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最終話 聖女は職業ではありません!?

遂に感動の(?)最終話です!


(注)最後にイラストが出ます!

 

 王都を出て次にやって来たのは俺の故郷のリグリア村……の近くの小高い丘だ。


 そこには、誰の名前も彫られていない小さな石碑が鎮座している。

 

 この場所のことを知る者は少ないが、そこには真新しい花が供えられていた。

 誰かがやって来たのか、それとも地元の人がなんとなく供えたのだろうか。

 少し不思議に思いながらも、俺も持ってきた花をそっと供えた。


 ここは理不尽な運命に翻弄され、命を落とした修道女たちの墓標だ。

 リグリア村に戻ってきた後に俺たちがここに置いたものだ。

 

 あんなにひどい目に遭いながらも、彼女たちはティレーネちゃんを、この世界を救うのに力を貸してくれた。

 そんな彼女たちに感謝と敬意をこめて、俺はそっと目を瞑った。


 ……今は、彼女たちの存在が感じられない。

 ティレーネちゃんはレーテ達と共にアムラント島へと旅立っていった。修道女たちはそれを見届けて、輪廻の輪に戻り、転生の時を待っている……と俺は勝手に解釈している。

 彼女たちの存在が歴史の表舞台に取り沙汰されることはないのかもしれない。それでも、確かに彼女たちはこの世界で生きていたんだ。


 もう彼女たちのような悲劇を起こさないために。

 いつか彼女たちがこの世界に戻って来た時に、後悔しないようにするために。

 俺にも、きっとできることがあるはずだ。


「……よし!」


 勢いをつけて立ち上がる。

 いつまでもめそめそしてるわけにはいかない。


「……これで、ミルターナに来た目的は達成できましたか?」

「うん……リグリア村にも行こうかと思ったけど、まだやめといたほうがいいかも」


 たぶんまだ教会の関係者が「勇者クリス」を探してうろうろしているだろう。

 それもこれも、レーテがうっかり姿を見られたりするから悪いんだ!


「まったく、レーテもうかつな事してくれたよな!」


「……うかつで悪かったな」

「うひゃあぁぁ!!?」


 背後から聞こえてきた低い声に、俺は思わず情けない悲鳴を上げてヴォルフに抱き着いてしまった。

 涙目になって振り返ると、木の影からじっと俺たちを見ている奴がいた。


「レーテ! いたなら声かけろよ!!」


 そこでは、レーテがじっと俺たちのことを見ていた。

 ここに来るような音は聞こえなかったし、たぶん俺たちが来る前からいたんだろう。


 ……普通に怖い。

 なんで木の陰にこっそり隠れてるんだよ!


