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vs.消火器 上

消火器「凍れぇーっ!」


芸次(げいじ)「危ねぇ!」



 芸次は消火器の繰り出す絶対零度の噴射を間一髪で避ける。



芸次「くそっ! こいつの攻撃は見た目以上に危険だ。避けても残る空気がマイナス何十度にまで下がるせいで、それに触れる皮膚に痛みを感じる!」



 芸次は冷えた手がかじかまないように、ハァハァと手に息を吐きかける。


 一方で、平賀(ひらが)弥七(やしち)の愛車である赤いフェラーリの陰に隠れていた。



平賀「一体やつの内部はどんな構造をとっているんじゃ? 人間一人を一瞬で、それも体の芯まで凍らせるのは絶対零度でも不可能じゃ。となれば、やはり、やつの持っている能力は非科学的で超越的なのか?」



 消火器の噴射がフェラーリに直撃し、一部分に氷が張る。



平賀「あまりにも強力な冷却力じゃ。これじゃあ、たとえお湯でも一瞬で凍ってしまう……」


芸次「ジジイ! お前は足手まといだからコンビニの中にでも隠れていろ!」


平賀「なんじゃと! わしを年寄り扱いするんじゃ――」


芸次「いいからどっか行け! 死にてぇのか!」


平賀「っ……!」



 平賀は芸次の指示に従い、歯を噛みしめながら、対峙する二者に近づかないようにしてコンビニ内へ退避した。



消火器「くっくっく、老いぼれ一人を逃がして一体何の役に立つんだ? お前があいつをおとりにして逃げれば、少しでも有利な状況を作ることができたかもしれないのに」


芸次「あいにく、俺は人を見殺しにするような人でなしではないもんでね」


消火器「いいや、お前は嘘をついているな」


芸次「何?」



 消火器は宙で高笑いをするようにホースをブンブンと振り回す。そして、ナイフを構えるかのように先を芸次に向けた。



消火器「お前は親切だから老いぼれを逃がしたんじゃない。たとえあいつを身代わりにして逃げたとしても、この俺に勝つことはできないと知っていたから、その醜態を見られないために遠ざけたのだ!」


芸次「……いいや、違うな」



 芸次は不敵な笑みを浮かべる。



芸次「確かに俺は嘘をついた。だが、それは俺が醜態をさらさないためではない。ジジイをここにいさせては危険だったからだ!」


消火器「おぉん? 何言ってるかわかんねぇな」


芸次「わからないだろうな」



 芸次は臨戦態勢をとった。



芸次「頭まで無機質なお前にはわからないだろうなぁーっ!」


消火器「なんだとこの毛虫野郎がぁー!」



 消火器がむやみやたらに冷却噴射を繰り出す。


 それに対して、芸次は傍にあった車や電柱を盾にして避ける。



消火器「おいおいおいおい! 逃げてばっかりじゃねぇかよぉー! お前ぇは一体何がしたいってんだよぉー!」



 芸次は答えなかった。



消火器「もしかして怖気づいて言葉も話せなくなっちまったかぁー? 無機物の俺でも話せるってのになぁ! かっかっか!」



 挑発されてもなお、芸次は応じない。ただ、噴射に当たらないように逃げ回っていた。



消火器「ちっ」



 盾にしていた電柱が限界だと気づいた芸次はそこから離れようと足を前に踏み出す。



消火器「ちょこまかと逃げ回ってんじゃねぇ! このネズミ野郎がぁーっ!」



 ついに消火器の攻撃が芸次の左足に命中する。


 芸次は不意を突かれて地面に転がった。辺りは消火器が打ちまくったせいで白い霧に包まれている。



消火器「随分と長い間逃げ回ってくれたじゃねぇか。おかげでこの辺りはマイナス二五〇度くらいになるんじゃねぇか? ここまで気温が下がれば筋肉も硬直して動きが鈍くなるってもんだ。一体お前は何を企んでいたんだ。まさか、俺の中身を使い果たせようと思ったのか?」



 消火器が芸次に近づく。



消火器「バカかお前は! 俺は邪神だぜ。限界なんてない神様だ。力は有限じゃないんだよ。無限なんだよ!」


芸次「ふん、バカはお前だ」


消火器「何ぃ?」



 芸次は右腕を消火器に向け、何かを放出した。


 消火器はその途端に麻痺したように動けなくなる。



消火器「お、お前、俺に、何をした……!」


芸次「電気を流したのさ」


消火器「なん、だと……!」


芸次「自然界には不思議な現象があってな。ある金属や化合物は絶対零度に近い温度まで冷やされると、電気抵抗が急激にゼロになるんだ。つまり、電流が劇的に通りやすくなるんだ。この現象を科学界では『超伝導』と呼ぶ。そしてお前は皮肉にもその条件を作ってくれた。絶対零度に近い空間を!」


消火器「貴様ぁ! 利用したな!」


芸次「ジジイを逃がしたのは、ここにいてはあいつまで電撃を食らってしまうからだ。お前がジジイを殺してよくても、俺が殺すのはよくないからな」



 消火器は電撃から逃れようと身を震わせる。



芸次「無駄だ。冷気に満たされたこの空間で電撃から逃れることはできない」


消火器「ふっ、逃げることができないなら――」



 消火器は力を振り絞って冷気を噴射する。


 その攻撃は不運にも芸次の右腕に命中する。その瞬間、消火器は麻痺状態から解き放たれた。



芸次「何っ!」


消火器「運が良い!」



 消火器は芸次から離れ、コンビニの出入り口前まで後退する。



消火器「かっかっか! 危ないところだったぜ! まさかお前が電気を扱う能力者だったとは知らなかったが、これでお前は電気を扱えまい! もしお前が左手でも電気を流すことができたならば、かっこつけずに両手で力を使うべきだったな!」



 芸次はまずいと思った。消火器がコンビニの出入り口前に移動したせいで、自動ドアが開けっ放しになり、コンビニ内の常温が外に漏れ出てしまっている。これでは遠距離の攻撃が行えない!


 本来、芸次の能力は触れたものに電気を流せるというものだった。しかし、今回の戦闘では相手が冷気を扱う能力者だったため、触れていなくても超伝導を利用して相手に電気を流すことができた。そして、確かに左手からでも電気を流すことはできる。だが、気温が上昇しては意味がない! あともう少し電圧を上げれたら破壊できたのに!



芸次「万事休す、か……」

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