3 そのリボンをほどいたら
みんな、それぞれの場所へと帰って行った。
ヴォルフはヴァイセンベルク家へと戻っていった。
リルカとイリスはアムラント大学への帰路につき、レーテもティレーネちゃんを伴って二人について行った。
テオはミラージュと共にどこかへ旅立っていった。
そして俺は……リグリア村に残ることになった。
寂しいけど、大丈夫。
もう二度と会えないわけじゃない、きっと……いつだって会いに行けるんだから。
だからしばらくはここで父さんと母さんと過ごそう。
二人には、いっぱい心配かけちゃったしな!!
俺はまた前みたいに平穏に暮らせると思っていた。思っていたんだけど……
「そうはいかなかった……という訳ですのね?」
目の前で、優雅に紅茶を注ぎながらオリヴィアさんがそう口にする。
俺は静かに頷いた。
オリヴィアさんは今俺の家に遊びに来ている。
でも、ここはリグリア村じゃない。
みんなが旅立ってしばらくした頃、教会の使者がクリス・ビアンキを探している、という話を聞いた。
どうやら解放軍か教会の誰かが王都でルディスを追い払った際にレーテの姿を見ていたようで、「勇者クリス」が世界を救った、なんて思われてしまったようだ。
それで、教会は「勇者クリス」を探しているらしい。
困ったのは俺達家族だ。そんなこと言われても「勇者クリス」であるレーテはリルカたちと一緒にフリジアに行ってしまったし、「勇者クリス」の代わりにビアンキ家に入り込んでいる俺の事を探られでもしたら大変だ。
前世でアンジェリカがされた事やニコラウスの件もあって、俺はどうにもティエラ教会、というものが信じきれなくなっていた。
できれば、このまま俺たちを放っておいてほしい。
……まあ他にもリグリア村に戻って来てから何故か俺に付きまとう奴が現れたり、そのせいでちょっと危険な目に遭いかけたりもしたので……俺達一家は早々に引っ越しを決めた。
でも引っ越すって言ってもどこに……と頭を悩ませた俺たちに手をさしのべてくれた人がいた。
ヴァイセンベルク家のジークベルトさんだ。
俺に会いに来ていたヴォルフから事情を聞いたのか、ジークベルトさんは驚くほど迅速に手はずを整えてくれた。
俺達に新しく住む家を、父さんと母さんには仕事を用意してくれ、俺たちは無事に教会に見つかる前にリグリア村を発つことができたのだ。
これが、少し前の話だ。
「それは大変でしたのね……」
そして今日は、俺がここに住み始めたというのを聞いたのかオリヴィアさんが遊びに来てくれた。
ここはヴァイセンベルク家の本拠地、シュヴァンハイム近郊の小さな村だ。
見た目は普通の村だが、実は住人のほとんどがヴァイセンベルク家に関わりのある人たちで構成されており、小さな村にも関わらず昼間から警備の兵がしっかりと巡回をしてくれている、非常に安全な場所だ。
ジークベルトさんは本邸に一緒に住もう、とも言ってくれたのだが、さすがにそれは気が休まらない気がしたので辞退しておいた。
今のこの家もヴァイセンベルク家の屋敷に比べたら小さいが、リグリア村の実家に比べれば失礼なほど大きい。これ以上なんて望めるはずもない。
「そういえば、最近オリヴィアさんはどうなんですか? ものすごい数の縁談が来てるって聞きましたけど……」
そう口にしてから、あっやばい。これは不用意な発言だったかな……と俺は焦ったが、オリヴィアさんは何でもないことのように微笑んでくれた。
「どうでしょうね……今のところは、まだ何も決まっていませんわ。家の者も、わたくしの意志でこれからの生き方を決めればいいと言ってくれましたし」
「その、好きな人とかは……」
「……残念ながら、そのような方はおりませんわ」
以前の彼女は、小説の中のような恋がしたいと言っていた。できるなら、俺も彼女にそんな望みを叶えて欲しいと思う。
