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川を渡ろう!

 平賀ひらが源内(げんない)奪還のため、津島つしま宅を出た底本そこもと狂郷きょうごうは近所の堤防で広い青空を眺めながら、これからの道程を考えていた。



底本「さて、とりあえず津島君の家を出発したものの、拙者達はどこへ向かえばいいのでござるか?」と腕を組んで狂郷に尋ねる。


狂郷「そうですね。平賀さんは、とある闇政府の手によってさらわれてしまったので、仙台の中心地――つまり、ここから北西へ向かえばいいと思います」


底本「北西というと、あっちの方でござるね」と遠くでビルが立ち並んでいる方角を指さす。


狂郷「そうです。しかし向こうへ行くには川を渡らなければなりませんね」と堤防の下を見下ろす。



 彼らの位置から底本の指し示した場所の間には一本の細い川が流れていた。



狂郷「少し遠回りになりますが、ここから南の方に橋があるので……って、あれ?」



 狂郷のすぐ横にいた底本は、いつの間にか姿を消していた。



狂郷「底本さん? 底本さん、どこにいるんですか?」とあわててあちこちを見回す。


底本「おーい! 狂郷ー!」すると川の方から彼の声が聞こえてきた。



 狂郷が声の方を向くと、底本が既に川岸にスタンバイしていた。



狂郷「底本さん何をしているんですか!」と大声で底本を呼びかける。


底本「平賀殿の元へ行くには、ここを渡らなければいけないのでござろう? だからそうしようと思って、こっちへ来たのでござるよ!」同じように大きな声で応える。


狂郷「他人の話は最後まで聞いてくださいよ! 南の方へ行けば橋がありますから、それを渡って行きましょう!」と指で方角を示す。


底本「でもこれくらいの距離なら歩いて簡単に渡れるでござるよ。服が濡れても、この天気ならすぐ乾くでござろう?」そう言って川の中へ足を踏み入れる。


狂郷「あ! ちょっと!」



 底本は狂郷の声がけに耳もくれず、ジャブジャブと川を横切って行く。



底本「ほら、全然平気でござるよ!」


狂郷「あー、まったくもう!」と、懲りて川辺に降りて来た。



 しかし、狂郷が川辺に到着したときだった。



底本「……あ! この川、深い!」その瞬間、彼は川の中に落ちた。



狂郷「あれ、底本さんがまたどこかへ行ってしまった?」と、とぼけた顔で辺りを見回す。しかし河原にも川の上にも底本の姿はない。


底本「ぶぼぼぼぼぼぼ! おっ……、溺れるうううぅぅぅぅ!」すると川の中から顔だけがひょいと出てきた。


狂郷「あ、いた! って、底本さん!?」


底本「うぼぼぼ……、し、死んじゃうゥ!」


狂郷「底本さんが溺れている! あぁあぁ、どうしよう……」川辺をあたふたと走り回る。


底本「狂郷……! 何かこの状況を打破する優良な案はないか……!?」


狂郷「ないです!」


底本「えぇ……(絶望)」



 底本は再び沈んだ。


 そしてまた出てきた。



底本「ブハァッ! 助けて……、狂郷っ! 津島君っ! キミちゃ――」



 刹那、底本は大量の水飛沫みずしぶきと共に川の上空を舞った。



底本「うおおおぉぉぉぉっ!?」


狂郷「何だァ!?」空中へ舞い上げられた底本と謎の噴水を目を丸くして凝視した。すると、噴き上げた水の中に何かがいることに気付く。



 その何かが底本を宙に突き上げたということだ。



狂郷「あ、あれは!」そして彼はその正体を認識した。



キミ「みゃぁぁお!」



 そう、溺れていた底本を打ち上げた何かの正体、それは擬人化した黒白の猫――キミちゃんだった!



 そして底本はそのまま落下し、向こう岸の河原に強く叩きつけられる。


 キミちゃんは子猫の姿に戻り、底本の傍に華麗に着地した。



 *



狂郷「底本さーん!」彼は底本の二の舞とならぬよう安全策を取り、わざわざ南の橋を渡って底本達の元へ来た。


底本「ん、んあぁ……」倒れたまま目を回している。


狂郷「ありゃ、随分と強い衝撃を受けたんだなあ」哀れな底本の姿を見て苦笑した。


キミ「みゃぁお」と可愛らしい声で狂郷に鳴きかける。


狂郷「ああ、キミちゃん。底本さんを助けてくれてありがとうね」キミちゃんに歩み寄り、頭を撫でてあげる。


キミ「みゃぁ」



狂郷「さあて」と横になっている底本を見た。「まだ川を渡っただけというのに、この有様か……」



 狂郷は頭を抱えて横に振った。



狂郷「先が思いやられるなあ……」



 そう、侍二人の任務は、まだ始まったばかりだ。

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