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双頭ノ蛇

底本(そこもと)(とんでもないおっさんと同乗してしまったでござる……!)



 底本は快くトラックに乗せてくれたおっさんの横で怯えた表情のまま固まっていた。

 不敵な笑みを浮かべるタンクトップのおっさん。

 底本はその笑みが示す恐ろしい目論見を知ってしまったのだ。



底本(このおっさん、拙者を――)



 プルルルルル プルルルルル


 突然底本のスマホに電話がかかってきた。

 発信者は、狂郷(きょうごう)だ。


 底本はそれを確認すると即座にスマホを耳に当てた。



底本「狂郷! 助けてくれ! 大変なんだ! 拙者は今――」



 底本はこれ以上言うのをためらった。最悪な状況であるとはいえ、自分に危害を加えかねない本人の前で助けを求めるのはいささか剣呑(けんのん)ではなかろうか。

 いや、そんなことを考えている暇はない!



底本「拙者は今! ケツが掘られそうなのでござる!」



 そう、底本を拾ったおっさんはゲイだったのだ。



底本「だから助けてくれ! 狂郷ぉぉぉっ!」


??「い、一体何の話をしているんだ……?」



 しかし、スマホから聞こえたのは狂郷とは違う声だった。




 *



男性「い、一体何の話をしているんだ……」



 狂郷の乗る車では同乗者全員がスマホから聞こえる叫び声に酷くうろたえていた。



狂郷「底本さん! 助けてください! 私、強盗に拉致されました! 今拳銃を頭に突きつけられています! ケツなんか気にせず助けてください!」


少年「うるせぇ! 黙ってろ! 撃つぞ!」


底本「誰だお前! 狂郷がそこにいるのは分かったでござるが、誰だお前! いいから狂郷に代われ!」


男性「会話が成り立たねぇ……」



 強盗の首謀者である男性は大きくため息をついた。



女性「もう要件だけ伝えたら?」


男性「ああ、そうだな」



 男性は再びスマホを耳に当てる。



男性「おい、何を言っているのかさっぱり分からんが、俺らはお前の友人を拉致した。返して欲しければ5000兆円持ってこい。いいな?」


底本「え、何? 大江戸温泉?」


男性「『5000兆円』だ!」



 ブツンッ



 *



底本「あっ……」



 底本は呆然としてスマホの画面を見つめる。

 電話を切られてしまった。



底本「どういうことでござるか! 拙者はどうなるんでござるか!」


おっさん「向こうはえらい修羅場のようだなぁ」



 おっさんは呑気にタバコを吹かしている。



底本(こっちも修羅場でござるよ!)


おっさん「で、お前はどうするつもりなんだ?」


底本「……何?」


おっさん「友だちが拉致されたんだろう? 助けに行くのか?」


底本「そうは言っても、どうやってでござるか?」


おっさん「俺に任せろ」



 おっさんはそう言うと、アクセルを思い切り踏み込んだ。



 *



狂郷「うわぁぁぁっ! 助けてくださいぃぃぃっ!」



 狂郷は懲りずに暴れていた。



少年「こいつ、どうして銃を突きつけられているのに言うことを聞かないんだ!」


男性「どうにかして黙らせろ!」



 少年は拳銃のグリップを狂郷の頭に振り下ろす。


 ガンっ! ガンっ!


 しかし、狂郷は刀の柄で少年の攻撃を防いだ。



狂郷「いやぁぁぁっ! こわいぃぃぃっ!」


少年「どうなっているんだこいつは!」


男性「あと少しで基地だ。そこで拘束しよう。縄で縛れば暴れることもできないだろう」


女性「そうね。それにしても、とんでもない人を乗せちゃったわね」


男性「乗せなかったら車ごと爆破されていたかもしれないからなぁ」



 車が古びた廃倉庫に入っていく。

 狂郷は無理やり車から降ろされ、椅子と一緒に縛られてしまう。



少年「なんで縛られるときは大人しいの? こういうの好きなの?」


狂郷「いやぁ……」



 まんざらでもない様子である。



少年「マジかぁ……」


女性「ところで、これからどうするの? 5000兆円持ってこいと要求したものの、場所を言っていないから来れないんじゃ?」


男性「それなんだよなぁ。あまりにもカオスな状況だったから大切なことを言いそびれてしまった。どうしたものか……ん?」



 男性は狂郷の腰に差していた刀に目を止める。

 そしてそれを(さや)ごと引き抜いた。



男性「そういえばお前、この現代社会では珍しいものを持っているよな」



 刀を少しだけ抜き、刃の薄さを見て計る。



男性「これ、本物か?」


狂郷「返してください!」


男性「ほーう、こりゃ高く売れそうだな」



 狂郷はこれまでにないほどの剣幕で暴れようとする。



男性「なんだ、この刀はそんなに大事なものなのか?」


狂郷「ええ、その刀は、その刀は――!」



 椅子とともに床に倒れる。



狂郷「その刀は底本さんの持つものと全く同じ――『双頭ノ蛇』なんです!」



男性「『双頭ノ蛇』か。二つの頭があるせいで別々の思考をするため、動きが悪くなってしまう双頭の蛇。貴重なだけで欠陥品のような生物に思えるが」


狂郷「しかし、分裂した双頭の蛇は一匹の蛇のようにシンクロして動きます。ただの蛇なんかとは比べ物になりません」


男性「ほう、じゃあ、お前の友人は場所を教えずともここに来るのか?」


狂郷「ええ、来ますよ」



 狂郷がそう言った瞬間、一台のトラックが倉庫の壁を突き破ってきた。

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