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俺が聖女で、奴が勇者で!?  作者: 柚子れもん
第四章 白の神獣、黒の魔獣
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15 アンジェリカ

 もう隠し事はしない、とテオが言ったからだろうか、昼食の間、ヴォルフとリルカは少しずつ自分の事を話してくれた。

 ヴォルフの話は俺が前に聞いたものとほぼ同じだった。

 ヴァイセンベルク家の事、この城の事、拾ってくれたノーラさんの事、精霊の事……。


「もう少ししたら、一度ヴァイセンベルクの本邸に行こうと思っているんです。もうこの城から連絡自体はいってるはずですが、僕の口から直接父に話をした方がいいと思って……叔父の事も含めて」

「……俺たちも行く。いいよな?」


 まあ断られてもついて行くつもりだったが、ヴォルフは普通に頷いた。

 家族に会いに行くだけなので危険はないと思いたいが、もしもヴァイセンベルク家の人間が、あのグントラムみたいな奴らばっかりだったらと思うとちょっと心配だ。


 リルカは俺たちと別行動している間の事、精霊の母ときょうだいの事について話してくれた。

 その話を聞いて、俺は安心した。

 元々リルカの家族を探すためにフリジア王国に行って、結果はリルカがホムンクルスだったなんて言うとんでもないものだったけど、俺たちのやったことは無意味じゃなかった。

 人間のいう家族とは少し違うみたいだけど、リルカにもちゃんと家族が、それにちょっと微妙だけど錬金術師のルカとクロムも育ての親……みたいなものだろう。

 解体する、なんて言い出した時は焦ったけど、またリルカを作り直してくれたという事はきっとあのルカだってリルカの事をそれなりに思ってくれているはずだ。


「急いで出てきちゃったから、フィオナさん……心配、してるかも」

「そうだなー。ヴァイセンベルク家に行った後はフリジアに戻った方がいいよな」


 フィオナさんにはかなりお世話になったのに、俺はろくに挨拶もできずにこんなところに飛ばされてしまったのだ。

 大学も大変な状態だったし、一度様子を見に戻ってもいいだろう。


「そうか、二人ともそんなことがあったんだな……」


 テオはしみじみと呟いた。それには俺も同感だ。

 二人ともまだ小さいのに、波乱万丈な人生を送ってるもんな。

 まあ、リルカの場合は精霊でホムンクルスだし、人生って言葉が正しいのどうかわからないけど。


「クリス、おまえはどうなんだ」


 テオはスプーンをかちゃりと置くと、真剣な目で俺を見据えた。


「え、俺?」


 そんな真剣な顔されても、俺にはレーテに体を入れ替えられていきなり女になってしまった! という事以外は特筆することない平凡な人生を送ってきたので、三人に比べてこれといった話はないんだ。


「俺は別に……」

「……アンジェリカ、という名前に心当たりはないか?」


 その名前を聞いた瞬間、自分でも体が跳ねたのが分かった。

 その途端、テオはすっと目を細める。


「……やっぱりな」

「なん、で……その名前……」


 起きる前に見た夢で、何度か俺の夢に出てきた女性の名前がアンジェリカだという事が分かった。

 

 ……そうだ。どこかで聞いた名前だと思っていたけど、以前テオが船の中で寝ぼけて呟いた名前じゃないか!

 

 てっきりテオが酒場かどっかで知り合った女性の名前だと思っていたけれど、もしかしてあの夢の中の女性の事をテオも知っているのだろうか。


「教えてくれ。どこでアンジェリカの事を知ったんだ」

「それが……夢に、出てくるんだ」


 そこで初めて、俺は今までに何度か見たアンジェリカの夢の話をした。

 正直こんな話されても反応のしようがないよな、と思っていたけど、テオは真剣な顔で何か考え込んでいる。


「何かその夢に心当たりはないんですか?」

「うん……もしかしたら、レーテが俺は人とか物の記憶を視ることができるようになったって言ってたから、その影響かと思ってたんだけど……」


 アンジェリカの夢を見た場所はばらばらだった。その場所の記憶を視ていたわけじゃないんだろう。

 そこまで考えて気が付いた。

 テオは、そのアンジェリカという女性の事を知ってるぽかったじゃないか!


「お前はどこでアンジェリカの事知ったんだよ」


 逆にそう聞き返すと、テオは大きく息を吐いた。柄にもなく緊張でもしているみたいだ。


「……さっき、一人の女に負けたと言っただろう。そいつがアンジェリカだ」

「…………え!?」


 思わず立ち上がってしまった。

 テオを負かすなんてどんなメスゴリラかと思っていたけど、あの胸の大きい女性に負けただって!? 