「ボクが先にここにいたら、誰かが来る音がして隠れてたんだよ。べたべたくっついてはしゃいでた君たちは気づかなかったみたいだけど」

「べ、べたべたなんてしてないし!」


 俺は慌てて抱き着いたままだったヴォルフから距離を置いた。

 今更取り繕った所でレーテにはバレバレだろうが、何となくきまずいものはきまずい。


「お前も来てたんだな。ティレーネちゃんとイリスは?」

「ティレーネは療養中。イリスは付き添ってる。ここに来たのはボク一人だ」


 そう言うと、レーテは石碑に供えられた花を指差した。

 どうやらこれは、俺達よりも先に来ていたレーテが供えた物らしい。


「ティレーネに頼まれたんだ。自分が行けない分も、持って行って欲しいって」

「ティレーネちゃんは……?」

「だいぶ元気になって来たよ。まだ寝てろって言っても聞かないからイリスが苦労してる」


 そう言って、レーテは小さく笑った。

 その顔を見て、俺は安心した。

 ティレーネちゃんは自分の犯した罪に押しつぶされそうになっていたが、きっと少しずつ立ち直って来ているのだろう。

 テオの説得が、効いたのかもしれない。


「……でも、あの大学ってよく襲撃されてるじゃないですか。二人を残してきて大丈夫なんですか?」

「まぁ、もう世界も平和になったし大丈夫……」


 ヴォルフの問いかけにそう言って空を見上げたレーテの顔が引きつった。

 俺もつられて頭上を見上げて、そして息を飲む。


 雲一つない青い空には、悠々とドラゴンが飛んでいたのだ。


「うわああぁぁぁぁ!!? なんで!?」

「ちょっと待ってください! あれって……」


 ヴォルフが先手必勝とばかりに魔法を打ち込もうとしたレーテを制する。

 そこで、俺も初めて気が付いた。


 あの真っ赤な鱗……あれは……


「ま、待ってくださぁい!!」


 そして、ドラゴンの背中から小さな人影が飛び降りた。

 俺達は慌てたが、その人影――リルカはふわりと風に乗ったように難なく俺たちの目の前に着地してみせた。


「やっぱり、テオさん……」

「あいつ、何考えてんだよ……!」


 あのドラゴンは、俺達も良く知るテオだった。

 本当になんなんだあいつは。こんな真昼間からドラゴンになって空を飛ぶなんて、誰かに見られたらどうするんだよ!!


「よぉ、久しぶりだなお前たち!」


 テオはまったく反省のそぶりもなく俺たちの元へと降り立つと、やっと人の姿へ変わった。


「よぉ、じゃねーよ! 何考えてんだよ!!」

「すまんすまん、急いでいたものでな」


 俺の怒りなど気にせずに、テオは満面の笑みを浮かべていた。

 何がそんなに嬉しいんだろう。


「お前たちの家にも行ったんだが不在だったんでな。やはりここにいたか。レーテもいるな、ちょうどいい」

「俺たちになんか用?」


 テオは俺たちに会いに来た。

 ……なにか、あったんだろうか。

 訝しみながらそう問いかけると、テオは自信満々に告げた。



「喜べお前たち! 勇者、再開だ!!」



「…………はぁ?」


 悪いけど意味が分からない。

 勇者って、こいつは何を言ってるんだ……?


「お前、公的には処刑されたことになってるんだぞ? 今更勇者も何も……」


 教会の公式記録では、「勇者テオ」の姿を騙っていた邪竜は教団の手によって処刑されたことになっている。

 今更教会に「勇者を再開します!」なんて言っても、もう一度処刑される可能性だってある。


 そう言うと、テオはおかしそうに笑った。


「……クリス、お前にとって『勇者』とはなんだ?」

「え……?」


 勇者――俺がずっと憧れていた勇者


「勇者って言ったら、強くて、いつも頑張って戦ってて、みんなの希望で……」


 思いついたままに並べると、テオは嬉しそうに頷いた。


「そうだ、その通りだ! だから……教会の公認など関係ない。誰かの為に戦う者、それは皆、勇者と呼べるのではないのか?」


 いや、違うだろう……と心のどこかでは思っていた。

 だが、テオの言葉を聞いていると何故かそう思えてくるから不思議だ。


「大切なのは立場や役職ではない。何を考えて、どう動くか……それだけだ」

「あ……」


 テオはドラゴンでありながら、百年以上もこの世界の為に戦い続けている。

 きっと、そういうことなんだ。


 種族とか、性別とか、立場とか……そういうのももちろん大事だけど、でも、もっと大切なことがあるはずだ。

 人間の姿でもドラゴンの姿でも、テオはテオだ。


 この世界を……俺を、救ってくれた勇者。

 もう公認でもなんでもなくても、テオは確かに勇者だった。


 テオだけじゃない。魔族も精霊も……みんなそうなんだろう。

 それは俺だって同じだ。


 何よりも大事なのは、その「心」の方なんだろう。


 男でも女でも、結局……俺は俺でしかないないんだから!


「アルエスタ地方の砂漠でね、地中に謎の穴が開いて魔物が大量発生してるんだって!」

「そういうことだ! いまから倒しに行くぞ!!」


 何故かやたらと嬉しそうに、リルカとテオはそう告げた。

 なんかその顔を見てると、まぁいいかな……って気になってくるから不思議だ。


 上等だ。

 勇者、再開してやろうじゃないか!!


「……でも、それって利益とかあるの?」


 テンションMAXな俺たちの耳に、レーテの冷静な声が聞こえてきた。


「レーテ! 勇者ってのは利益とかじゃなくてなぁ……」

「魔物を倒した所で金が貰えるならいいけどさ、無報酬ならどうやって生活していくのさ。冒険者にでもなるつもり? すぐ正体バレそうだけど」

「あ……」


 そう言われて、俺はやっと気が付いた。

 ティエラ教会の公認勇者は、いわば職業だ。でも、これからテオがやろうとしている概念的な勇者は……?


