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俺が聖女で、奴が勇者で!?  作者: 柚子れもん
第三章 魔法使いの島
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13 ホムンクルス

 俺たちの見守る前で、クロムはそっと口を開いた。


「10年……もうちょっと前かな、先生は正式に大学に所属しててそこでいろいろ研究してたんです」


 クロムはぽつぽつと過去を思い出すように話し始めた。俺たちもじっとクロムの話に耳を傾けた。


「当時は僕の他にも弟子がいて、ルカ先生は大学内でも一番の錬金術士だって一目置かれてたんです。それで、ある時先生はとんでもないものを作ろうとしました」

「とんでもないもの?」


 そう尋ねると、クロムはきょろきょろとあたりを見回した。あまり人には聞かれたくない話なのかもしれない。


「……そうです。その、あんまり大きい声では言えないんですが、ルカ先生は……人間を作ろうとしたんです」

「はあ?」


 何言ってんだよ、と声を上げると、クロムは慌てたように手を横に振った。


「うわぁ、声が大きいですよ!」

「あっ、ごめん……」


 俺が謝ると、クロムは落ち着こうとするかのように飲み物を口に含んだ。

 はぁ、と大きく息を吐くと、じとっと俺を見つめてくる。


「ちょっとこれはデリケートな話なので、騒がないでほしいんですけど」

「悪かった。それより続きを話してくれ」


 テオに促されると、クロムは大きく頷いた。再びあたりを確認すると、ひそひそ声で話しはじめる。


「人間……は正確な言い方じゃないかもしれません。人工生命体……先生はホムンクルスと呼んでいました」

「ホムンクルス……」


 ヴォルフが繰り返すようにそう呟いた。

 聞いたことのない言葉だ。人工生命体、そんなものがほんとに作れたりするんだろうか。

 俺には信じられないよ。


「他の錬金術師には危険だからそんな研究はやめろ、と言う人もいました。でも先生は絶対にうまくいく、成功すればきっとみんな考え直すと言って研究に没頭していきました。最初は失敗続きだったけど、だんだんと形ができて来たみたいで……成功例もありました」

「せ、成功……人工生命体が?」


 おそるおそるそう聞き返すと、クロムは確かに頷いた。

 まさか本当にそんな物を作ってしまうなんて、やっぱり信じられないな……!


「人工生命体って言っても……ちょっと動いて簡単な指示を聞く人形のようなものですよ。……でも……ちゃんと生命と同じ過程をたどるので最初は赤ちゃん状態で生まれますし、しばらくは子育てに忙殺されましたね……」

「へ、へぇ……」

「ただ魂がないので……自分で考えたりとか、そういうことができなくて……命令を聞くだけで……でも……危険じゃ……」


 クロムは時折つっかえながらもホムンクルスの特徴を説明している。でも、魂がないってなんなんだよ。


「魂がないって……?」

「まあ人の赤ちゃんに比べたらおとなしいしそんなに手もかからないんですけど……ただ……魂だけはどうやっても再現できなくて……あのこは……でも、あのこだけは……」


 だんだんとクロムの口調がおかしくなってきた。うまく言葉になってないし、何だか目つきもおかしい。心なしか顔も紅い気がする。


「お、おい……?」

「だから……せんせぇは……魂を、だけど……なんで…………」


 ついにクロムはテーブルに突っ伏してしまった。おそるおそる様子を確認した俺はすぐに気が付いた。


「うわっ、酒くさっ!!」


 突っ伏したクロムはぐーすか寝ていた。近づくと酒のにおいがぷんぷんする。

 こいつが飲んでたの酒だったのかよ! 

 話の途中でぐいぐい飲んでた気がするし、そりゃ潰れるよな。


「おい! 誰だよ酒頼んだの!」

「すまんオレだ」


 テオは悪びれる事も無く軽く手を上げた。


「テオさん、クロムさんはいくら成人してるって言っても体は子供のままみたいだし、酒はまずいんじゃ……」

「そうだって! どう見てもこいつガキじゃん!」

「悪い悪い。成人してると言ったからてっきりいけるもんだと思ってな!」


 テオは残っていたクロムの酒を一気に飲み干した。テオも酒のせいか若干テンションが高いような気がする。

 まったく、なんで大事な話するときに酒飲むんだよ!