「あの……ヴィルヘルム皇子はどうですか? 結構お似合いだと思うんですけど……」
ヴィルヘルム皇子の結婚相手としても、オリヴィアさんの名前が挙がっているのを知っている。二人は仲がいいし、周囲から見てもぴったりだと思われているんだろう。
だが、オリヴィアさんは紅茶を置くと少し難しい顔をした。
「こんなことを言うのは無礼だと重々承知はしているのですが、わたくしにとってヴィルヘルム様は弟のような存在なのです。今まで、そういった相手としては考えたことはありませんでしたわ」
「でも……弟みたいに思ってた相手が急にかっこよくみえたりして、どきどきしたりなんかして……」
「あら」
オリヴィアさんは俺に視線を合わせると、くすりと笑った。
「まるで実体験のようにおっしゃるのですね」
「ふぁ!? ち、違います今のは別に俺の体験じゃなくてあくまで一般論と言うかなんというか」
思わず立ち上がって必死に否定すると、オリヴィアさんはまたおかしそうに笑った。
その時点で俺はやっとからかわれていた事に気が付いて、大きく息を吸うと椅子に座りなおす。
そんな俺を見て、オリヴィアさんはふっと微笑んだ。
「……ですが、あなたが元気そうなのを見て安心しましたわ。今日はお暇させていただきます。もしわたくしの力が必要なことがあれば、いつでもこのオリヴィアを呼んでくださいね」
従者と共に去っていくオリヴィアさんを見送って、俺は大きく息を吐いた。
……みんな、少しずつ新しい道を歩み出している。
父さんと母さんはまだ仕事から帰らない。俺は一人お留守番だ。
……そう、現在の俺はよく言うと家事手伝い、悪く言うと無職なのだった。
◇◇◇
「おぉヴォルフ君いらっしゃい!」
「お邪魔します……」
「ほらクリス、さっさと茶の一つでも出さんか」
「うっさいなー」
夕方になって父さんと母さんが帰ってくると、その少し後にヴォルフもやってきた。
ヴォルフはこうして時々俺たちの様子を見に来てくれ、ついでに俺の血を吸ってったりもする。
ヴァイセンベルク家に戻ってからは結構忙しくしてるみたいなのに、中々マメな事だ。
俺は荷造りをやめ、お茶を淹れに立ち上がった。
「ヴォルフ君よく来てくれたわね。今日はクーちゃんがお夕飯作ったのよ! 是非一緒に食べて行ってちょうだい」
「えっ? いやそんなの悪いですし……」
遠慮するヴォルフを、父さんと母さんがぐいぐいとテーブルに着かせているのが見えた。
父さんと母さんにとってヴォルフはリグリア村を守ってくれた恩人だし、今の生活を与えてくれたヴァイセンベルク家の一員だ。感謝してもし足りないくらいの相手だろう。
田舎者特有の遠慮のなさに、ヴォルフは思いっきり押されているようだった。
「そういえばクリスさん、この荷物はどうしたんですか?」
ヴォルフは荷造り途中の俺の荷物を見つけたようだ。
お茶を出しながら、俺は何気なく答える。
「あぁ、ちょっとミルターナに行こうと思って」
「ミルターナ……? ご家族で里帰りですか?」
「ううん、俺一人で行こうと思ってるんだ」
そう口にすると、ヴォルフは紅茶を喉に詰まらせたようにげほげほと咳き込み始めた。
慌てて背中をさすると、その手を強く掴まれる。
「一人で!? いつ!?」
「あ、明日……」
「はあ!?」
ヴォルフは何故か怒ったように立ち上がると、高らかに宣言した。
「僕も行きます!!」
◇◇◇
「疲れてるくせに無茶しやがって……」
こうして俺の一人旅行の予定はヴォルフ同行となり、ヴァイセンベルク家が立派な馬車まで貸してくれた。
昔に比べたら何て楽な旅なんだろう。
ヴォルフは馬車に乗ってからずっと俺の正面で爆睡している。
……かなり忙しくしてるみたいだし、疲れていないわけがないだろう。
だから、今回の事も俺一人で行こうとしていたのに、こいつは結構な心配性だ。
……でも、悪い気はしない。
《ミルターナ聖王国南東部・王都ラミルタ》
