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本当の冒険への旅立ち

 とある朝の出来事。



狂郷きょうごう底本そこもとさん、底本さん!」と狂郷が焦った様子で布団の中に潜っている底本を揺り動かす。


底本「ん、んあぁ……? なんだぁ、狂郷?」底本は寝ぼけながらひょっこりと頭を出した。「朝からこんなに騒いでどうしたんだ?」


狂郷「底本さん! 私達すっかり忘れていたことがあるんですよ!」天然な男は半狂乱になって半目の底本に唾を吹っかける。


底本「うおっ、汚ねえ! おい狂郷! 拙者はちゃんと聞いているから、もうちょっと落ち着いて話せや!」と後ろ髪を一つに結んだ男は唾でべとべとの顔面を腕で拭いながら怒鳴る。


狂郷「あ、すみません」急に平常を取り戻して阿呆みたいな顔をした。


底本「そんで、その忘れていたことってのは、一体何なんだ?」布団から這い出て、その上に胡座あぐらをかく。「相当取り乱していたし、きっと重大なことなのだろう?」


狂郷「ええと、それはですね……」狂郷も底本の正面に正座をする。


底本「うんうん」神経を狂郷に注ぐ。


狂郷「……平賀ひらがさんのことです」


底本「……あー、そうくるか」と底本は呆れたように体を後ろに仰け反らした。


狂郷「そんな呑気な顔をしている場合じゃないですよ! 底本さん!」身を乗り出して顔を底本に限りなく近づける。


底本「きゃー! 近い近い! こっち来んな!」すぐに後方へ退けて距離をとる。


狂郷「そのくらい緊急なことなんですよ!」両手をグーにして必死に訴える。


底本「緊急って……、おめー最初の頃に平賀殿は後回しでいいって言っていただろ!」と鋭く指さす。



 *第四話『始まりの始まり』より*



底本「え、ゆっくりでいいの? そんなことしているうちに打ち首になってしまうのでは?」


狂郷「平賀さんは意外としぶといので、どれだけ待たせても死ぬことはないでしょうから、きっと大丈夫ですよ」



 *



狂郷「言ってませんよ!」


底本「言ったし!」



 もはや子ども同士の口喧嘩である。



津島つしま「どうしたんですか、お二人とも?」そこへ津島がやってきた。つい昨日散髪したようで、頭がさっぱりしている。


底本「おお津島君! ちょうどいいところに来た!」と底本が瞳に光を浮かべる。「前まで狂郷は平賀殿の救出はゆっくりでいいと言っていたのに、今になって焦りまくっているのでござるよ!」頭のおかしい狂郷を示した。



 ところが津島は不思議そうな顔をして首を傾げる。



津島「平賀……」と静かにつぶやく。「平賀って誰ですか?」


底本・狂郷「覚えてすらいない!」二人は声を揃えて一驚した。


狂郷「ほら、クソみたいな髭を生やした、いかにも変態って感じのジジイですよ!」


底本「機械ばかりいじっているハゲでござるよ!」頭の上で坊主頭であるというジェスチャーを見せて津島に思い出させようとする。


津島「ああ、あの気色悪いおっさんかあ」


底本「その通り! ゴキブリに名前をつけて飼っていそうな死にかけの老人でござる!」


狂郷「私達はなぜかそんな人間を助けに行かなければならないんです!」


津島「……なるほど」津島は特に理解する気はなかったが、とりあえず納得しておいた。



 *



狂郷「それで、突然なのですが――」狂郷と底本は普段着に着替え、玄関の扉の前に立つ。「私達は、津島君の家を、去ろうと思います!」


津島「は、はあ……」津島は二人のテンションについていけない。


底本「名残惜しいところでござるが、これも致し方ない……」


津島「まあ、そうですね」


狂郷「津島君、今までお世話になりました!」


津島「ああ、うん」


底本「それでは達者でな」二人は津島に背を向ける。



 そして彼らは扉を開き、そそくさと津島家を出て行った。



津島「……突然の別れだったなあ」



 と津島はつぶやき、のそのそと自室へ戻って行く。



津島「さて、寝るか……」



 *どこかの監獄*



平賀「へっくしょん!」



 ジジイは大きく下品なクシャミをかました。



平賀「はあ……、誰かワシの噂でもしおったな」と顔をしかめてボリボリとこめかみを掻く。


芸次げいじ「おいジジイ、ブツブツとうるせぇぞ」


平賀「ああ、すまんな。寒い独房生活に風邪をひいてしまったのかもな」体を腕で包んで震えるような仕草をする。(ああ、早くあいつら助けに来てくれないかのお……)

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