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俺が聖女で、奴が勇者で!?  作者: 柚子れもん
第一章 伝説の中の竜
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7 夜に鳴くもの

 《ミルターナ聖王国南東部・カルヴォッカ村》



「あー、うまかったなー!!」

「そうだな」


 あれから無事に俺たちは目的のカルヴォッカ村へとたどり着き、すぐに食堂へとなだれ込んだ。

 本に書いてあった通り、アジの塩焼きは塩加減も絶妙でうまかった。

 うん、来てよかった!

 それにしても、見たところ平穏な普通の村のようだ。周りで食事をする人たちも特に変わった様子は見られない。

 だが、テオがわざわざここに来たってことは何か勇者の力の必要とするような事件でもあったんだろうか。


「それで、この村に来た目的は?」

「さっき食べただろう?」

「ん?」

「アジの塩焼きだ」


 確かに食べた。美味かった。

 ……だがそうじゃない。


「いやいや、他にあるだろ? 何かやばい魔物が出たとか、怪しい奴らがうろついてるとか、そういうの聞いたから来たんじゃないのかよ!?」


 最初に目的地を聞いた時に、テオは迷わずこの村の名前を挙げた。

 だから、この村に何か事件でも起こってるのだと、俺はそう思い込んでいたんだ。


「まさか、ただ本に載ってた料理が食べたいから来たとかじゃないよな……?」

「その通りだが?」

「はあ!?」


 テオにはまったく悪びれた様子はない。何かおかしいか? とでも言いたげだ。

 これはいかん、ここで軌道を修正しておかねば。


「おい、俺たちの旅の目的を覚えてるか!? あの偽勇者を捕まえて俺の体を取り戻すことだろ!!」

「いや、それはおまえの目的であってオレのではないだろ」


 テオはまるで他人事のようにそう言った。

 ……何だよそれ! お前は何のために勇者になったんだ!

 間違ってもアジの塩焼きを食べるためじゃないだろ!!


「一緒だよ! お前は勇者だろ! 勇者は困ってる人を助けるとか言ってたじゃん!! こんな平和な村に来て何するんだよ!」

「確かに、それもそうだな」

「納得すんな!」

「あのー……」


 遠慮がちに横から声を掛けられて、俺たちは言い争い(といっても俺が一方的にまくしたてていた)を止めた。

 そこには、申し訳なさそうな顔をしたおっさんが一人立っていた。


「もしかして、お兄さんは勇者様ですか? 実は……助けていただきたいことがありまして……」



 ◇◇◇


 《ミルターナ聖王国南東部・メルラ山》


 

