18 廃都メスキア
《アルエスタ西部・古代都市メスキア》
数日後、俺たちは無事に砂漠の中の古代都市、メスキアへとたどり着いた。
近づくにつれわかったのだが、古代都市というだけはあってめちゃくちゃでかい。しかも都市の外壁や建物の形もしっかり残っていて、普通に中に入れそうだ。
辺りを見回すと俺たちと同じようにメスキアを見に来たのであろう人たちが結構いた。都市の外壁の外には露店や宿屋らしきものまである。ちょっとした観光地だな、これ。
「リルカ! 砂クッキーだって!!」
「じゃりじゃり……しそう、だね」
適当に露店を覗くと、無理やり土産物に仕立て上げたようなちょっと無理のある商品がたくさん並んでいた。それにしても砂クッキーはないな。ただ単に材料の分量を間違えたクッキーに見えるし、何よりこんな砂漠のど真ん中で粉っぽいクッキーなんて食べたら口の中がぱっさぱさになりそうだ。
「あっ、トマトだ」
「ほんとだ。前みたいに激辛じゃないだろうな……」
隣の店にはどっさりトマトが売っていた。水分補給にはいいかもしれないが、以前食べた激辛トマトのトラウマが蘇る。あれはひどかった。思い出したらまた舌がひりひりしてきた気がする。
「おい、遊んでないで早く行くぞ!!」
露店を覗きつつあれこれ言い合っていると、しびれを切らしたテオに呼ばれてしまった。
振り返ると、テオは早く遺跡に入りたくてたまらない! というような顔をしていた。遊具を前にした子供みたいだ。
まあでも、テオの気持ちもわからないでもない。こんなにしっかりとした形で古代の建物が残っている場所なんて、大陸中を探してももそうそう見つからないだろうからな。
「中は広いから迷子にならないようにね、あと……たまに行方不明になる人もいるって噂もあるから気を付けようね」
まるで引率な先生の口調で、ラファリスは俺たちにそう注意した。よしよし、きちんと案内人の仕事をしているな。
「それと、トレジャーハンターがいるかもしれないから問題を起こさないように」
ラファリスは少し離れた所にいた、やけに重装備の一団に視線を向けると曖昧に笑った。
「トレジャーハンター?」
「そう。ここにお宝が眠っているんじゃないかって探しに来てる人もいるんだ。それはまあ別にいいんだけど、中には遺跡を傷つけてまで探そうとする輩もいるからね。そういう奴はだいたい人の話を聞かない。無用なトラブルは避けるに限るよ」
あの人たちはそうじゃないといいんだけど、と付け加えて、ラファリスは遺跡の中へと入って行った。俺たちもその後に続く。
外壁を超えて都市内部へと入り込むと、思ったよりもしっかりとした形でメスキアはその面影を留めているようだった。
門、柱、建物から道の真ん中にある噴水らしきものまで、砂岩でできた都市はまるで今でもここで暮らしている人がいるかのようにそこに佇んでいた。それでも、もうこの都市の住人は存在しない。
ここに来る途中にラファリスが教えてくれたのだが、伝承によると、メスキアは何らかの原因で一夜にして滅んでしまったと言われているらしい。それは誇張だろうが、確かにこんなに都市の形が残っているのに、何故この場所は放棄されたのか謎である。
よくない病気でも流行ったんだろうか。
いろいろ建物を覗きながら歩いていると、丸い大きな柱が何本も立ち並ぶ巨大な建物の前までやって来た。あきらかにこれまで見た建物とは違う。きっと住居ではないんだろう。お城か何かだろうか。
「神殿だった、って言われてるんだ。中には祭具みたいなのも残っているからね。見てみる?」
俺の疑問を察したようにラファリスが教えてくれた。特に異論もなかったので俺たちはその神殿らしき建物の中へと進む。
だだっ広い空間に壁画らしきもの。なるほど、たしかに神を祀る場所だと言われれば納得だ。
テオとラファリスは壁画を指して何事か話しこんでいるようだった。俺は何となくその場を離れて、適当に神殿内を見回ることにした。
「おっきい、場所だね……」
「こんなに形が残っているなら再利用すればいいのに。アルエスタの人たちはよくわかりませんね」
リルカとヴォルフも俺についてきた。広間ではテオとラファリスがやたらと濃い古代トークを繰り広げているのだ。なんとなくその場に居辛かったのだろう。その気持ちはわかるぞ。
神殿を奥へ奥へと進む。普通に人が使ってただろう部屋もあれば。なんだかよくわからない像や道具が置いてある部屋もあった。そのうちに、大きな石板のようなものが置いてある広い部屋へと行き当った。薄暗い部屋の中央に、何やら文字が書いた石板がどどんと鎮座している。
「うーんと……読めないな……」
石板の文字を読もうとしたが、俺にはよくわからない言葉で書いてあるようだ。ラファリスの言っていた古アルエスタ語かもしれない。あいつならわかるかな、と考えながら石板を眺めていた俺は、その一部分がきらりと光ったのに気が付いた。
「なんだこれ……宝石?」
文字の一部に、宝石のようなものが埋め込まれている。何となく俺はその宝石らしきものへと手を伸ばし、そこに触れた。その瞬間だった。
「うわぁ!!?」
いきなり俺の足元の床が抜け落ちたかのように崩れたのだ!
