狂郷とダックスフンド
狂郷「底本さん、ここは一つ、面白い話をしてもいいですか?」。狂郷は人差し指を立てる。
底本「えー、面白い話?」。ぐだーっとしてる。
狂郷「嫌ですか?」。狂郷は申し訳なさそうな表情をする。
底本「いや別に構わないんだけどさー。狂郷の言う『面白い話』って、言うほど面白くないんだよなあ」
狂郷「えー、そんなこと言わないでくださいよ。そんなの聞いてみないと分からないでしょう」。ゲラゲラ。
底本「はいはい。分かったよ。どうぞ気が済むまでお話しください」。底本は肩をすくめる。
狂郷「えへへっ、それではお話しますね。あれは、私が散歩をしているときでした……」
*狂郷の想像の中*
私は特にやりたいことがなかったので、そこらへんの景色を適当に眺めながら歩いていました。
まあ景色と言っても、土手を散歩していたんで、周りにあるのは田んぼや畑ばかりだったんですがね。その他にも飛んでいる鳥なども見ていました。
それでしばらく歩いていると、前方から犬を散歩している女性が見えたんです。見た感じ私達よりは歳上でしたね。わんちゃんはダックスフンドでした。とても可愛らしかったですよ。
そして私はその犬の散歩をしている女性の横を通り過ぎようとしたんです。すると……
女性「あの、すみません。この犬、撫でてもらえませんか?」
と、その女性に頼まれたんです。
狂郷「ええ、全然いいですよ」
と、私は一応答えました。まあ断る理由がないのでね。
女性「よかった! 実はこの子生まれたばかりなので、人見知りしないように色んな人に撫でてもらっているんですよ」
狂郷「そうなんですか! ならば何がなんでも撫でざるを得ませんね!」
というわけで、私はそのわんちゃんを撫でてあげたんです。
そしたらですね、わんちゃんがすごくはしゃぎまくったんですよ! さらに、毛並みもとても綺麗で触ると心地良くて、私はそれだけで本当に素敵な気持ちになりました。
女性「わあ! こんなにはしゃいじゃって、よかったわねえ」
と女性も言ってました。いやあ、幸せな経験ができました。わんちゃんも可愛かったですからね。
*
狂郷「とまあ、こんな感じの出来事がありました」。狂郷はまた人差し指を立てる。
底本「ふーん」。底本はふてくされている。
狂郷「どうしたんですか。そんなぶすっとして」。ゲラゲラ。
底本「いやだってさあ、拙者断然猫派だしさあ、別に犬なんかに興味ないんだよね」。底本は口を尖らせる。
狂郷「いやいや、私はどちらもいけますから。底本さんも、実際に触れ合ってみれば、きっと考えが変わりますよ」。ゲラゲラ。
底本「果たしてそうかなあ……」
密かに、狂郷を羨ましがっている底本であった。