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俺が聖女で、奴が勇者で!?  作者: 柚子れもん
第四章 白の神獣、黒の魔獣
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33 事後処理

 夜が明けて、シュヴァルツシルト家の人たちは目を覚ました。

 もちろん屋敷はめちゃくちゃで、シュヴァルツシルト家の息子の一人は死亡一人は行方不明なんていう散々な状況で、あたりは大騒ぎになった。

 

 もしかして、居合わせた俺たちやばくない……? とちょっと心配になったが、事態を収拾したのは自身も怪物になりかけたシュヴァルツシルト家当主その人だった。

 

 彼は後は自分が何とかするからとにかく休め、と俺たちを屋敷の空いている部屋へと追い立てた。

 

 まぁ休めと言われても、こんな状態で休めるわけもない。

 俺はしばらくの間はなんとか眠ろうと頑張ったが、結局眼が冴えて眠れなかった。

 仕方なく、俺は適当にその辺りをぶらぶらすることにした。一人でじっとしていると、嫌な事ばかり考えてしまうからだ。


 廊下へ出ると、使用人たちが忙しく走り回っている。見たところ、みんな元気そうだ。

 ディルクさんやミトロスがどんな手段を使ったのかはわからないけど、とりあえずは後遺症がなさそうで安心だ。

 テオとリルカが屋敷中の闇の発生源を燃やした、と言っていた通り、屋敷はあちこちが焼け焦げていたり、壁が引き裂かれていたりした。

 ……後で弁償しろ、とか言われないかな。もしそうなったら全部魔物のせいにしてしまおう。

 そんな事を考えながら歩いていると、ふと廊下の向こうに見慣れた人影が見えた。


「ヴィルヘルム皇子……?」


 相変わらず派手な仮面をつけたその奇妙な姿は、ヴィルヘルム皇子のものだった。

 彼は窓辺に立ち、じっと下を見ているようだ。

 使用人たちも訝しげにちらちらと皇子を見ながら横を通り過ぎていく。

 ……皇子だってばれてはいないようだが、やっぱりあの仮面は別の意味で目立ちすぎるな。


「……やあ、君も眠れないのかい?」


 皇子は立ち止まった俺に気が付くと、少しだけ眉を寄せて笑った。


「あんなことがあった後では無理もないが……休めるうちに休んでおいた方がいいよ」

「……あなたこそ」


 そう言い返すと、彼は窓の外に目をやり曖昧に笑った。


「……オリヴィアが頑張っているのに、私だけのん気に休むわけにはいかないよ。手伝おうと申し出たのだが追い出されてしまってね……」


 俺も窓から下をのぞくと、そこにはオリヴィアさんがシュヴァルツシルト家の当主に何事か話しているのが見えた。

 ……あんなことになって、きっとオリヴィアさんはすごくつらいはずなのに、今もこうして気丈に頑張っている。

 その姿を見たら、俺もますます部屋に帰って眠ろうなんて気にはなれなかった。


「……オリヴィアさん、大丈夫でしょうか」


 無理をしてるんじゃないか、どこかでぽっきり折れてしまわないかと俺は不安になったが、ヴィルヘルム皇子は心配ないとでもいうように首を振った。


「……あいつは強い。きっと死ぬほど落ち込んで死ぬほど後悔するだろうが……いずれ、必ず立ち直るさ」


 そう言ったヴィルヘルム皇子の顔からは、オリヴィアさんに対する信頼がありありと見て取れた。その顔を見ていると、急に疑問がわいてきた。

 

 そもそも、オリヴィアさんとヴィルヘルム皇子はどういう関係なんだ?

 

 皇子はシュヴァルツシルト家の危ない噂を聞いて、オリヴィアさんが心配で変装までして、ここまで来たと言っていた。

 

 ……その時点でだいぶおかしいような気はする。

 

 それに、オリヴィアさんも婚約者であるアルフォンスさんに対しては今まで二回しかあった事がないと言っていたし、どこかよそよそしい感じもした。でも、皇子に対しては掴みかかるし叱咤するし……けっこう遠慮がなさそうに見える。

 二人は親しい間柄なのだろうか、友達とか、もしかして、恋人、とか……!?

 皇子はオリヴィアさんの結婚を邪魔するつもりはないと言ってたけど、本心ではオリヴィアさんに結婚してほしくなくて、二人の結婚を阻止する為に来たんじゃ……?

 そんな事をぐるぐる考えていると、俺の表情に出ていたのか皇子が訝しげな顔をした。


「どうかしたのかい?」

「いえ…………あの、皇子とオリヴィアさんって……どういったご関係なんですか……?」


 失礼かな、とも思ったが、俺は正直に聞いてみることにした。

 きっとこの機会を逃したらもう気軽に皇子様に会う事なんてできないだろうし、やっぱり気になるものは気になるのだ。


 皇子は俺の問いかけにしばらくぽかん、としていたがすぐに意図を察したのか苦笑しながら答えてくれた。


「別に時代に引き裂かれた恋人同士……とかそんなものではないんだよ。……私の母がグリューネヴァルト家の出身でね。オリヴィアとはそう、親戚で幼馴染のような間柄なんだ」


