017-2日目終了?-
木工作業を体験した美代が工房から出ると、辺りはもう暗くなっていた。
「あんまりやってたような気はしなかったんだけど……」
どうやら時間を忘れて熱中していたらしい。時間を確認すると、プレリュード内では19時を過ぎていた。
「もうこんな時間!? えーと、どうしようかな。そろそろ夕御飯の支度もしなきゃいけないし」
このあともう一回木工作業をしたかったが、時間も時間だ。
アルケディオやレティに注意した手前、美代自身が気を付けないわけにもいかない。
「一回ログアウトしようかな。…………でもまずは、タブサさんのところで御飯食べようっ」
ゲーム内御飯と現実の御飯は別物だ。ゲーム内での御飯もおいしかったので、美代は今日も食べるつもりだった。
これでさらにログアウト後にも食べれるのだから、と彼女はゲームに感謝した。
「宿屋に戻りますかー」
足取りも軽く、美代はタブサの宿屋に帰ることにする。
宿屋では昨日に引き続きお肉料理をいただいたので、現実では魚料理を作った。
残っていた鯵があったので、それを焼いたのだが結構おいしかった。
「えーと、木工……、木工……」
食後のお茶を飲みながら、美代は木工職について調べている。
食べながら考えていたのだが、あの簡単なイヤリング一つで数時間もかかるようではまともに物が作れないのではないか、と心配になったのだ。
木工をやってみたら意外と気に入った美代は、早くも生産系職業に関しては攻略サイトを解禁した。
昨日の今日でこれなので、意外と意思が弱い人である。
「あー、なるほど。木工職のレベルと熟練度が上がると作業速度も向上するんだ」
なんでも製作系の職業は、レベルの他にも熟練度というステータスがあるらしい。
何度も作業を繰り返し、その熟練度が上がると、物を作る際にかかる手間や無駄が減って作業時間事態が短くなるという。
「イヤリングみたいな初級のレシピは、3回木工作業をすれば作業時間が半分に、10回やれば一時間程度に短縮可能……。50回で、30分になるんだ」
それに併せて、製作物の品質もあがるらしい。
美代が作ったイヤリングは品質が3で、装備すると防御力2アップと品質状態の効果でさらに防御力+2がついていた。
品質の最大値は10が最高らしい。まだまだ道のりは遠そうだった。
「一番簡単な弓が作れるようになるのは、木工師レベル3かー。あと2レベル上げなきゃいけないのね」
攻略サイトをスクロールして眺めているが、かなり奥が深そうな気がした。
「えっ、レベル10からオリジナルレシピの作成解禁?」
途中でそんな文章を見つけた美代は、思わずスクロールしていた手を止める。
「えーと、“オリジナルレシピはゲーム内の開発が入れているレシピにないものを組み合わせて製作するレシピである”。
へー、他の人が同じレシピを持っていても、開発側が入れているものに入ってなければオリジナルレシピになるんだ。
自分の作業手順と材料とかで結構変わるからなのかな?
ん? えー、これいいなぁー!」
美代が見つけたのは、オリジナルレシピのデザインについてである。
オリジナルというからにはデザインが設定されていないのだが、このデザインを自分で決めることができるらしい。
「既存のデザインの組み合わせからオリジナルデザインを作れるけど、有料の3Dソフトを買うと一からオリジナルデザインが可能……。そんなことができるんだ。すごいなぁー。」
美代は感心しながらその項目をさらに調べる。
出来上がったデザインは、5つまでデザインストレージというところに保存できるらしい。
また、こちらも有料コンテンツで月額300円でデザインが最大100個保存可能とのこと。
ゲーム会社も営利企業なので、こういうところでお金を集めないといけないのかもしれない。
「デザインストレージはまだいらないけど、3Dソフトは欲しいかも……」
3Dソフトについては現状でも使い道があるらしく、既存レシピで作成した物にちょっとした装飾を入れることができるとのこと。
ゲーム内で推奨されているソフトを確認してみると、こちらも割と良い値段がする。
「んー……、ちょっと悩む。どうしようかなぁー」
趣味にお金がかかるものはたくさんある。だが、美代はゲームを始めてまだ2日目。
これから先もやり続けるなら投資の意味を込めて購入してもいいかもしれないけれど、と彼女は悩んだ。
少しの時間考え込んだ結果、美代はソフトの購入を決めた。
「やっぱり楽しいしね……。これなら続けられそうだし」
ゲーム内で友人ができたことも大きかった。アルケディオやレティとフレンドになっていなければ、購入をやめていたかもしれない。
3Dソフトの購入決済を終えると、美代は改めてこのゲームを楽しもうと思った。
それから再びゲームにログイン。
美代は木工工房に赴き、やろうと考えていた木工作業に取り掛かった。
ひとまずレベルを上げて弓の作成をできるようにしようと考えたのである。
「とりあえずレベル3まで頑張ろうっ」
美代は気合を入れると、作業部屋を借りてイヤリングの製作を行うことにした。
攻略サイトにはサブジョブはメインジョブよりもレベルが少し上がりやすいと書いてあったので、頑張ればレベル3まで上げられるかもしれない。
幸いにも美代は明日も仕事が休みである。週休二日制とは健全で素晴らしい職場だ。つまり夜更かししても大丈夫。
「よしっ、集中、集中」
訓練が終わったので、部屋の借り賃に加えて道具は貸出品で木材は買い取りだ。
お金がない初心者にはちょっとした出費である。
(次に二人に会った時に驚かせたいもの)
子供っぽい考えであることを彼女は自覚していたが、ゲームだからこそ多少羽目を外すのも許されるだろう。
あくまで常識の範囲内で、というところが重要ではあるが、美代のそれは可愛らしいものである。
その日、深夜遅くまで部屋からは木材を削る音が聞こえていた。




