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俺が聖女で、奴が勇者で!?  作者: 柚子れもん
第七章 大地の中心で愛を叫ぶ
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18 恋と友情

 部屋に戻って、俺は三人にラファリスと共にテラ・アルカへ行ってからのことを話した。


 ラファリスの正体が女神のアリア様だったこと。

 彼に世界樹に導かれ、とてつもない力を手に入れたこと。

 外に出た途端、枢機卿とルディスに乗っ取られたティレーネちゃんが現れたこと。

 ルディスがすさまじい闇の塊をこの世界に放とうとして、それをラファリスが止めたこと。

 そして……ラファリスが、死んだこと。


「そっか、ティレーネが……」


 レーテは難しい顔をして考え込んでいるようだ。

 思えばこいつは俺が初めて村を出て王都へやってきた日から、少し前までずっとティレーネちゃんと一緒にいたはずだ。気にならないはずがないだろう。


「俺、ティレーネちゃんの過去を見たんだ。何ていうか、すごく……」

「悲惨だった?」

「うん……」


 俺は生まれた時からずっとティエラ様を信仰していた。それは今も変わらない。

 でもティエラ教会には、俺の知らない凄惨な裏の部分がある。


「ボクもはっきりとは聞いたことはないけど、なんとなくわかるよ。ティレーネはボクと同じだって、会ってすぐにそう思ったから」


 レーテも幼いころから悪質な魔術結社に妹を人質に取られ、利用されていたと聞いた。

 この世界には優しい光の部分だけじゃない。そんな目を背けたくなるような闇が潜んでいるんだ。


「……ラファリスは光も闇もその全てを愛してるって言ったんだ」


 あいつは愛するこの世界を、最後まで守ろうとしていた。

 俺には女神様の気持ちなんてわからないけど、その思いに応えたいと思う。


「できれば誰も犠牲にならない方法で、この世界を救いたい」


 俺も、他の人も、誰も犠牲になんてさせたくない。

 そんな方法があるのかはわからない。でも、諦めたくはなかった。


「あのアコルドって奴はイービスガルトで待ってるって言ったんだろ。あいつをボコって何か吐かせよう」


 レーテは涼しい顔をして物騒な事を言いだした。俺は慌てたが、ヴォルフまでもレーテに同意し始めたのだ。


「そうですね。ラファリスさんと一緒にいたって事は、あの人もおそらくは神か、それに近い存在でしょうし」

「何か、知ってるってこと……だよね……!」


 最後の良心、リルカまでもがアコルドをボコる事に同意のようだ。

 でも俺も反対の意を唱えるつもりはなかった。

 あいつは、何の躊躇もなくラファリスの体を大地の裂け目へと投げ込んだ。……まだ、生きていたのに。

 何か理由があったとしても、それだけはどうしても許せない。


「とりあえず今日はもう寝よう。……あっ、君達はさっきの続きがしたいなら外に行ってくれよ」

「しねーよ馬鹿っ!!」


 レーテが俺とヴォルフの方を向いてそんな事を言ったので、恥ずかしさをごまかそうとさっさとリルカの隣のベッドにもぐりこんだ。

 頭のてっぺんまですっぽりと毛布で覆う。顔が熱い、まだ心臓がばくばく言っている。


 どうしよう。明日から、どんな顔してヴォルフに会えばいいんだろう。

 もやもやとそんな事を考えていたが、いつのまにか俺は寝入ってしまった。



 ◇◇◇



 翌朝顔を合わせたヴォルフは、まるで昨日のことが嘘のように腹が立つほどいつも通りだった。

 どうしよう、何を話そう……とか長時間考えてた俺が馬鹿みたいだ。一体あいつはなんなんだ!


「はぁ……」


 さっそくイービスガルトに出発するという事でため息をつきつつ荷物の整理をしていた俺は、不意に足音でシャラ……と何かが軽い音を立てたのに気が付いた。


「……んん?」


 どうやらベッドの下に何かが入り込んでいるようだ。

 四つん這いになって手を伸ばし、やっとその物体を引き寄せることに成功した。

 ベッドの下にあったのは、やたらと長い銀の鎖だった。先には首輪のようなものまでついている。


 ……なんだろう、誰かペットでも飼うつもりなんだろうか。スコルとハティが子犬みたいなものだし、別にあの二匹で良くないか?

 鎖を手に首をひねっていると、ぎぃ、と部屋の扉が開く音がした。

 振り返れば、ちょうどレーテが部屋に入ってくるところだった。


「なぁ、これ……」

「あぁ、それか」


 鎖を見せると、レーテは納得したように頷いた。


「それ、君のだよ」

「はあ? 別に俺こんなの買ってないし……」

「そうじゃなくて、君に使うための物なんだよ」


 レーテはいつも通りの顔で、とんでもない事を言いだした。


「俺に、使うって……」

「昨日君が別室に閉じこもった後ヴォルフが用意してたんだ。君が説得しても聞かなかったらその鎖で閉じ込めておくつもりだったって」


 シャラ……と俺の手を離れて鎖が床へと落下した。

 今、レーテは何て言った?