辿り着いた王都は、思ったよりは復興しているように見えた。
あの戦いの最後、教団と魔物の群れにめちゃめちゃにされたように見えたが、案外人々は以前の生活を取り戻しつつあるようだ。
何となくティエラ教会の本部である聖堂に近づくのは怖かったので、俺は人が行き交う広場からそっと聖堂を見上げた。
「……そういえば、この広場が一番悲惨だったって聞いたぞ。魔物とドラゴンの死体で地獄みたいになってたって。お前もリルカもよく無事だったな」
今は綺麗になっているが、あの日のこの場所はとんでもない事になっていたらしい。
そう口にすると、ヴォルフは何故か気まずげに俺から目を逸らした。
「……まぁ、リルカちゃんはすごい子なので、ぱぱっとドラゴンも魔物も片付けてくれたんですよ」
「ふーん……」
その時お前は何してたんだよ、と聞こうとした時、背後から唐突に声を掛けられた。
「……おい、お尋ね者がこんな所で何をしている?」
弾かれたように振り返ると、不満そうな顔をした青年が俺たちのすぐ後ろに立っていた。
ティラの花の紋が刻まれた神殿騎士の証である鎧を身につけている。そこにいたのは、かつて解放軍に所属していた神殿騎士――アルベルトだったのだ。
「吸血鬼とその脱走補助をした者……。よくも堂々とこんな場所に姿を現せたものだな」
「ひ、人違いじゃない……?」
咄嗟に苦しい言い訳をすると、アルベルトは大きくため息をついた。
「……まだ元解放軍の奴らがうろうろしてるんだ。貴様らももっと慎重に行動しろ!」
アルベルトは声を潜めてそう注意してきた。
……よかった。彼は俺達を裁きに来たわけじゃないみたいだ。
ルディスがいなくなってから、ティエラ教会は新たな聖王を擁立し、少しずつ元の権威を取り戻そうとしている。
解放軍も解散し、教会に戻る者、冒険者に戻る者、普通の暮らしに戻る者……などみんなそれぞれの場所へと帰って行ったようだ。
「アルベルトは神殿騎士に戻ったんだな」
「当たり前だ! ティエラ様の神聖な使命こそが私のすべてだ!! 他の道などありえん!」
「新しい聖王はどうなんですか?」
「よくぞ聞いてくれた! あの御方こそ、この沈んだ世界に光を取り戻す……」
アルベルトはべらべらと新しい聖王を褒め称え始めた。
よかった。話の内容はあまり頭に入らないが、ティエラ様の狂信者とも言えるアルベルトがこんなに褒めているのなら、きっと悪い人じゃないんだろう。
間違っても、ジェルミ枢機卿のような裏の顔を持つ人物でないことを祈りたい。
「……そういえば貴様ら、『勇者クリス』の居場所を知らないか?」
「えっ!? し、知らないけど……」
クリスは俺だが、「勇者クリス」は俺じゃない。俺の元の体を持つ、レーテのことだ。
本当はレーテの居場所も知ってるけど、うっかりばらしたりしたらどんな目に遭わされるか想像しただけでも恐ろしい。
レーテはどうやら「勇者」として名乗りを上げるつもりはないみたいだ。俺からしたら、ちょっと羨ましいんだけどな。
アルベルトは特に追及はしなかったので俺は安心した。
「そうか……では『光の聖女』と呼ばれる者のことは?」
「光の聖女……? 何それ」
聞いたことのない言葉だ。
確かアンジェリカは「奇跡の聖女」だったはずだし、アンジェリカのことでもないんだろう。
首をひねると、アルベルトはじっと空を見上げて教えてくれた。
「あの日、空に大きな虹が架かり、世界は光を取り戻した……。そうだろう」
「はい。僕たちも見ました」
どこで、とは言わずに、ヴォルフはそう答えていた。
「あの虹はとある女が作り出したという目撃証言が上がっている。そいつが、『光の聖女』だ」
何とか平静を装うので精一杯だった。
イリスやみんなの助けを借りてだけど、直接あの虹を作り出したのは俺だ。
……まさか、その「光の聖女」って俺の事か!!?