「重要なところ聞けなかったじゃん……」

「すまんな、今夜は宿に連れて帰って起きたらまた聞くとしよう」


 テオは寝ているクロムを起こさないように抱き上げた。こうしてみると親子か兄弟みたいだ。

 クロムが35才で、テオがたぶん20代だしクロムの方が年上になるのか。

 うーん、見えないな……。


「ん……せんせぇ…………ルカ……」


 テオに背負われたクロムが何やらむにゃむにゃ言っている。あの錬金術師の夢でも見てるんだろうか。

 気持ちよさそうに眠るクロムを起こさないように、俺たちは宿への道を急いだ。



「うーん、起きそうにないな……」


 宿に着いて取りあえずクロムをベッドに寝かせてみたが、奴は気持ちよさそうにすやすやと眠っている。これはしばらく起きそうにない。話の続きを聞くのは明日になりそうだ。

 リルカは今日はフィオナさんの所に泊まると言ってたし……丁度いいだろう。

 ひとまずクロムは置いといて、俺は部屋にいる二人を振り返った。


「なぁ、さっきの話どう思う? ……ホムンクルスの話とか」


 そう問いかけると、二人は難しい顔をした。たぶん俺と同じことを考えていそうだ。


「まだリルカちゃんとその錬金術師にどういった関係があるのかはわかりません。ただ……確証のないうちは黙っておいた方がいいと思います……」

「だよな……」


 ちょうどリルカはフィオナさんの所に泊まっていて不在だ。

 ホムンクルス、指示通りに動く人形……なんだか嫌な予感がする。どうしてもフォルスウォッチの地下で戦った不気味な子供たちの事が頭をよぎる。

 あの子供たちの中身は、とても人間を構成してる物質だとは思えないものでできていた。


「あの子たちがホムンクルス……?」


 俺には信じられなかった。だって、あの子たちは態度はおかしかったけど見た目は普通の子供に見えたし、俺たちを圧倒するような戦闘力を持っていた。

 そんな存在を人工的に作り出すことなんて可能なんだろうか? 

 もし作り出せるのだとしたら……かなりやばくないか?


「……なんにせよクロムの話を聞くまでははっきりしたことはわからんだろう。おまえ達も今日はもう寝ろ」


 テオはそれだけ言うとさっさと寝支度を始めてしまった。

 うーん、テオの言う事も一理あるかもしれない。まだもやもやした思いは残っていたが、取りあえず今日は寝ることにしよう。



 ◇◇◇



 翌朝、目覚めたクロムは昨日話したことをきれいさっぱり忘れているようだった。


「えっ、ホムンクルス!? ま、待ってください! どこでその話を……」

「いやいや……お前がしゃべってくれたんじゃん」

「ええぇぇ!!?」


 朝っぱらからうるさい奴だ。こっちは早く昨日の続きが聞きたいんだよ!


「そのホムンクルスの事もっと教えてくれよ」

「駄目ですよぉ、重要機密なんですから!! 軽率に話したりしたら僕がルカ先生に殺されます!!」


 クロムは真っ青な顔でぶんぶんと必死に首を横に振っている。

 どうやら一晩経ったら随分と口が堅くなってしまったようだ。

 あーあ、だから昨日のうちに全部聞きだしておきたかったのに。これもこいつに酒飲ませたテオのせいだな。


「じゃあそのルカ先生の所に行こうぜ。直接聞きだしてやる」

「そんなの駄目ですよ! 怒られます!!」

「じゃあ大学に調べに……」

「ぎゃー!! やめてください! それだけはやめてください!!」


 その後もぎゃんぎゃんわめき散らすクロムを説き伏せて、なんとか錬金術師ルカに話を聞きに行くことだけは了承させた。

 またあの家に行くのは面倒だが仕方がない。こうなったら本人に直接問いただしてやろう!


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