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俺が聖女で、奴が勇者で!?  作者: 柚子れもん
第七章 大地の中心で愛を叫ぶ
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3 人ならざる者

 ラファリスとアコルド。あの二人はおそらく人間じゃない。

 リルカは、そんなとんでもない事を言いだした。


「え、ええぇぇ!? それってどうい……ぎゃあっ!!」


 言葉の途中でいきなりレーテに脛を蹴っ飛ばされて、俺は痛みのあまりその場にうずくまった。

 その途端バタン! と勢いよく戸を閉める音がした。そっと振り向くと、ヴォルフが荒々しく部屋の戸を閉めたところだった。


「静かにしろよ」


 レーテが小声でそう告げて、隣の部屋との壁を指差した。

 俺は思わず自分の手で口を押さえる。

 ……そうだ。あの壁の向こうにはさっきの二人がいる。あまり騒いだら聞かれてしまうだろう。


「……リルカ、どういうことなんだ?」


 ひそひそ声でそう問いかけると、リルカはじっと考えるようなそぶりを見せた。

 ラファリスたちに聞かれないように俺たちはリルカの元に集まって、リルカの答えを待った。


「リルカ……自分が、精霊だってわかってから……少しずつ、そういうのが分かるようになったの」


 そういうの……というのは、さっきの話だと人間とそれ以外の区別がつくようになったという事だろうか。

 リルカは顔を上げて、じっとヴォルフを見つめた。


「ヴォルフさんも、前と……ちょっとちがうよね」


 俺とヴォルフは思わず息を飲んだ。まさか、リルカがヴォルフの変化に気が付いているとは思わなかったからだ。

 リルカと再会してから、俺たちはヴォルフが吸血鬼の本能に覚醒したことを話していなかった。急にそんなこと言ったら、リルカがショックを受けるんじゃないかと思ったからだ。

 その間に何度か吸血はしたが、決してリルカには見つからないようにしていた。

 だから、リルカはなにか決定的なものを見たわけではなく、本能的にヴォルフが魔族だという事を感じ取ったのだろう。


「……ごめん、もう少ししたら話そうと思ってたんだけど、僕は……半分吸血鬼なんだ」

「で、でも今は落ち着いてるし……全然大丈夫だからな!!」


 リルカがショックを受けたらどうしよう……と思って慌ててそう説明したが、リルカは取り乱す事も無くしっかりと頷いた。

 ……どうやら、リルカは俺たちが思っていた以上に強くなったみたいだ。

 俺は怖がられなかったことにほっとした。


「へぇ、じゃあたまに君たちが二人でいなくなってたのって……」

「血を吸ってたんだよ。もちろん、俺の血しか吸ってないからな」


 ヴォルフの名誉のためにそう付け加えると、レーテは何故かにやついた顔で口を開いた。


「そうだったんだ。てっきり二人でボクやリルカに言えないような事をしてるのかと……」

「バ、バカ! 何言ってんだよ!!」


 恥ずかしさのあまりレーテの足を思いっきり踏みつけると、どうやら急所にヒットしたようでレーテは声もなく崩れ落ちた。

 ざまあみろ!……変なこと言い出すからだ!!


「あの……さっきの話に戻して、いいかな……?」

「「ごめん」」


 リルカが遠慮がちにそう切り出してきたので、俺もレーテも慌ててリルカに向き直った。

 リルカは緊張したように息を吸うと、そっと隣の部屋との壁に目を向けた。


「あのね……前に会った時は、よくわからなかったんだけど……やっぱり、人間とはちょっと違う、ような気がする」

「……正体に心当たりは?」


 そっと聞くと、リルカは静かに首を横に振った。


「精霊でも、魔族でもない……でも、嫌な感じはしないよ」


 あの二人が何者なのかはわからない。そして、リルカ曰くたぶん人間じゃない。

 それでも、やっぱり悪い奴じゃない気がする。

 ラファリスは、俺たちが大地の中心に同行すれば正体を教えるというようなことを言っていた。それに、そこに俺の求める答えがあるとも。

 俺はアンジェリカがどうやってルディスを撃退したのかを知りたい。

 大地の中心とラファリスとアンジェリカ……そこにどんな関係があるのかはわからないが、きっと行ってみないと何もわからないだろう。


「俺は、あの二人と一緒に行くべきだと思う」


 自分を奮い立たせるためにも、俺ははっきりとそう口にした。

 てっきりレーテには反対されるかと思ったが、奴はじっと腕を組んだまま何も言わなかった。


「こっちは四人あっちは二人。……何か企んでいたとしても、充分切り抜けられます」


 ヴォルフはまだあの二人を疑ってるようだったが、俺の意見に反対まではしなかった。

 さっきの言葉を聞く限り、きっとリルカも俺と同意見だろう。後はレーテだけだ。

 俺たち三人の視線を一身に受けて、レーテはやれやれと肩をすくめた。


「何かを得るためには、危険な橋を渡らなければならないって事か。……あまり気乗りはしないけどね」

「まぁ大丈夫だろ。…………たぶん」


 レーテの同意も得た。明日は、精々気を抜かないように大地の中心へ行こう。

 隣室の気配が気になったが、ベッドに横になるといつのまにか俺は寝ていた。



 ◇◇◇



 翌朝、キャンキャンとやかましい鳴き声で俺は目が覚めた。


『クリスー、起きてよー』

『外であそぼー』


 俺の腹の上に乗ってキャンキャンと騒いでいたのは、案の定俺の契約している精霊のスコルとハティだった。


「おい、静かにしろよ……ここがペット禁止だったらまずいだろ」


 何せこの村には宿屋が一軒しかないのだ。ここを追い出されたらまた野宿生活に逆戻りだ。

 部屋を見渡せば、三人はもう起きていた。寝坊とまではいかなかったが、俺が一番起きるのが遅かったようだ。

 とりあえずスコルとハティに説教だな……と身を起こしたところで、コンコンと控えめに部屋の戸が叩かれた。


「……出るよ」


 そう言うと、了承も得ずにレーテは部屋の戸を開けた。

 その向こうに立っていたのは、満面の笑みを浮かべたラファリスだった。


「おはよう、いい天気だね!! 今日はよろしく。朝食の準備してるから着替えたらおいでよ!!」


 まるで遊びに行くような気軽さで、ラファリスはそれだけ告げると廊下を歩いて行ってしまった。

 昨日のだらけた格好とは一転、今日のあいつは初めて会った時のように、きっちりと服やら髪やらを整えていた。

 もしこの村に女の子がいっぱいいたら、またキャーキャーやかましい事この上なかっただろう。


「何なの、あいつ」

「あんまり気にしない方がいいぞ」


 不満そうに呟いたレーテに、俺は気休め程度に声を掛けた。

 ラファリスはいつもあんなテンションだが、その実何を考えているのかはよくわからない。

 まあ何か企んでいたとしてもこっちは四人、あっちは二人……しかもラファリスは戦力にならなさそうだから実質四対一だ。

 たぶん何とかなるだろう。


 着替えて食堂へと降りると、ラファリスは機嫌良さそうに楽器を奏で、アコルドはのん気に茶を啜っていた。

 ……なんか緊張感抜けるな。


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