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俺が聖女で、奴が勇者で!?  作者: 柚子れもん
第七章 大地の中心で愛を叫ぶ
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4 大地の中心

 《ユグランス帝国南部・大地の中心付近》


 特に何事もなく朝食を終えた俺たちは、そのまま村の外へと繰り出した。

 目指すのは大地の中心と呼ばれる場所だ。

 アルカ地方と呼ばれるこのあたりは、緑の少ない険しい環境に置かれている。


 今俺たちが歩いている場所も、赤茶けた大地の中にわずかな草木が見える荒野が広がっている。

 辺りを見回したが、今の所いかにも「大地の中心です!」と主張するようなものは何もない。

 あの宿屋の親父が言った通り、何もない乾いた大地が広がっているだけだ。


「うーん、もうちょっと先かなー」


 前を歩いていたラファリスがきょろきょろと周りを見まわし始めた。

 そのまましばらく歩くと、ラファリスは前方を指差して大きく声を上げた。


「あっ、あれだ!!」


 俺も目を凝らす。よく見ると、かなり向こうの方に何か岩のような物があるように見える。


「よかったよかった。見つからないかと思ったよ!」


 もう数時間も歩きっぱなしでだいぶ疲れていたが、俺もなんとか気力を振り絞る。

 よくわからないけど、あの岩みたいなのがあるところに何が秘密があるのかもしれない。

 そう思うと元気が出てきた。



「ぇ、これ?」


 辿り着いた先にあったのは、ただの岩だった。

 小さな民家一つ分くらいある大きな岩だが、やっぱり岩は岩だ。

 おそるおそるぺたりと触れてみたが、何も起こらなかった。


「じゃじゃーん。ここが大地の中心です!!」


 ラファリスはにこにこしながら拳で岩を叩いた。

 ここが大地の中心。この岩が目印って事なんだろう。

 この、どこにでもありそうな岩が。


 俺は思わずその場にしゃがみこんだ。


「ただの岩じゃん! こんなのどこにでもあるだろ!!」


 暑いし喉乾いたし足は痛い。

 なんでこんな苦労してまで何の変哲もない岩を見に来なきゃいけなかったんだよ!!