そのまま俺は床下へと落下する……直前で上から手を掴まれた。
「いま、ひっぱるね……!」
「何やってるんですか!! 危ないですよ!」
いや、今のは俺は悪くないだろう! でも二人のおかげで助かった。そのまま二人のおかげで何とか上半身が引っ張りあげられて、床へと這いあがろうとした時だった。
今度はリルカとヴォルフの立っていた床が溶けるように崩れ落ちたのだ!
「うわっ!?」
「きゃあっ!!」
「ぎゃあああぁぁぁぁ!!!??」
そのまま俺たち三人は真っ逆さまに下へと落ちていった。おかしい、何で神殿の地下にそんなに空間があるんだよ!!
――長い時間が経過したような気もするし、一瞬だったような気もする。
ずぼっ! と俺は勢いよく何かに突っ込んだ。
「げほっ! うわ、何だこれ!!」
何かがまとわりつているかのように体が重い。何とか這い出したが、口の中がに何かじゃりじゃりしたものが入り込んでしまった。気持ち悪い!!
「クリスさんっ、明かり!!」
ヴォルフの声が聞こえた。あいつも近くに落ちてきたようだ。でも真っ暗で何も見えない。明かりをつけなくては!
「ごほっ! 照らしぇ、“小さな光!”」
口の中がじゃりじゃりするせいでちょっと噛んでしまったが、何とか呪文を唱えることはできた。
ぽわっと小さな明かりが現れて、あたりが照らし出される。
まず目に入ったのは、こんもりと盛られたさらさらの砂の山だった。方向からすると俺が這い出てきたのもここからだったんだろう。なるほど、柔らかい砂の山に着地したから結構高い所から落ちても生きてるのか。
よく見ると、砂の山はもぞもぞと動いていた。俺はおそるおそる砂をかき分けた。これは……
「リルカ!!?」
砂の中でもがいていたのはリルカだった。俺は慌ててリルカを砂の山の中から引っ張り出した。
「げほっ! ごほっ!」
俺と同じようにリルカも口の中に砂が入ってしまったようで、苦しそうに咳をしている。俺は持っていた水をリルカにリルカの口元まで持って行ってやりながら、その小さな背中をさすった。
「ほら、リルカ! ペッってしよう!!」
リルカは小さく頷くと、水で口の中をすすぐとすぐに吐き出した。これで気分がよくなるといいんだが。
「うぅ……、ありがとう……」
砂を吐きだして、リルカはやっと落ち着いたようだった。その段階で、俺も初めて冷静にあたりを見渡す余裕が出てきた。
「ここは……」
「残念ながら上には登れなさそうですね」
ヴォルフは頭上を見上げていた。俺もつられて上を見たが、目に見える範囲には階段らしきものはない。というか上から落ちてきたはずなのに地上の光すら見えなかった。おかしい、俺たちが落ちた場所はもう塞がってしまったんだろうか。というか、天井が高すぎないか、これ。
上には何もなかったので、俺たちが落ちたあたりを調べてみることにした。近くには俺たちが突っ込んだような砂の山がいくつもできている。そして、少し離れた所には地上にあったのと同じような建物らしきものが見えた。
「どういうことだ……?」
「フォルスウォッチの地下、みたい……」
リルカの言った通り、あのドワーフの集落と同じように地下に建造物があるのだ。暗くてよく見えなかったのでおそるおそるその建物に近づいた。
地上で見たのと同じような砂岩でできた家のようだったが、そっと窓から家の中をのぞいてみて俺は驚いた。地上の物と比べると雨風に曝されなかったおかげなのか、扉や壁の模様や中の家具まで綺麗に残っているように見えるのだ。
「メスキアには地下部分があるなんて話、聞いたことあったか……?」
少なくとも俺はない。遺跡に詳しいらしいラファリスもそんな事は言ってなかったはずだ。
何軒か立ち並ぶ住居の反対側へ行くと、少し間を開けてまた何軒もの住居が立ち並んでいた。よく見ると、地面もただの砂ではない。きちんと舗装された道のようになっていた。
暗くてよく見えないが、その大通りらしき道はかなり遠くまで続いているよう見える。
フォルスウォッチの地下もすごいと思ったが、ここはその比じゃない。
暗すぎて全容はわからないが、地下に大都市が広がっているのだ。
「これから、どうする……?」
普段の俺なら、地下に街? すげぇ!! と大興奮したかもしれない。でも、今は期待より不安の方が上回っていた。なんせこの謎の大都市は俺の出した明かり以外は何もない真っ暗な場所なのだ。それに人の声どころか物音一つしない。正直めちゃくちゃ不気味だし怖くて仕方がない。ヴォルフとリルカがいてくれて良かった。もし一人なら俺は泣きながら発狂していたかもしれない。
「これだけの住居があるのに、生活のすべてを地下だけででまかなっていたとは思えません。必ずどこかに地上への出口があるはずです」
ヴォルフの言う事も最もに思えた。というか今はそれに賭けるしかない。きっとここでじっとしていても何にもならないだろうしな。
俺たちは出口を探して、ゆっくりと不気味な地下都市を歩き始めた。




