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俺が聖女で、奴が勇者で!?  作者: 柚子れもん
第二章 砂漠の下に眠る街
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2 おかしな女神様

 バルフランカ滞在三日目。俺たちはまだ宿の部屋でダラダラしていた。

 結局、昨日も一昨日も特に収穫らしい収穫はなかった。今日こそは! と意気込んでしまうのも仕方がないのである。


「そういえばさー、ミランダさんになんか書簡みたいなのもらってたじゃん。あれって何だったの?」


 今まで忘れていたが、ミランダさんはテオに何かを渡していたのは覚えている。だったらそれを有効活用してやらねばならない。


「あれはオレがもらったんだ。やらんぞ」

「別にいらねーよっ! なんかヒントくらいは書いてあったんだろ? それ教えろよ!」

「ふむ……」


 テオは少しの間考え込んだが、すぐにごそごそと荷物をあさりだした。すぐに、あの時もらっていた書簡を取り出す。


「ほら、汚すなよ」

「変にもったいぶりやがって……、どれどれ……?」


 俺は隅から隅まで書簡に目を通した。

 ……だがそこに書いてあったのは、『アルエスタ方面で怪しい動きがある』という文。たったそれだけだった。


「…………他には?」

「ほら、これもあるぞ」


 テオはもう一枚の紙を手渡した。なんだ、まだあったんじゃん! 重要なことは別の紙に書いてたのかよ! という俺の期待はすぐにもろく崩れ去った。


「これって……」

「アルエスタ地方の地図だな」


 手渡された紙には、ここバルフランカから西、アトラ大陸の西端に至るまでのアルエスタ地方の地図が記されていた。

 なにかマークとか書き込まれていないかどうか目を皿のようにして調べたが、何も見つけることはできなかった。

 正真正銘、新品の地図のようである。


「……え、おかしくない?」

「何がおかしいんだ」


 テオは何がおかしいのかわからない、といった顔をしている。

 いくらなんでも、それはないだろ!


「だってさ、アルエスタで怪しい動きがある、だけじゃ何にもわからないじゃん! せめてどこの何が怪しいまで教えろよ! 俺たちは勇者だろ? 世界を救う希望だろ? それにしてはさ、扱いが雑じゃん!」

「確かに、本当に世界を救う気はあるのか、って問いただしたくはなりますね……」


 ヴォルフも険しい顔で手元の書簡を眺めている。

 リルカは昨日おまけでもらったブレスレットを日の光にかざしていた。きらきらと光が反射して綺麗だ。


「まあ、教会は当てにせずに自分たちの手だけでどうにかするしかなさそうですね」

「そっか……」


 誰も頼りにできないなら仕方がない。

 結局、今日も情報収集の為に奔走しなければならないようだ。



 ◇◇◇



 情報収集といっても、特に当てのない俺とリルカは今日も二人でぶらぶらと街の中を歩いていた。

 またリルカに服でも買ってあげようかと思ったが、昨日さんざんヴォルフに怒られたのでやめておいた。

 適当にぶらぶらと歩いていると、少し先に教会のような建物が見えてきた。



「あれって……教会、かな……?」

「あー、そうみたいだな」


 ミルターナの教会とは少しだけ建物の形が違っているが、教会とみて間違いないだろう。リルカは気になっているようだし、どうせ行くところもないし行ってみるか、と俺たちは教会の方へと足を進めた。



 ◇◇◇



 教会の中に入ると、その中の光景に圧倒された。

 天井に至るまでの壁に、所狭しと何枚、何十枚もの壁画が描かれている。男性、女性、動物、植物。何を現しているのかはよくわからないが、きっとこの大陸の人々が崇める神様に関係ある絵なんだろう。

 ぼーっと教会の中を眺めていた俺たちは、突然見知らぬ女性に声を掛けられた。


「バルフランカに来られるのは初めてですか?」

「は、はいっ!」


 慌てて返事をすると、その女性はにっこりと笑った。

 見た目は30代くらいで、琥珀色の修道服を身に着けている。きっとここの教会の人なんだろう。


「バルフランカには大陸中から多くの人々が訪れます。この教会は特別に様々な神に祈りをささげられるように作られているんですよ。もちろん、アルエスタの守護女神、アリア様のご慈悲でね」

「へぇー、そうなんですか」

「ええ、あなた方はどちらからいらっしゃったのですか?」

「ミルターナからです」


 そう告げると、女性の目がぱっと輝いた。


「ティエラ様の国ですね! ミルターナでは信心深い方が多いと聞いて羨ましい限りです。ぜひとも、あちらで祈りをささげていってくださいませ」

「は、はい……」


 残念ながら信心深い人の多いミルターナの中でも、俺は信仰心が薄い方だ。それでも彼女の前でそんな事は口に出せないので、少しでも信仰厚い人に見えるように、俺はリルカと一緒に興味ある振りをして祭壇の前へと足を進めた。


 祭壇を取り囲むようにして、ひときわ大きい四枚の絵画が飾られていた。それぞれに、女神と思わしき女性の姿が描かれている。このアトラ大陸を守護する四女神だろう。

 一番左の女神は、大きな鎌を手に持っていた。これが豊穣の女神、ティエラ様だろう。ミルターナ国内では、花やじょうろを持っている姿ばかりだったので、いくら豊穣の女神と言っても、笑顔で鎌を持っているのは少し恐ろしい。他国の人から見ると、ミルターナの守護女神はそう見えているのだろうか。

