表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
337/340

完結1周年小話

特に意味はない小話です!

「はぁ、暇ね……」


 目の前のベッドでは見事なプロポーションの女が艶やかな、そしてきわどい服装で悩ましげにため息をついている。

 思わずダイブをかましたくなるような光景だが、そうなったら最後、この女の術中にはまったも同然だ。

 テオは思わずため息をついた。


「クリスでもからかいに行こうかしら」

「やめとけよ。あいつは就職したばかりだろう。邪魔はしない方がいい」

「あら、就職先ってあの吸血鬼の坊やの所でしょ。しかもメイド。どうせ一日中べたべたしてるだけよ」


 反論しようかとも思ったが、テオにもその光景がありありと想像できてしまった。

 まぁ、ミラージュの想像もあながちはずれてはいないのだろう。

 クリスがまともにメイドらしく働くとは思えず、どうせヴォルフもクリスを甘やかすに決まっている。

 もう少し時間が経ったら、喝を入れてやりに行くのも悪くはないのかもしれない。


「いいわねぇ、私もご奉仕してくれるメイドが欲しいわぁ」

「奉仕する男ならたくさんいるだろう」

「たまには女の子と遊びたいのよ」


 こいつ、女もいけたのか……!

 テオは新たな発見をしてしまった。

 リルカ辺りがこの女の毒牙にかからないことを祈るばかりだ。

 そんなことを考えていると、ミラージュがじっとこちらを見ていることに気がつく。


「どうした? オレに惚れなおしたか」

「あら、私はいつでもダーリンの虜よぉ」

「どうだか」


 付かず離れず、それがテオとミラージュの距離感だ。

 お互いが唯一の相手……とは言い難いが、特別な存在なのは確かだ。

 だが、それでもテオにはミラージュが何を考えてるのかわからない時がある。ありすぎるほどにある。


「なんだ、何か言いたい事でもあるのか」

「……ダーリンは、それでいいの?」

「ん?」


 ミラージュは珍しく真剣な顔でじっとテオを見据えている。

 演技なのかもしれないが、テオは乗ってやることにした。


「いいって、なんのことだ」

「……クリスのことよ」

「んん?」


 クリスがどうかしたのだろうか。

 ヴァイセンベルク家のメイドに就職したという話ならば、テオがとやかく言うことではない。

 クリスが使い物にならなくて苦労するのはヴォルフなのだ。

 まぁ、あの生真面目な弟分なら、たとえクリスがどうしようもない駄メイドでも見捨てたりはしないだろう。

 テオはそのことについては、ヴォルフにこれ以上ないほどの信頼を置いている。


「……奇跡の聖女、アンジェリカ」


 ミラージュがぼそりと呟いた言葉に、思わず肩がぴくりと跳ねてしまった。

 その反応を見逃さず、ミラージュはすっと目を細める。


「どうして、あの子を手放したりしたの。……ずっと、アンジェリカのこと、忘れられなかったくせに」


 どこか、拗ねたような声だった。


 忘れられない。忘れられるわけがない。

 アンジェリカとの出会いで、テオは一度生まれ変わったようなものなのだ。

 たとえこの先何があったとしても、決してアンジェリカのことを忘れることなどないだろう。


「……別に、手を放したつもりはない」


 そう告げると、ミラージュはきっとこちらを睨みつけてきた。

 ……なんだ、かわいい反応ができるじゃないか。


「あいつが助けを求めれば、オレはいつでも駆け付ける。それは変わらないさ」


 初めてクリスに出会った時、クリスはまるで捨てられた子犬のような酷い有様だった。

 だが、旅を続けるうちにテオも驚くほどに成長し、遂には邪神を討ち滅ぼしこの世界を救った。

 そう、クリスは成長したのだ。

 常にテオが見ていてやらなくても、一人で歩いて行けるくらいには。


「……誤魔化さないで」


 雛鳥の巣立ちを見守る親鳥はこんな気持ちなのだろうか、としんみりしたのも束の間、ミラージュの低い声が耳に届く。


「ずっと、百年の間忘れられなかった相手が目の前にいて……なんとも思わないっていうの? それとも、あの坊やに負けるのが怖いのかしら?」

「お前にしては安い挑発だな」

「……遠慮するなんて、あなたらしくないわ。私を負かしたドラゴンは、もっと力づくで欲しいものは何でも手に入れる、そんな男だったはずよ」


 なるほど、テオが腑抜けているのが気に入らないらしい。

 本当に面倒な奴だ、とテオは嘆息した。


 ……確かに、テオはアンジェリカに惹かれていた。

 その気高き魂に焦がれていた。彼女が死んで百年、一日たりとも彼女の存在を忘れることなどなかった。

 クリスがアンジェリカの生まれ変わりだと知って、複雑な思いを抱いたのは確かだ。

 だが……


「ミラージュ、何度も言ったが……クリスとアンジェリカは別人だ」


 その魂は同じでも、二人は別人なのだ。

 アンジェリカにアンジェリカの人生があったように、クリスにはクリスの人生がある。

 テオには、無理にクリスをアンジェリカに近づけようとするつもりは毛頭ない。

 今のクリスのことを、テオは大切に思っているのだから。


「……じゃあ、もし最初にあの子に会った時から、アンジェリカの生まれ変わりだってわかってたら?」


 もしもの仮定だ。テオはあまりそういう話が好きではない。

 だが、とりあえずは考えてみようではないか。


「…………少なくとも、お前が思うような関係にはなってなかったと思うぞ」


 もう少し……いや、かなり胸のサイズが違っていたら、どうだったかはわからないが、と内心で付け足す。

 少なくとも、今のクリスを見てもわいてくるのは庇護欲や親心であり、ミラージュの言うような百年もの激情ではなさそうだ。


 ヴォルフがかなり昔からクリスに惹かれていることには気づいていた。

 クリスがその思いを受け入れた時にも、特に嫉妬心などを抱いたことはない。

 むしろ、危なっかしいクリスを信頼できる相手に任せられて安心したほどだ。


「……ほっんと、あなたってわからないわ!」


 ミラージュは拗ねたようにごろんとふて寝してしまった。

 その魅惑的な曲線を描く腰回りを眺めながら、テオは本日何度目かのため息をつく。

 ……まったく、こいつの考えていることはわからない。

 テオは女好きだが、残念ながらこういった女心の機敏には疎かったのだ。


「おい、拗ねるなよ。一緒に猫耳メイド喫茶でも行くか」

「……行く!」


 適当に提案すると、ミラージュは打って変わってように目を輝かせて起き上がった。

 どうやら今回は正解だったらしい。


「あの子たちも猫耳プレイとかしてるのかしら」

「さあな……」


 こんど景気づけに猫耳セットでも持って行ってやるか、と、テオは遠く離れた北の地にいるであろう二人にしばしの間思いを馳せた。





~その頃のメイドとご主人様+α~


クリス「ち、ちゃんとお仕事しないとお仕置きしちゃうにゃん……!」

ヴォルフ「もっと机に脚を乗せて……そう、そんな感じでお願いします」

ヨエル「見なかったことにしよう……」

テオとミラージュは群れのリーダーの雄ライオンと女王蜂のようなイメージです(わかりにくい)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