011
スライムを探しながら歩く二人は、その間に色々と話した。
例えばそれぞれの種族や職業のこと、それからゲームに不慣れな美代に対してアルケディオが教えたりなど。
「なるほど。アルケディオ君のスキルが高いのはスキルポイントを振っていたからなんですね」
「そうなんですよ。俺は朝から結構やってますから、レベル2になってるんすよね。
それで、新しいスキルを覚えるより剣撃一閃を強化してるんすよ」
ステータスポイントとスキルポイントについては、朝にネットで調べたときに書いてあった。
このゲームでは、レベルが上がるとステータスポイントとスキルポイントがそれぞれ貰えるらしい。
そのステータスポイントとスキルポイント使うと、自分のステータスを上げたり、新しいスキルを覚えたりできる。
もちろんステータスは、レベルアップでも上昇するが、ステータスポイントを使うとそれにプラスする形でキャラクターが強化できるという。
「スキルを覚えるだけじゃなくて、強化もできるんですね」
メニューを開いてスキル項目を見てみると、確かに自分の一撃離脱もレベル1と表示されていた。
「スキルの強化レベルは5が最大っすね。俺の剣士職だと一番基礎のスキルなんすけど、隙が少なくて高レベル帯でも使えるって書いてあったんで、強化してるって感じですね」
あとから覚えるスキルの方が威力は高いが、使い勝手の良さはまた別ということだろう。
そういう考え方もあるのかと美代はゲームの奥深さに感心する。
「アルファさんもそろそろレベルアップじゃないすか? もう何回か戦闘やってますし」
「え、そうなんでしょうか? えーと、ステータス項目のところからレベルアップ経験値っていうのが見れるんですよね」
アルケディオに言われて確認してみると、レベルアップ・ネクストと書かれている場所に8と表示されていた。
「おっ! あとちょっとじゃないすか! 8だったらジャイアント・アント一体か、スライム二匹ってところですよ!」
「へぇー、意外とレベル上がるのって早いんですね。まだ1レベルだからでしょうか」
「まぁそうですね。やっぱ序盤は必要経験値も少なく設定されてるすから」
やっぱりそういうものかと美代は納得した。
しかし誰かとパーティを組んでいると、気分的にはあっという間な感覚だ。
「レベルアップしたらポイントどうするか、考えておいてもいいかもしんないすね」
自分のことのように楽しそうなアルケディオの様子に美代は和んでしまう。
こういう人との関わりもオンラインゲームという物の醍醐味なのかもしれない。
「そうですね、考えておきます」
美代は笑いながらメニューを閉じる。
そのとき、遠くから何か聞こえた気がした。
「? なんでしょう?」
「え? なにか聞こえました?」
どうやらアルケディオには聞こえなかったらしい。だが、確かに聞こえたはずだ。
「はい、何か呼んでいるような……」
「俺には聞こえないすけど……。もしかしたらアルファさん、獣人だから感覚が人族より鋭いのかも」
「なるほど。それなら猫耳に集中してみます」
美代もこの姿になってから気付いたのだが、実は獣人族のキャラクターは耳が四つある。
人と同じ耳と頭の上などに新たに付けられた獣の耳だ。どういう原理か知らないが、耳は増えても聞こえ方は普段と変わらない。
しかしどうやら獣耳の方が感覚は鋭いらしく、集中すると普段は気が付かないような音なども聞こえるようになるようだった。
『――――けてー! ―――――や――! ひぇ――――っ』
「だれかが助けてって言ってるみたいです!」
聞こえてきたのは途切れ途切れだったが、確かに助けを求める声だった。
美代とアルケディオは互いに目を合わせると同時に頷く。
「助けに行きましょうっ」「助けに行きますか!」
そうと決まれば行動は迅速に。
「私が先導します! ついてきてくださいっ」
言うが早いか、美代は走り出す。
「分かりました! お願いしまっす!」アルケディオはその後に続いた。
声が聞こえてきた方向へ真っ直ぐ向かう。幸いにもその途中でモンスターとぶつかることはなかった。
辿り着いた先で美代たちはとんでもない光景を目撃する。
「…………なんですか、あれ」
「すげー、こんなんあるんすね」
そこにいたのはスライムの群れ。その数ざっと三十匹ほど。
色は白を基調として、そこに黒の水玉が入ったスライムだ。
「ひええ! こんな数が来るなんて卑怯よー! 正々堂々一対一で勝負しなさいよー!!」
はっとして声の方を見れば、耳の尖った少女がスライムたちから逃げ回っていた。
「エルフ族のプレイヤーですよね?」
「そうっすね。とりあえず援護して、なんとか退却しましょう!」
二人が加わったたとしても、全てを倒すのは無理だろう。さすがにまだレベルが低すぎる。相手がスライムとはいえ、さすがに三十匹は相手にできるものではない。
「分かりました。そうしましょう!」
せっかく見つけたスライムだが、死んでしまっては元も子もない。
デスペナルティもあるため、逃げ回っているプレイヤーを回収したら離脱することをアルケディオは選択する。美代もそれには諸手を挙げて賛成した。
「こっちです! こっちに来てくださいっ!」
美代がエルフ少女に呼びかける。それに気付いたのか、少女が逃げる方向を美代たちの方へ変えた。
「あの女の子が通り過ぎたら一撃入れるんで、そのあとはとりあえず真っ直ぐ走ってください!」
何か策があるのか、アルケディオが美代に指示を出す。
美代は頷いて承諾した。
「助けて-!!」エルフ少女は悲鳴をあげて走って来ている。
「そのまま真っ直ぐ走り続けてくださいっ」集中しているアルケディオに代って美代が少女に指示を伝えた。
「あと少し。…………今だっ、剣撃一閃!!」
少女が横を通り過ぎたのとほぼ同時にアルケディオがスキルを放つ。
スキルの衝撃で少女を追いかけていたスライムが数匹、逆方向に吹き飛んだ。その間に美代は少女の背中を追って、戦場から距離をとる。
「アルケディオくんっ!」
振り向いて後ろを確認すると、アルケディオも走って逃げている。しかし、スライムの群れはそのまま三人を追ってきていた。
「まだ追ってきてるじゃないっ! どうするの!?」
先頭を走っているエルフ少女が叫ぶ。その質問の答えは美代も知りたかった。
さすがにこのまま逃げ続けるというのはぞっとしない。
「なにか逃げ切れる方法とかあります!?
「大丈夫っす! 今からアイテム投げるんで、そのまま走っててくださいよ!」
アルケディオが何かアイテムを取り出す。見た目は灰色のゴムボールのようだ。
「くらいやがれ!」
それを背後から追いかけてきているスライムの群れ目がけて投げつける。
投げられたボール型のアイテムは、地面に落ちた途端に白い煙を大量に吹き出した。
「な、なんなの!?」
「すっごい煙なんですが!」
「今のうちに逃げるっすよー!!」
一瞬で背後が煙に包まれて見えなくなる。それによってスライムたちは三人を見失ったらしい。
背後の煙の中で、ポヨポヨと大量のスライムが跳ね回る音は聞こえるが、音はその場に止まっている。
しかし三人は走り続けてその場から早々に離れた。