 その隣には、ハープを手に持つ女神の姿が描かれている。きっとアルエスタの守護女神、アリア様だ。

 その右には、剣を掲げる女神と、天秤を持つ女神が描かれている。戦いの女神エルダ様と、

 知識の女神イシュカ様だろう。

 そのまま女神の絵をしげしげと眺めていると、先ほどの女性が声を掛けてきた。


「アリア様は詩歌を司る女神と言われています。よく音楽家の方などはアリア様のご加護を得られるように、できれば直接ご指導を賜りたい、とここへ来られるのですよ」

「直接ご指導……?」


 加護を受けたい、まではわかる。でも、直接指導されたいってなんだ。女神がそんなことするわけないのに。

 俺が困惑していると、女性はくすくすと笑いながら教えてくれた。


「アリア様は気さくな女神様で、時折人間の姿をしてこの大地に降り立つことがあるとされているのです。時にはカナリアのように美しい声を持つ少女。時には竪琴を弾き鳴らし、古き歴史を歌い紡ぐ老婆。というように、アリア様がこの地に現れたという言い伝えがいくつも残されているのです。そして、アリア様に直接ご指導いただいた者は必ず大成すると言われているのですよ!」

「へ、へぇー……」


 そんな馬鹿な、と言いたかったがやめておいた。しょせん伝承は伝承。まさかほんとに女神が人間の姿をして現れるなんて言う事はあり得ないだろう。

 もし本当に現れたのならば、音楽家を育てるよりも先にこの世界の危機をなんとかしてほしいものである。

 女性はついでに、と新しい魔法を教えてくれた。一定時間、歌が上手くなる魔法ということだった。どこで使うんだろうか……。


 俺たちは案内してくれた女性に礼を言うと、教会を後にした。それにしても、各地からいろんな人が来るから教会にもいろんな神様の絵を飾ろう! なんてアルエスタの人たちは随分と大胆……というよりも雑だ。俺にはもう少しシンプルにまとまっているティエラ様の教会の方が落ち着くんだけどな。


「女神様に……会えると、いいね……」

「ん……? そ、そうだな!」


 どうやらリルカはさっきの女性が言っていたことを信じてしまったようだ。

 俺も子供の夢を壊すような事を言うほど無粋なわけじゃない。ここは黙っておこう。



 ◇◇◇



 その後も適当に食べ歩きをしたりして、俺とリルカは何の成果もなく宿屋に戻ってきた。

 このバルフランカの街では、やけにトマトの販売が盛んだった。ここに来て最初の日に食べた甘いトマトはもちろん、やたらと酸っぱいトマト、何故か辛いトマトなど、多種多様な色や形や味をした不思議なトマトがたくさん売っていたのである。

 いくつかお土産に買ってきたので、情報収集の成果がまったくないのは許される……と思いたい。

 そんな感じでおそるおそる宿に帰ってきた俺だったが、予想に反してテオはやたらと嬉しそうにしていたし、ヴォルフは少し困ったような顔をしていた。


「喜べ! 次の目的地が決まったぞ!」

「え、どこどこ?」


 俺がおそるおそる聞き返すと、テオは机の上にアルエスタ地方の地図を広げた。ミランダさんにもらった物だ。


「ほら、ここだ!」


 テオが指差した地点――バルフランカの街からずっと西に行った場所に、×印がつけられていた。

 見間違いでなければ。砂漠の中のようである。ここに町でもあるのだろうか。


「ここになんかあったのか?」


 テオがこんなに自信満々に言うのなら、きっとここが怪しい場所なんだろう。

 この脳筋勇者の考えを人の尺度で測ってはいけないということを、またしても俺は忘れていた。


「よくぞ聞いてくれた! ここにはな、古代に滅んだ都市の遺跡が形を残したまま残っているらしいぞ!」

「…………うん」


 だから何だ。


「それって、ミランダさんの言ってた怪しい動きとなんか関係あんの?」

「さあ、まだ行ってないからわからんな」

「はあぁぁぁ」


 俺は大きくため息をつくと、机の上に突っ伏した。

 こいつに期待した俺が間違っていた。どうせまたこいつは観光気分で古代遺跡に行きたくなっただけなんだろう。


「どうせここにいても手がかりも見つからないんだし、行ってみてもいいんじゃないんですか。西に行く途中で何かがわかるかもしれませんし」


 ヴォルフは諦めたようにそう言った。確かに、それはそうかもしれない。それに、反対したってどうせテオは古代遺跡に行きたいと駄々をこねるだろうし、ここは奴の好きにさせておこう。


「わかったよ。じゃあ、明日からはその古代遺跡に向けて出発だな」


 しぶしぶ了承すると、テオは嬉しそうに目を輝かせた。

 何かむかついたので、買ってきた激辛トマトをテオに食べさせたら、その辛さに悶絶していた。ゴリラでも激辛への耐性はなかったらしい。あたらしい発見だな。


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