「教会ではその女の行方を捜しているが、どうにも手がかりが無くてな」
「……もう、どこかに行ってしまったんじゃないですか」
ヴォルフも少し動揺しているようだ。
弱冠、表情がこわばっている。
「まあいい。クリスかその女の事がわかったら教えてくれ。ただのこのこと聖堂にやって来たりするなよ!? 見つかればまた吸血鬼だのなんだのと騒ぎになるからな!!」
そう言い残すと、アルベルトは聖堂の方へと去って行った。
残った俺とヴォルフはそっと顔を見合わせる。
「……クリスさん、遂に聖女とか呼ばれるようになったんですね」
「やっぱ、俺…………?」
俺としては、なんかあの時はその場の雰囲気にのまれて「えいやっ!」とやってしまったけど、たぶん今同じことをしろと言われてもできないだろう。
だから聖女とか言われてもいまいちぴんとこないし、そもそも俺はそんな柄じゃない。
「アンジェリカも『奇跡の聖女』とか呼ばれてたんだよな」
「……また枢機卿みたいな変な人を引き付けないように気を付けてくださいよ」
ヴォルフが咎めるように俺の頬を引っ張った。
……俺からすれば、俺なんかに執着するお前が一番変なんだけどな!
◇◇◇
夜になって、俺たちは宿屋……というか高級ホテルに泊まることになった。
さすがはヴァイセンベルク家。俺はこんな高そうな所に泊まるのは初めてだよ!
いつも泊まってたような安宿では絶えず周りの喧騒や物音が聞こえていたけど、ここは防音性がいいのか驚くほど静かだ。
毛布にくるまってもう寝る段階になって、俺は急にどきどきしてきた。
……だって、こんな風に他人の気配が感じられない場所で、二人っきりになるのは久しぶりだから。
「ねぇ、まだ起きてる……?」
「起きてますけど」
小さな声で問いかけると、すぐに返事が返ってきた。
ぎゅっと毛布を握りしめる。でも、自然と言葉が口を突いて出ていた。
「そっち行って、一緒に寝てもいい……?」
「………………は?」
ヴォルフは本当に意味が分からない、とでも言いたげな声を出した。
でも、もう我慢できない。
俺は自分のベッドを飛び出すと、勢いのままヴォルフのベッドにもぐりこんだ。
「ちょ、何して……!?」
「一緒に寝たい。お願い……!」
ぎゅっとしがみつくと、ヴォルフが息を飲んだのが分かった。
そのまま、震える体を抱きしめられる。
一人で来なくて良かったな……と、俺はヴォルフの思い付きに感謝した。
勇者に選ばれて初めてリグリア村を出てから、本当にいろいろな事がった。
悲しいこと、辛いこと、怖いこと……たくさんあった。
その影響か、恥ずかしいことに俺は夜一人では寝つけないようになっていたのだ。
家にいた時は、母さんと一緒に寝ていた。母さんは理由を探ることもせず、いつも一緒に寝てくれていた。
もう大丈夫だと思っていた。でも……やっぱり耐えられなかった。
今日まではなんとか寝付けないまま夜を過ごしてヴォルフに頼らないようにしていたが、もうそろそろ限界だ。
馬車の中でよく昼寝をしているので睡眠不足にはならないが、眠れない夜を独りで過ごすのは精神的には心細い。
ヴォルフが慰めるようにゆっくりと背を撫でてくれると、やっとこわばっていた体がほどけるのがわかった。
ほっと息をつくと背を撫でていた手が腰へと移り、そして唐突に寝間着代わりに履いていたズボンをずり降ろされた。
「…………はぁ!?」
「え、そういう意味じゃないんですか?」
ヴォルフの目は薄闇でもはっきりとわかるほどに金色に染まっていた。
……こいつ、どんだけ興奮してるんだよ!