 なんだ、意外と健全な関係だった。

 ちょっとがっかりした俺の事など気にせずに、皇子は窓の外へと視線をやると懐かしそうに目を細めた。


「オリヴィアは今でこそ落ち着いているが、昔はとんでもないおてんば娘でね。よく一緒に野山を駆け回って、嫌がる私に虫やカエルを押し付けて来たものだ」

「……なんて恐ろしい」


 考えただけでもめまいがする。

 俺だったらカエルを押し付けられた時点で失神しかねないな。


「オリヴィアが男で私が女だったなら……とグリューネヴァルト家の者たちはよく笑っていたよ。……そう、オリヴィアは強い。私なんかよりもずっとね」


 過ぎ去った過去に思いを馳せるかのように、皇子は小さく笑った。


「だから、今回の事もいずれは立ち直る。時間はかかるだろうけどね……」


 皇子は俺は安心させるように、優しくそう言った。俺も窓の外のオリヴィアさんに目をやった。あんなことがあったのに、彼女は疲れすら感じさせずにきびきびと動いている。

 ……すごいな、どうしたらあんな風になれるんだろう。

 じっとオリヴィアさんを見ていると、彼女の所へ見慣れた人影が近づくのが見えた。

 あれはヴォルフだ。変装か何なのか、フードを目深にかぶって顔を見えづらくしている。


「……彼にも迷惑をかけてしまったな。ヴァイセンベルクの立場からすれば、シュヴァルツシルトの問題には関わりたくなかっただろうに……」

「あのっ、今回の事でヴァイセンベルク家に何か罰が……とか、無いですよね……?」


 それが一番心配だった。俺個人でオリヴィアさんを助けた事に後悔はない。

 でも、そのせいで何かヴァイセンベルク家に迷惑が掛かったらどうしよう……と俺はひそかに心配していた。

 すると、皇子は俺を安心させるようにゆっくりと首を振った。


「今回の件で感謝こそすれど、ヴァイセンベルクに何か咎が行くようなことはないさ。例えシュヴァルツシルト家の人間が感づいたとしても、元々は身内の問題だ。大事にはしないだろう。万が一何か問題になったとしても私が何とかする。それは保障するよ」

「そうですか、よかった……」


 安心して俺は大きく息を吐いた。皇子はそんな俺を見てくすりと笑ったが、ふと何か考え込むような表情を見せた。


「……それにしても、ヴァイセンベルク家に三人目の息子がいるとは知らなかったな。不躾で済まないが、彼には何かそうせざるを得ないような理由があったのかい?」


 皇子は探る様な目つきで俺を見ている。

 ……本人のいない所で人のプライベートな情報をあまりぺらぺらと話すのはよくない。そう思ったが、相手は皇子だ。逆に隠した方が何か不振がられるかもしれない。

 悪いと思いつつも、俺はヴォルフに聞いた話を目の前の彼に話すことにした。


「あの、ヴォルフ自身は……自分が妾の子供だから他の家族と離されて育ったと言ってました」

「なるほど……」


 皇子は口では納得したような事を言ったが、相変わらず何かを探るようにオリヴィアさんと話しているヴォルフの事を見ていた。

 ……俺はなにかいけないことでも言ってしまったんだろうか。


「あの、何か……?」


 おそるおそる問いかけると、皇子は慌てたように俺の方を振り返った。


「いや、そういう理由なら納得できないこともないんだが、すこし妙だと思ってね……」

「妙……?」


 皇子は少しだけ声を潜めて、俺の方へと顔を近づけた。


「我々六貴族にとって最も大切なことは家の存続だ。その観点から見れば、第二、第三の妻を娶ることはある意味理にかなっているとも言える。妾を持つこと自体はそこまで非難される事象でもないんだよ」

「そうなんですか?」


 てっきり愛人の子なんて外聞が悪いので遠ざけたと思っていたが、どうやらそういうことでもないのかもしれない。


「もちろんその家自体の考え方や、正妻の実家との兼ね合いもあるが……ヴァイセンベルク家がそこまで厳格だとは聞いたことがないな。彼が隠されて育ったのは……他に何か理由があるのかもしれないね」

「理由……」


 乏しい知識で頭を巡らせてみたが、それっぽい理由は思い浮かばなかった。

 ヴァイセンベルク家、人里離れたブライス城、そこに襲来するドラゴンや魔物……駄目だ、やっぱりわからないな。

 頭をひねっていると、やっと俺たちの存在に気が付いたのかオリヴィアさんがこちらへ向かって手を振った。


「ヴィルヘルム様! 少しお話したいことが……」

「ああ、今行く!!」


 皇子はすぐにそう答えると、俺に向かって微笑みかけた。


「つまらない話に付き合わせて悪かったね。私は行くが、君はゆっくりと休んだ方がいいよ」


 俺が頷くと、皇子は小走りで去って行った。オリヴィアさんの所へ行くんだろう。

 ……それにしても、いくら気安い関係だとしても一国の皇子を呼びつけるんだ、オリヴィアさん。

 うーん、やっぱりとんでもない人かもしれないな……。

 一人でそんな事を考えていると、こちらへと近づいてくる足音が聞こえた。

 皇子と入れ違いになるようにやって来たのは、さっきオリヴィアさんと一緒にいたヴォルフだった。


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