 おっさん曰く、この村の近くの山に住んでるおっさんの知人が最近魔物の被害に悩まされているらしい。

 大声で勇者だのなんだの言ってしまったせいで、あの時の俺たちとおっさんには店中の視線が集まっていた。

 そんな空気の中でまさか断るわけにもいかず、こうして俺たちは夜明けとともにそのおっさんの知人に会いに山登りをする羽目になってしまったのである。


「ほらな、こういった事があるから寄り道も大事なんだ」

「今回のは結果論だろ……」


 テオは何が嬉しいのか、上機嫌で鼻歌まで歌いながら歩いている。

 一方、俺は朝早くから叩き起こされて睡眠不足だ。

 故郷も山の中にある村だったので山道には慣れているが、こう眠いと足取りも重くなる。

 正直、魔物退治はテオに任せて俺は宿屋で寝てたかった。

 時折山の中から虫や小動物のような魔物が飛び出してくるが、テオに蹴り飛ばされてあっけなく退散していった。

 ……それでいいのか、魔物よ。あのゴリラはまだ武器すら使ってないぞ。


「ふむ、魔物の被害に悩んでるとか言ってたがこいつらの事だろうか」

「さすがにそれはないんじゃないの? 全然弱そうじゃん……」


 一般人とこのゴリラを同一視するつもりはないが、いくらなんでもこの魔物たちは弱すぎだ。

 大人の男がちょっと戦えば余裕で追い払えるだろう。こんなので呼ばれたのだとしたら、勇者を舐めてると言わざるを得ない。

 そんな物思いにふけっているうちに、遠くの山中に古めかしいログハウスが姿を現した。


「おっ、あそこじゃないか?」

「ふーん、どれどれ……」


 近づいてみると、確かに年数は経っているが中々立派な作りである。

 大きさからして普通の民家、という訳ではないようだ。


「すみませーん!! 勇者でーす!!」


 眠気MAXで投げやりに声を張り上げた。

 何だその挨拶は、と背後からテオの呆れたような声が聞こえてきたが気にしない。

 こんな所まで呼び出す奴が悪いのだ。


「おぉ、お待ちしておりました……!」


 ほどなくして出てきたのは、背の低いじいさんだった。確かに、このじいさんではちょっとでかい魔物が出たらたちうちできないだろう。俺たちが呼ばれたのも納得だ。

 聞けば、ここは宿屋も兼ねたじいさんの別荘で、今は彼の妻と二人で暮らしているらしい。


「もともと趣味でやってるようなものでしたが、あの魔物が出るようになってから客足もめっきり遠のいてしまいまして……」

「あの魔物っていうのは?」

「説明するより見てもらった方が早いでしょう」


 じゃあ今すぐにでも、と言い出したテオをじいさんは制止した。

 聞けば、どうやらその魔物は夜にしか出ないらしい。

 わざわざ早起きしたのに何て仕打ちだ。


「ふぁー……、じゃあ夜まで寝ててもいいですかぁ?」

「おいクリス、だらしないぞ」

「仕方ないだろー、眠くて夜動けなかったら困るじゃん」


 俺がそんな事をぼやいていると、じいさんの妻がやって来て部屋を用意してくれた。

 テオは外を散策してくると言ってたが、面倒くさかったので俺は遠慮なく夜まで寝ることにした。



 ◇◇◇



「あぁー、寝すぎて頭痛い……」

「だから言っただろう、おまえはもっと規則正しい生活をするべきだな」

「眠いもんは眠いんだから仕方ないだろ? 俺は自分の欲望に忠実に生きたいんだよ!」


 じいさんによると、魔物は夜限定でログハウスの近くの川に出現するということだった。

 それだけなら別に害はないのから放っておけばいいのだが、問題はその魔物の鳴き声だ。

 なんでもその魔物はやたら夜毎にやたら大きな声で鳴きだして、宿屋に泊った客が怖がって帰ってしまい、あの宿屋は魔物が出るという評判が広まってしまったらしい。


「まったく迷惑な魔物だよな」

「本当にな……そろそろだな、気を抜くなよ」


 歩いていくと、川のせせらぎの音が大きくなってきた。

 魔物の出現地点は宿屋からほど近い川辺だということなので、そろそろご対面という訳だ。


「んー、でも鳴き声なんて聞こえな、」


『ゲコォ!!』


「…………」

「……あれだな」


 闇夜に間抜けな鳴き声が響く。

 なんとなく、あれが何の声かは想像はつく。だが声の大きさが尋常じゃない。

 声の大きさから考えると、体の大きさも相当でかいはずだ。


「テオ、先に宿屋に帰っててもいい?」

「おい待て、逃げるな。嫌なのはオレも同じだ」


 残念ながら勇者様は逃亡を許してくれなかった。

 それでも俺は諦めない! 

 速攻でその場から走り出そうとしたが、テオに足払いを掛けられて俺の逃走劇はあっけなく阻止されてしまった。

 そのままテオは俺を引きずって、どんどん川辺に近づいていく。


『ゲコォッ!!!』


 ぬめぬめとした黒ずんだ肌、ぎょろりとした目に、長い舌。

 予想通り、そこには人間の背丈と同じくらいはありそうな、巨大なカエルの姿があった。


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