「僕もさすがに引いたよ。でもあいつは本気みたいで……。君が素直に戻って来てくれて良かったよ。まったく、リルカに見せられないような事態に発展したらどうしようかと……」


 レーテは俺の方を見て乾いた笑いを浮かべた。

 なんだよそれ……!!

 再び地面に落ちた鎖に目をやる。

 ヴォルフは俺が言う事を聞かなかったら、この鎖で閉じ込めておくつもりだった。


 そんなに、俺の事を心配してくれてたんだ……。


「……なに赤くなってんの」

「だ、だって……」


 今朝会った時はいつも通りだったから、てっきり昨日のあれこれは夢だったんじゃないかと疑い始めてたところだったんだ。

 あいつが俺の事を好き。それは、本気だと思ってもいいんだろうか。

 思わず手で頬を抑える、自分でも、熱くなっているのがはっきり分かった。


「……君さあ、あいつのこと好きなの」

「えっ?」


 顔を上げると、レーテが疑うような目をして俺を見つめていた。

 そこで初めて考える。

 ……俺は、ヴォルフのことが好きなんだろうか。


「…………わかんない」

「はあ? あれだけべたべたしといてよく言うよ!」

「だ、だって……俺、そういう意味で人を好きになった事ってなかったし……」


 俺も元々は男だ。かわいい女の子を見ればテンションが上がるし、一緒にいたいと思う。

 でも、特定の誰かに強く恋い焦がれるような経験は……今までなかった。


 ティレーネちゃんに初めて会った時、こんなかわいい女の子と一緒に旅に出たいと思った。

 リルカのことは大好きだし守ってやりたい。

 シーリンは元気でかわいいし、フィオナさんの高圧的な態度はぞくぞくするし、オリヴィアさんは素敵な人だと思う。

 でも、そのどれも「恋」とは違うような気がした。


 だからヴォルフに対する感情も、どういうものなのかよくわからなかった。

 あいつははっきり好きって言ってくれたのに、自分でもひどい奴だと思う。

 でもあいつが俺の事を好きだって、守るって言ってくれた時……確かに、俺は嬉しかったんだ。その恥ずかしいような、胸がじんわりと熱くなるような感覚を、経験値が低すぎて俺はまだ何て呼んでいいのかわからない。

 思い出すとまた恥ずかしくなってきて、ふぅ……と熱いため息をつく。

 そんな俺を見て、レーテは呆れたように言った。


「お子様だね、君は」

「じゃあお前はどうなんだよ! 誰かを好きになった事あんのかよ!!」

「ないよ」


 レーテはあっさりとそう言った。思わず拍子抜けしてしまう。


「……そんな余裕なかったし、生きるだけで必死だったから」


 レーテは少し悲しそうな顔をしてそう呟いた。

 俺はレーテの過去を良く知らない。でも、ルディスが見せたティレーネちゃんの過去のように、きっと俺が想像もつかないくらい大変な境遇で生きてきたんだろう。

 なんて言っていいのかわからなくて、黙り込んでしまう。

 だがレーテはすぐに表情を変えると、からかうような笑みを浮かべて茶化してきた。


「でも、ボクにとっては朗報かな。君、元の体に戻るつもりなさそうだし」

「えっ!?」

「いやまさか、あそこまでしといて男の体に戻るとか言わないよね? さすがにヴォルフがかわいそうだ」

「あ、愛に性別は関係ないし…………」

「でも家族も今の君を受け入れてくれたんだろ? 別にいいじゃないか」


 そう言うと、レーテは笑いながら部屋を出て行った。

 追いかけようとして俺は気づいた。

 きっとレーテは、あいつなりに俺を元気づけようとしてくれたんだろう。


 そっと窓越しに空を見上げる。相変わらず断続的に地震は起こっていたけど、空は青く澄み渡っていた。

 ラファリスが愛した美しい世界。それを、俺は守ってみせる。

 神様が死んだらどうなるのかはわからない。でも、できればどこかで見ていて欲しいと思う。


 初めて会った時、なんてちゃらくて面倒くさい奴なんだと思った。

 でもあいつはきっとあの頃からいろいろな物を背負って、必死に頑張っていたんだろう。

 その努力を、決して無駄にはしない。


「見ててくれよ、ラファ」


 決意を固めるようにそう口にする。

 残された時間は少ない。今は取りあえず、アコルドに会いにイービスガルトに行かなければならない。


 そうして俺たちは、様々な事があったアルカ地方を後にした。


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