「まあまあ、そんなこと言わずに、ね? この岩、触ると御利益があるって言われてるんだよ!!」


 ラファリスはにこにこと笑ったまま俺たちに岩に触れるように促した。

 リルカはおそるおそる、ヴォルフは呆れたように、レーテは思いっきりイラついた顔をして岩に触れた。


「ほら、クリスちゃんも」


 いや、さっき触ったし……と思いつつ俺も岩に触れた。ご利益がある、とかいう話も怪しい事この上ないが、もうこうなったらやけくそだ。


「よし、みんな触ったね! じゃあ……」


 ラファリスは自らも岩に触れると、すぅ、と大きく息を吸った。



「行こうか、大地の中心へ」



 その途端、急激に何かに引き寄せられるような浮遊感を感じ、俺は思わず目を瞑った。

 すぐにその感覚は元に戻った。

 おそるおそる目を開いて、俺は自分の目を疑った。


「え…………?」


 俺たちは何もない荒野にいたはずなのに、視界に広がるのは暗い洞窟のような場所だ。

 あたりにはふわふわと光の粒が浮遊している。天井ははるか上で、俺はだだっ広い空間にぽつりと立っていた。


「何だよ、ここ……なあ」


 同意を求めて振り返って、俺は愕然とした。

 さっきまでリルカもヴォルフもレーテもすぐ近くにいたはずなのに、そこには誰もいなかった。


「え、ぇ……!?」


 慌てて辺りを見回した俺の耳に、どこかとぼけたような声が聞こえてきた。


「うーん、やっぱり君だったか……」


 慌てて声の方へと振り返ると、そこには困ったように笑ったラファリスが立っていた。

 ……さっきまでは誰もいなかったはずなのに。


「……ここはどこだ。みんなはどこに行ったんだ」


 きっとこいつが何かしたに違いない。

 ラファリスを睨み付けてそう問いかけると、彼はにっこりと笑って口を開いた。


「ここはね、『大地の中心』またの名を、『テラ・アルカ』だよ」


 もう驚かなかった。

 なんとなく、予想はできていたからだ。


「みんなは」

「こことは別の所にいる。大丈夫、すぐに会えるよ。だから、僕たちは先に進もう」


 ラファリスは俺に向かって手を差し伸べた。

 その手を取る気にはなれなかった。その前に、聞いておきたいことがある。


「お前、俺たちがここに来ることを知ってて待ち伏せてたのか」


 そう聞くと、ラファリスは静かに首を横に振った。


「君たちだとはわからなかった。でも、ここに来る人を待ってたって意味では正しいかな」


 ……よくわからないが、俺たち以外でも大地の中心を目指してやって来る者がいれば、それでよかったんだろう。

 きっとこいつは、うまいこと言いくるめてこの場所へと誘ったはずだ。


「お前は、何がしたいんだよ」


 敵だとは思いたくない。

 でも、俺たちは完全に騙されて分断された形だ。おそらく、ラファリスがそう仕組んだから。

 睨み付けると、ラファリスはまた困ったように笑った。


「……最終的な目的は、君達と同じ。僕はいつだって、この世界のために動いてる」


 前にも同じような事を聞いた。

 こいつの目的も俺たちと同じ。この大地の異変を止めるために動いていると。


 俺は世界を救うために、この大地を侵略しようとしている邪神ルディスを倒す方法を知る為にここに来た。

 百年前、おそらくアンジェリカもここにやって来て、そこで何かを知ったはずだ。

 俺はじっと目の前に立つラファリスを見つめた。


 ……こいつは、俺たちをこの場所へと誘導して、何かをしようとしている。

 アンジェリカも訪れた事のある、この場所で。


「……なあ、アンジェリカって知ってるか」


 そう問いかけると、ラファリスは驚いたような顔をしたが、すぐに目を伏せた。

 そのまま俺たちの間に沈黙が落ちる。たっぷり時間が経って、ようやくラファリスは顔を上げた。


「…………知ってるよ。運命に翻弄された、かわいそうな子だ」


 その答えにぞくりと背筋が寒くなった。

 アンジェリカは百年も前の人間だ。

 それを、かわいそうな「子」とこいつは言った。まるで、アンジェリカと実際に会った事がある様な口ぶりで。


「アンジェリカも、ここに来たんだよな」

「そうだよ。もう、ずっと昔のことだけどね」


 やっぱり、ラファリスはまるで当時の状況を知っているとでも言わんばかりにそう告げた。

 ……いや、きっと知っているんだろう。

 リルカはラファリスとアコルドの事を人間じゃないと言っていた。


 きっとこいつもテオのように、人間の姿をした何かなんだろう。


「お前、何者なんだ」


 真っ直ぐにラファリスを見据えてそう問いかけると、彼はにっこりと邪気のない笑みを浮かべた。


「一緒に奥まで来てくれたら、教えてあげる」


 またそれか、と言いたくなるのをぐっとこらえる。

 残念ながらこの場所には俺とこいつの二人だけ。

 元の場所への戻り方はわからないし、このまま戻っても何も得られない。

 ラファリスはやっぱり怪しく思えるけど、少なくとも今すぐ俺を害そうとする意志は感じられない。

 ここは、このままこいつについて行くしかないだろう。


 俺は黙ってラファリスに一歩近づいた。ラファリスは俺に同行の意志がある事が分かったのか、くるりと俺に背を向けて洞窟の奥の方へと歩き出す。

 俺は黙ったままラファリスの後を追う。相変わらず、周囲では細かい光の粒が舞っていた。


 この場所は一見天然の洞窟のように見えるが、よく見るとあちこちに何らかの模様や像のような物が掘られていた。

 俺とラファリス以外に人の気配はない。


 大地の中心――テラ・アルカ。

 ここは、一体なんなんだろう。


「……なあ、ここって遺跡なのか?」


 前を行くラファリスに声を掛けると、彼はぴたりと足を止めた。

 以前会った時もラファリスは遺跡に詳しいと言っていたし、ここも古代の遺跡じゃないかと思えた。

 俺たちはさっきまで大きな岩しかない荒野にいて、気が付いたらここにいた。

 もしかして。メスキアのようにここはあの荒野の地下なんだろうか。


「遺跡……といえば遺跡になるのかな」


 ラファリスは考え込むようにぽそりと呟いた。

 そして、穏やかな笑みを浮かべて俺の方へと振り返った。


「ここはね、お墓でもあるんだよ」

「墓……?」


 俺は慌てて辺りを見回した。

 人を象ったような像や、古ぼけてひびの入った石碑が目に入ってぞくりとする。

 墓……と言われればそう見えなくもない。


「誰の、墓なんだよ」


 震えた声で問いかけると、ラファリスは一歩俺の方へと近づいてきた。

 そして、少し屈んで俺に視線を合わせると、彼はゆっくりと口を開いた。



「僕と、君のだよ」



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