「そういう意味じゃなくて……っ!」
「自分に好意を持ってるってわかってる男のベッドに入り込んでおいて、それはないですよ。……ていうか」
直に太ももの内側の敏感な部分をなぞられて、足が大きく跳ねる。
自分でも聞いたことのないような恥ずかしい声が漏れて、羞恥心で体が固まる。
その隙に、上半身を覆っていた寝間着まで脱がされていた。
ヴォルフの視線がじっと胸のあたりに寄せられている。
気まずくなって思わず目を逸らしてしまう。
「クリスさんだって……そういうつもりだったんじゃないですか」
「そ、それは……」
俺が身につけているのはいつもの地味な下着ではなく、前にアンジェリカが俺に無断で買った、ちょっと……というかかなり背伸びした感じの防御力が低そうな下着だ。
……確かに、こんなの付けてたらやる気満々だと思われても仕方ないよな。
「普段寝る時はブラなんてつけない癖に」
「何でそんな事知ってんの!?」
確かに俺は寝るときブラは着けない派だが、まさかヴォルフにばれているとは思わなかった。
このドスケベ吸血鬼め。どこまで俺の下着事情を把握してるんだ!!
……二人っきりで旅行。
もしかしたらこういうことになるかな……? いやいやそんなの飛躍しすぎだろ……、いやでももしかしたら……と思ってこっそり準備していたのが、功を奏した、と言ってもいいのかもしれない。
もし、もしもそういう事態になって……いつもの地味な下着で萎えられたりしたらちょっとショックだ。
そう考えて急いで引っ掴んできたのがこのちょっと、というかかなり大人びた下着だった。今思うと、やり過ぎ感は否めないな……。
この体は元はレーテの物だけど、死んでも傷ついても自己責任だってレーテにも言ったし、あいつもわざわざ処女だって言ったって事はこういう事態も想定していたはずで……たぶんそういう方面で問題はない、問題はないはずだ……。
緊張と羞恥心で爆発しそうな頭で、俺はぐるぐるとそんな事を考えていた。
「これもいいですけど、いつもの下着もクリスさんらしくて素敵ですよ」
「……なんかその言い方、変態っぽいぞ」
……どうやら余計な心配だったらしい。
肩、腕、背中……ゆっくりと素肌を撫でられる。
どこかくすぐったいような甘い刺激に、小さく吐息と甘えたような声が漏れる。
宥めるようにそっと口づけられて、胸の奥からじんわりと暖かなものが溢れた。
ニコラウスに触れられた時はあんなに気持ち悪かったのに、今は心地よくてたまらない。
やっぱり、そういうことなのかな……
初めて会った時は、なんて生意気なガキなんだと思っていた。……俺も人の事は言えないけど。
でも、今思い返せば……あの時からお前はいつだって俺の事を気にかけてくれていたんだな。
危ない時は傍にいてくれた。俺が一人になった時はいつも探しに来てくれた。
近くにいると安心する。触れ合ってる時は、すごく幸せだなって思う。
本当は、ずっと前から気づいてたのかもしれない。
俺も、お前のことが…………
「……これ、ほどいてもいいですか」
ヴォルフが胸元を覆う下着を結ぶリボンに手をかけて、そっと問いかけてきた。
頼りない下着は、そのリボンをほどけばもう体を守るという役割は果たさないだろう。
きっと、その紐を解いてしまったらもう後戻りはできない。
俺だって元は男なのに、男とこんなことしていいのかな……とか、やっぱりこいつは貴族で、本当は俺とは住む世界が違うとか、考えないわけじゃない。
…………俺は、お前に釣り合う相手にはなれないんじゃないかとか、悩むことだってある。
でも、いろいろ懸念はあるけど……今だけはそういう事は忘れて、自分の心のままに行動してみたかった。
「…………うん」
小さな声で了承すると、ヴォルフは安心させるように優しく俺の髪を梳いた。
そして
ゆっくりと、紐が解かれた。
(以下自主規制)
次はいよいよ最終話です!!




