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えげつないヒッチハイク

 平賀(ひらが)の発した二人の名に、弥七(やしち)はぴくりと眉を跳ねさせた。



弥七「おい、どうして知っているんだよ!」と若い爆弾魔は老いぼれに迫り寄る。


平賀「ど、どうしてって……、連れだからじゃよ」その老いぼれは狼狽ろうばいしながら答えた。


弥七「連れ? じゃあ、あいつらの言っていた平賀という男は――」


平賀「ワシじゃよ」


芸次げいじ「じじいのことはどうだっていい。その貧しそうな名前と狂っていそうな名前の者達はどこにいる」とクールガイな男は弥七に尋ねた。


弥七「津島つしまという男のところだぜ。ここからじゃ南へ上ることになる」


芸次「よし、行くぞ」


平賀「待て! 弥七とかいうの、さっき津島と言ったのか?」今度は老いぼれの方が爆弾魔に迫り寄る。


弥七「ああ、そうだけど」しかし弥七は平然としていた。


平賀「貴様、どうやって彼に近付いた! 彼は友だちが酷く少ない哀れな青年なんじゃぞ! 騙して傷付けてはいないだろうな?」老人は弥七の胸倉を掴み持ち上げる。


芸次(なんだこのじじい、突然津島という男をけなし始めたぞ)



 *その頃、津島は……*



津島「ヘックション! んー、風邪ひいたかな……」



 *



弥七「それなら平気だよ。この催眠波動装置を使ったからね。騙したことには変わりないけれど、対象者を傷付けることは意図しない限りありえないし、用がなくなったら部分的に記憶を消すこともできるからね。なんならあんたの記憶も消してやろうか?」と抵抗のできない青年は腰から妙な形の機械を取り出し、にやけ顔で応じる。


平賀「……なら問題ない」納得して弥七を下ろした。


芸次(いいのかよ)


弥七「血気盛んなのか、物分りがいいのか分からないじいさんだな。まあいいや、近くの地下駐車場に車を止めてあるぜ」そう芸次に伝え、路地裏から出ようと歩み出す。


芸次「よし、取りに行こう」と芸次も弥七に続いて歩き出した。


平賀「待て、ワシも連れて行ってくれないか?」



 すると歩き始めた二人は足を止め、平賀を振り返る。



芸次「弥七、車には何人乗れる」


弥七「四人だけど」


芸次「……ついてこい」



 そしてまた二人は歩き始める。平賀もそれに続いて。




 *一方、底本そこもと狂郷きょうごう達は……*



底本「うえぇ……、びしょびしょでござる」


狂郷「そりゃ川で溺れればそうなりますよ」



 二人と猫のキミはバイパス道路の歩道に移動していた。



底本「しかし狂郷、拙者は思ったのだが、別に歩いて行かず、電車で仙台まで行ってもよかったんじゃないでござるか?」


狂郷「私も同じことをついさっき思ったのですが、どうやらその選択をしなくてむしろ正解だったようです」


底本「どういうことでござるか?」


狂郷「スマホに通知が来たのですが、つい先程仙台の街中で爆発があり、交通機関の機能が停止しているらしいです」と底本に爆発に関するニュース記事をスマホで見せる。


底本「そうだったのか。平賀殿も無事ならいいのでござるが……」


狂郷「なるべく早く行った方がいいですね」


底本「それを数ヶ月前の狂郷に言ってやりたいでござるな」


狂郷「まあ、そんな無駄口叩いていても仕方がないので行きましょうか」そう言って彼らは歩き出したが――。



 ポツ、ポツ、ポツポツ、ポツポツ、ポツポザァーッ!



底本「むっ、雨? さっきまで晴れていたのに!」


狂郷「ゲリラ豪雨ですね。すぶ濡れの底本さんにとっては結果オーライですね」


底本「言ってる場合か!」


狂郷「しょうがありません、ヒッチハイクでもしますか」


底本「ん、ひっち……何だって?」


狂郷「ヒッチハイクです。運転手さんにアピールして車に同乗させてもらうんです」


底本「へぇー、アピールってどんなのでござるか?」


狂郷「例えばですね……ふんっ!」狂郷は突然底本を道路に蹴り飛ばした。


底本「きゃあああぁぁ――ぐへぇっ!」蹴り飛ばされた底本はちょうど走ってきた黒の軽自動車にはねられる。


キミ(えええぇぇぇぇ!)黒と白の猫は酷く驚く。


運転手の主人「えええぇぇぇぇ!」運転手の男も酷く驚く。



 狂郷は運転席側にまわってガラス窓をノックする。



運転手の主人「はい、何でしょうか……」と恐る恐る狂郷に尋ねる。


狂郷「いやぁ、実はこれから仙台に行こうとしていたんですがね、急な豪雨に見舞われてしまい困っているんですよ。それでどうか同乗させていただけないかなあと」さっき人を蹴り飛ばしたとは思えない程の笑顔で運転手に事情を話す。


底本「このサイコ野郎がぁ……」底本の目前に広がる「50-10」のナンバープレートは頭部からの出血のせいで赤く滲んでしか見えない。


運転手の主人「いや、でも家族も一緒にいるので……」


狂郷「だけど一人分空いているじゃないですかぁ。いいですよねぇ?」そう圧力をかける。


運転手の主人「ひいいいぃぃぃぃっ! 乗ってください!」



 狂郷はその車の後部座席に乗り込む。



狂郷「それじゃ底本さん、この車は満席みたいなので別の車を捕まえてください。また目的地で会いましょうね」と狂郷は言い残して去って行った。


底本「あの野郎、ただじゃ置かねぇ……」



 路上に置いていかれた底本とキミ。


 しかし血だらけな底本の前に、一台のトラックが停車したのだった。

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