底本貧三は新しい服を買いたい
翌朝
津島「うぅ……、あぁー、んあぁ……、んん、あぁー!」。津島は唸っている。
底本「狂郷、見ろよ、こいつ、これでも寝ているんだぜ」。津島の顔を覗き込む。
狂郷「いや、たぶん起きていますよ。寝ぼけているだけです」。同じように覗き込む。
底本「起きてんの! 寝起き悪すぎだろ! 唸っているぞこいつ!」
津島は朝起きるのが苦手であった。
津島「おはようございます」。ぬくっと起き上がる。
底本「大丈夫か、すごく唸っていたぞ、まるで悪夢でも見ているように」
津島「全然覚えていません」。平然としている。
底本「本当かよ……」
狂郷「それより底本さん、今日するべきことですが」。狂郷が話を持ちかける。
底本「ああ、装備を揃えるんだったよな。しかし狂郷、この時代に防具なんて代物が存在するのか? 政府とは、死を決する戦いとなるのだろう」
狂郷「何を言っているんですか、底本さん。防具なんて必要ありませんよ。戦うわけではないので安心してください」
底本「なに? では装備を揃える必要などないのでは?」
狂郷「いや、問題は底本さんの絶望的貧乏衣服なんですよ。それをどうにかしないといけません」。底本の服装をじーっと見る。
底本「また貧乏か! 別に貧乏だっていいではないか!」
狂郷「でもさすがに、この時代でその服装は目立ちますよ。日常生活で袴など身につけている人はほとんどいませんから」
底本「確かに、狂郷も津島君も見慣れない格好をしているな。まるで南蛮渡来の服装のような……」
津島「狂郷さんは、緑のチェック柄のシャツに、ベージュのカーゴパンツですね」
底本「そんな意味の分からない単語を羅列するでない。いったい何なのだ、籠パンツとやらは」
津島「カーゴパンツです。元々作業用に使われていたズボンと言ったところでしょうか。特徴としては、ポケットが六つもあります」
底本「一切分からないぞ。もういい、狂郷、結局拙者は何をすればよいのだ!」
狂郷「とりあえず一緒に買いに行きましょうか」。ゲラゲラ。
津島「それじゃあ僕はもう一眠りするとしよう……」
底本と狂郷はとある洋服店へ行く。
底本「狂郷、ここはどこだ」
狂郷「ウニクロです、知りません? 洋服店の大手メーカーで、たくさん服が売っているんですよ」
底本「拙者が知っているわけないだろう。とにかくここで服を買うということだな。しかし拙者はどのような服を着れば……む?」。何かを見つけ、それに駆け寄る。
狂郷「どうかしましたか?」
底本「狂郷、見ろ! 服に猫の絵が描かれているぞ! 拙者これがいいでござる!」。服を見せびらかす。
底本は猫が何よりも大好きだった。
狂郷「おおー! って底本さん、それは残念ながらレディースですよ」。ゲラゲラ。
底本「れ、レデース?」
狂郷「女性用ってことです。他を探しましょう」
底本「ちぇっ……、着たかったなあ」
それから二人は、必死に底本の着る服を探す。
底本「これはどうでござるか?」
狂郷「大きすぎますね。ちょうどいいサイズは……、売り切れてしまっていますね」
*
底本「これなんかいいのでは!」
狂郷「底本さん、着ぐるみは駄目です。ちゃんとしたのを探しましょう」
*
底本「これいいっすね」
狂郷「それはブラジャーです」
底本はファッションセンスも絶望的だった。
底本「もう駄目だ! 狂郷、もう勝手に決めてくれ!」。底本はそこらへんにあった椅子に座り込む。
狂郷「しょうがないですねえ。それじゃあ少しここで待っててください。すぐ探してきますから」
数分後
底本「おっ、来たでござるな」
狂郷「お待たせしました。早速着てみてください」
底本「分かった。これはなかなかいい感じでござるなあ」。服を持って試着室に入る。
*
底本「着れたでござるよ!」
狂郷「お、見せてください」
底本「ガラガラァッ! どうでござるか!」。仁王立ち。
狂郷「赤いパーカーに、黒のジーパン。これはいいですね!」
底本「狂郷、今、馬鹿って言ったか?」
狂郷「言ってませんよ! パーカーって言ったんです!」
底本「なんだあ。それじゃ、拙者はこれに決めたでござる!」
狂郷「了解しました! それでは会計してきますね!」
そして帰り道
底本「狂郷、拙者のブラジャー姿どうだったでござるか?」
狂郷「吐き気を催しました」