二人以上の乗った車で何も起こらないわけがない
底本「いやぁ、助かったでござるよ」
キミ「にゃー!」
底本は走行中のトラックの助手席に座っていた。頭には止血用の包帯が巻かれている。
おっさん「いいのさ、血だらけの人間が道路に倒れているのを見ちまえば、助けないわけにはいかねぇからな」
運転席には、なかなかいかつい体格のおっさんが座っていた。金髪のオールバック、肉食獣を彷彿とさせる鋭い目、何度も殴られたかのように潰れた鼻、微かに覗かせる黄色い歯、白い無地のタンクトップ、迷彩柄のパンツ。トラックを運転する者として相応しいと思える風体の男だ。
車内は非常にタバコ臭かった。運転席と助手席の間および後ろのスペースには、大量のタバコの空き箱が放置されている。
外では大粒の雨が道路と車を叩いていた。
底本「おっさんに拾われてなかったら、拙者はあそこで息絶えていたでござるよ」
おっさん「あれほど大量に出血してりゃ、すぐに病院へ搬送されても死んでいたかもしれねぇな。すごい生命力だよ」
底本は無事|(?)にヒッチハイクを成功させた。トラックは狂郷の乗り込んだ黒い軽自動車を追っている。
おっさん「ところで、あんちゃんはどうして道路の真ん中で倒れていたんだ?」
底本「ああ、それは……」
事の顛末を話す。
おっさん「はっはっは! そりゃ災難だったな!」
底本「笑い事じゃないでござるよ! 死にかけたのは分かっているでござろう!」
底本とおっさんは楽しそうに談笑する。
おっさん「あ、そうだ。……ほらよ」
前を向いたまま、一万円札五枚を底本に手渡す。
底本「ん、お金? 何でござるか?」
手渡された合計五万円を見て、怪訝な表情を浮かべる。
おっさん「お礼の金さ」
落ち着いた声で言った。
底本「お礼? お礼とは一体…………ま、まさか」
おっさんの目論見に気付いた瞬間、顔を青く染める。
*一方その頃狂郷は*
狂郷「こんな私を乗せてくださり、ありがとうございます」
狂郷は子ども連れの家族が乗る車の後部座席に座っていた。
運転席には三十代と思われる男性が座っている。七三分けの黒髪、青いシャツにジーンズ。いかにもお父さんといった男性だ。
その隣には茶髪のロングの女性。白いフィッシャーマンズセーターにベージュのチノパンツ。歳は運転席の男性と同じくらいと思われるので、おそらく男性の妻だ。
狂郷の右隣には大きな黒いバッグを抱える少年が座っていた。短くも長くもない髪、虚ろな目、水色のパーカー、紺のカーゴパンツ。身長を見ると小学生高学年と思われる。
車内のスピーカーからは天気予報の声が流れてくる。明日は曇りと報道している。
男性「いえいえ……(断ったら何されるか分かんねぇからな)」
おびえた表情で言った。
狂郷「それにしてもすごい雨ですよねぇ」
窓から外を眺める。雨の中、バイク屋やガソリンスタンドが後ろへ流れて行く。
女性「天気予報では言ってなかったのにねぇ(雨どころじゃないわ)」
男性「ところで、どこまでお連れしましょうか(早く降りてくれ)」
狂郷「とりあえず仙台までお願いします」
屈託のない笑顔で答える。底本を蹴ったことはすっかり忘れているようだ。
男性「分かりましたー(遠いわ!)」
少年がモゾモゾと体を小さく動かす。
狂郷「それにしてもお子さん、ずいぶんと大きな荷物を持っていますねぇ。何が入ってるんですか?」
少年と黒いバッグを見て尋ねる。
男性「……特に珍しいものは入ってないですよー。その子のおもちゃが入ってるだけです」
少し間を空けて答えた。
少年はバッグを抱いたまま体を右に傾ける。
狂郷「へー、気になりますねー。ちょっと見せてくださいよー」
少年の持つバッグに無理やり手を伸ばす。
女性「ちょっと! プライバシーの侵害ですよ! やめてください!」
顔をこちらに向けて怒鳴る。
狂郷「おもちゃにプライバシーなんてないでしょう? 別にいいじゃないですかー」
力ずくでバッグを奪い取ろうとする。顔は笑ったままである。
男性「ちょ、乱暴は、やめっ――」
男性が言いかけた瞬間、バッグの口が下を向き、中身が流れ出てきた。
札束の山である。
狂郷「……お金?」
足元に落ちた札束を見て言った。
カチャリ。
頭の傍でひややかな音が鳴る。
狂郷が視線を上げると、そこには拳銃を構えた少年がいた。
ラジオ「速報です。先程、仙台市太白区島津一丁目の七百七十銀行に強盗が入りました。強盗は三人組であり、一人は男性、一人は女性、一人は少年と見られます。そのうち少年は拳銃を所持しており、職員に銃を突きつけて、バッグに現金を詰め込ませたとのこと。逃走に使用された車は黒の軽自動車。車のナンバーは50-10です。この車を発見したら、すぐに110番してください。もう一度言います。車のナンバーは50-10です。『強盗』と覚えてください」
少年「見られちゃったら、しょうがないね」
狂郷は、猫のキミちゃんを置いてこなければよかったと後悔した。
世界的に有名なYouTuberのネタをパク――オマージュしました。