 こいつ、巨乳に見とれてたんじゃないだろうな……。


「その人って……真っ赤な髪で、胸の大きい……」

「…………そうだ」


 やっぱり、俺の知ってるアンジェリカとテオの言っているアンジェリカは同一人物なんだ。


「じゃあ……テオの記憶を視てた、のか……?」

「……その可能性はあるだろうな」


 なるほど、テオの記憶という事なら場所は関係ないんだろう。ちょっと納得できた気がする。


「……あの大学で蜂を追い払った魔法があるだろう。あれも夢で見たものなのか?」

「いや……あれは急に頭の中に浮かんできたというか……」


 なんとか当時の事を思い出そうとする俺を、テオは訝しげに見ていた


「……アンジェリカも同じ魔法を使っていたのを見たことがある」

「じゃあ、やっぱりテオの記憶が流れ込んできた……みたいな感じなのかな」


 寝ている時は夢として出てくるけれど、起きている時は急に頭の中に浮かんだりするものなのかもしれない。

 今度レーテに会ったら聞いておこう。


「……クリス。あまり自分で習得した魔法以外を使わない方がいい」

「え、なんで?」


 アンジェリカの夢で見た魔法の中には、何の役に立つんだよ、と言いたくなるようなものもあったけど、結構使える魔法もあった。

 だからいきなり使うなと言われても困るんだが……。


「強すぎる力はその身を滅ぼす。アンジェリカに扱えたからと言って、すぐにお前にも扱えるとは限らないんだ。未熟な状態でその身に余る魔法を使えば……すべて自分に反動が帰ってくることになるんだぞ」


 その時、何かが床に落ちた音がした。

 思わずそちらを見れば、ヴォルフが真っ青な顔でスプーンを取り落としていた。


「本当、なんですか……」


 何をそんなに慌てて……と考えてすぐに思い当たった。

 ――強すぎる力は身を滅ぼす。

 ヴォルフの叔父、グントラムは大地の力を借りてドラゴンを倒し、反動で死んでしまった。

 もしかしたら、ヴォルフは俺もそうなるんじゃないかと危惧しているのかもしれない。

 ……こんな所でトラウマを刺激してしまうとは思わなかった。

 俺はヴォルフを安心させようとわざと軽く言ってやった。


「大丈夫だって! 今までそんなことなかったし……危なそうな魔法はもう使わない!」

「ほんとに、ほんと……?」


 リルカまで心配そうに声を掛けてきたので、俺は慌てて手を振った。


「本気だよ! そんなのなくても十分やってけるしな!!」


 知らない魔法は意識して使わないようにすればいい。でも、話に聞いたテオがドラゴンになった時みたいに、俺が知らないうちに魔法を使ってたらどうすればいいんだろう。

 ……というか、何でそんな事が起こるんだろう。


「なぁ、テオ。俺がお前をドラゴンに戻したのって何でかわかるか? 全然記憶になくてさ」


 テオなら何か知ってるんじゃないかと聞いてみたが、奴は静かに首を横に振った。


「…………わからんが、神の啓示とかではないのか?」

「そうなのかな……」


 またそれか。自分でも俺は神様に選ばれるような人間だとは思えない。

 でも、いきなり全然知らない魔法を使ったりするのは神様がそう指示しているんだろうか。

 悩んでいると、その場の空気を変えるようにテオはぱん、と手を叩いた。


「ほら! 食べたならさっさと行くぞ!!」

「え、どこに?」


 そう聞き返すと、テオは呆れたような目を俺に向けた。


「どこって……ヴォルフの実家に決まっているだろう」

「あ、そっか……」


 ヴォルフは自分自身で今回の事を父親――ヴァイセンベルク家の当主に話すと言っていた。なるべく早い方がいいだろう。


「クリスさんはもう大丈夫なんですか? 三日も寝てましたけど……」

「それが全然平気なんだよな。何故か……」


 起きてからの俺は元気そのものだ。それに、こんな所で足を引っ張るわけにはいかないしな!

 しばらくの間この城の事はフリッツが何とかすると言っていたので、俺たちは急いでヴァイセンベルク家当主の元へと向かう事にした。

 そうして俺たちは、城の人たちへの挨拶もそこそこにブライス城を後にした。


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