「そういえば、今のテオさんはどうやって暮らしているんですか?」


 何気ないヴォルフの一言に、テオは明らかに気まずそうに目を逸らした。

 もしや……こいつも俺と同じく無職なのか!?


「……最近ミラージュが『ふぁっしょんでざいなー』なるものを始めてな、どうやらそれが軌道に乗り始めたらしい。今日も一緒に行くとごねていたが、仕事の打ち合わせの関係で不在だ」

「へぇ……」


 ミラージュは頑張ってるんだな。ファッションデザイナーか……。

 まさか、あの俺たちの常識では理解できないような露出度の高い服を商品化するんじゃないだろうな……


「……ていうかさ、じゃあ今のお前って……ヒモ?」


 まさかとは思ってそう問いかけると、テオは明らかにばつの悪そうな顔をした。

 ……やっぱりか!


「だっせーなっ! お前無職かよ!!」

「勇者とか言ってる場合じゃないんじゃないの?」


 俺とレーテの口撃に、テオは明らかに悔しげな顔をして反撃してきた。


「じゃあそういうお前たちはどうなんだ! ちゃんと就職先を見つけたのか!!」

「ボクは大学の警備隊に入ったから。今は休暇中だよ」

「え……?」


 てっきりレーテも俺と同じくふらふらしてると思っていたのだが、ちゃっかり仕事を見つけていたらしい。

 やばい、これは置いて行かれた気分だ……!


「クリス、お前は?」

「お、俺は『光の聖女』とか言われてるんだよ! すごいだろ!!」

「聖女って別に職業じゃないし、君も名乗り出るつもりはないんだろ。だったら無職と同じじゃないか」

「うぅっ……」


 レーテの鋭い突っ込みに俺はあえなく撃沈した。

 どう考えてもこの状況では俺が不利だ。

 だったら、ごまかすしかない……!


「魔物が大量発生してるんだろ! 早く行こうぜ!!」


 誤魔化すようにテオの背を叩くと、テオも早く空気を切り替えたかったのか、すぐにドラゴンの姿へと戻る。

 真っ先にその背中へと飛び乗る。すぐにリルカとヴォルフが乗って来て、呆れた顔をしながらレーテも乗ってきた。



 そして、ドラゴンは大空へと飛び立つ。



「よし、魔物退治にしゅっぱーつ!!」

「しゅっぱーつ!」

「クリスさんもリルカちゃんも、興奮しすぎて落ちないようにね」


 テオの背中ではしゃいでいた俺とリルカを、ヴォルフがそっと引き戻す。


 遠くのリグリア村が、山々が、森が……どんどん小さくなっていく。

 女神様の守る、俺たちの暮らす美しい大地。


 ルディスはこの世界から撤退し、取りあえず世界は平和になったように見える。

 でも、この空の下のどこかでは、今も悲しんでいる人がいるのかもしれない。

 全ての悲しみや苦しみを失くすことはできないだろう。

 それでも、できれば一人でも多くの人に笑っていて欲しいと思う。



 その為に俺に何ができるのかわからない。

 だから今は、とにかく何でもやってみよう。



 テオたちと一緒に勇者っぽいことをするのもいいかもしれない。



 恋とか、おしゃれとか……アンジェリカの夢をかなえるために、いっぱい遊びまくるのもいいかもしれない。




 でもそろそろ――




 就職先も、探さないとな!!



挿絵(By みてみん)



これにて完結です! クリスちゃんの就職はこれからだっ!!

気が付いたら百万字越えというとんでもない文字数になっていました(笑)


この作品に感想や応援メッセージをくださった方、レビューを書いてくださった方、ブクマ、評価をしてくださった方……そして、ここまで読んでくださった紳士淑女の皆さま!!

本当にありがとうございました! 何とかここまで辿り着けたのもすべて皆様のおかげです!!


本編は完結しましたが、私の中では終わったというよりも一区切りついた所という感じです。

まだまだ全然書き足りないので今後もちょこちょこと番外編を更新予定です!

またお暇な時にでも覗いてやってください!


最後に、ここまで読んでくださった記念に何か感想等を残していただけると死ぬほど嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 全てのキャラクターに特徴があり魅力的でした。お話の流れも非常に読み易かったと思います。 クリスちゃん可愛かったです!
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