、【守り木の腕輪Lv1のレシピ】ね。なるほど」


 どうやらスキル習得として獲得したレシピは、普通のレシピよりも良いものらしい。

 新しいレシピの取得を喜んでいたところで、美代はふと昨日のことを思い出した。


「そういえば、メインの方もレベルアップしてるよね」


 美代は戦闘の時は夢中になっていたし、あの爆風で驚いていたので気づいていなかったが、間違いなくレベルが上がっているはずだ。

 メインジョブの狩人の項目を開くと、そちらもレベル2になっていた。


「あ、やっぱり上がってる。うーん、すっかり忘れてた……」


 とりあえず狩人の項目を確認すると、ステータスポイントが2とスキルポイントが1になっている。


「とりあえずステータスポイントはAGIに1振って、あとはDEX、かな。…………あれ? DEXって器用さとか命中率だったよね? VITって生命力だよね。たしかバイタリティの略だったはずだし」


 調べたときに見たのはそれだったはず、と美代はDEXにも1ポイント振った。


「スキルポイントは、うーん……、弓を作った時のために今は取っておこうかな」


 弓のスキルもすでに取得はできるが、それを取ったとしても弓がなければ使えない。

 弓の作成自体はもう出来るレベルになっている。しかし、必要素材などをまだ確認していないので作れないかもしれない。

 その場合は素材集めに行く必要があるため、戦闘などをする可能性がある。

 素材集めに向かった先で、に新しいスキルが必要になる可能性も十分にあるので、美代はスキルポイントの割り振りはやめておくことにした。


「えーと、それならまずは弓のレシピを買って、必要な素材を確認しよう」


 今日やりたいことに順位をつけてから、美代はレシピを販売している工房内のショップに向かう。

 ショップの混み具合はそれなりといったところだが、店員の人数が多いのとさばき方が早いため、大した待ち時間にもならなそうだ。

 美代はまずは商品棚に近づいて、販売レシピを確認した。

 【木製の短弓Lv1のレシピ】、【木製の長弓Lv1のレシピ】、【木製の狩猟弓Lv1】などがあったが、美代はその中で一つを手に取った。


「へー、【木製の仕掛け弓Lv1のレシピ】かー。どんなのだろう?」


 他の弓は大体想像がつくようなものだったが、美代には仕掛け弓というのはよく分からなかった。

 とりあえず店員の一人に声をかけて説明してもらうと、なんとなく想像ができるようになる。


「折り畳み式で割と軽量、それで小型の弓。畳んだ状態で持ち運んで、使用するときに展開して弓になる、ねぇ。

 うーん、ギミック型だから耐久性が低いって話だけど、面白そうなんだよね。あと、動きの邪魔になりにくいっていうのもいいかも」


 背負って持ち運べるというのは、美代にはかなり魅力的に思えた。

 メインを弓にしても、サブの武器としてナイフは使うつもりだ。それなら動きをなるべく制限しない弓が欲しい。


「うん、これにしようっ」



 レシピは300トールした。昨日の稼ぎはほぼなくなってしまったが、スライムの結晶はまだ残っている。

 スライム討伐系のクエストを受けて、すぐに納品すればお金は多少入るはずだ。


「えーと、必要素材は何かな?」


 購入したレシピを確認する。必要素材はそれほど多くはなさそうだ。


「メタン樹の木材5つ、留め金と金属バネ2つ、ラトリ麻糸1つか。

 木材と金属素材は工房(ここ)で買えるけど、麻糸ってどこで買えるんだろう?」


 聞いたことのない素材に美代は首を傾げるが、とりあえず工房の人に聞いてみればいいかと結論付ける。

 そして受付に向う途中で、ディスバリーを見かけた。


「あ、ディスバリーさん、こんにちは」

「ん? ああ、こんにちは。アルファさん」


 ディスバリーは昨日と変わらない様子で挨拶を返す。


「あのちょっとお聞きしたいことがあるのですが、今大丈夫でしょうか?」

「聞きたいこと? うん、構わないよ」


 急なお願いだったが、彼は気を悪くした様子もなく頷いた。


「ラトリ麻糸っていう素材を探しているんです。工房ではたしか売ってなかったと思うのですが、どちらに行ったら手に入るのでしょうか?」

「ああ、ラトリ麻糸か。それなら、表通りを右にまっすぐ進んだところにフララニア糸専門店があるから、そこで買えるはずだよ」

「糸の専門店があるんですか。分かりました、行ってみます。

 教えてくださって、ありがとうございました」

「いや、気にしなくて良いよ。

 それにしても、もう麻糸を使うレシピを扱えるようになったんだ。熱心にやっているみたいだね」


 麻糸が買える店を教えてくれたディスバリーは、昨日の今日でそんなレシピを扱えるようになっていた美代に驚いていた。

 初級のレシピは単純だが慣れるまではとても時間がかかる作業ばかりだ。そのため、途中で飽きてしまう人も多くいる。

 時間をかければ初級を突破するのはそんなに難しいことではない。しかし、工房に来た次の日にラトリ麻糸が素材に含まれるレシピを扱えるようになる者はそう多くはないのも事実だ。

 だから彼は、自分が木工の基礎を教えた美代の熱心な様子を見て純粋に喜んでいた。


「まだ木工師としての道は長いけど、その調子で頑張ってくれると嬉しいよ」

「はいっ、頑張ります。では、とりあえず糸を買いに行ってきます!」


 笑顔のディスバリーに見送られて、美代はフララニア糸専門店へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