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ミレーの『落穂拾い』

底本そこもと「お、これは――」


狂郷きょうごう「これはジャン=フランソワ・ミレーの『落穂拾おちぼひろい』です」狂郷は底本が喋りきる前に答える。


底本「おい、早いだろう。まだ拙者が話している途中だぞ」底本は地団駄を踏む。


狂郷「もう底本さんが尋ねてくることなんて分かりきっているんですから、別にいいじゃないですか。同じやりとりばかりじゃ辟易としてしまいますし、むしろこうするのが遅かったくらいです」


底本「確かにそれもそうだな」底本は納得した。「ところで、落穂拾いとはどういったものなのだ?」


狂郷「落穂拾いはですね、穀物の収穫時に回収しきれなかった穂を拾い集めることですよ」


底本「なるほど、じゃあこの三人は、この畑の持ち主で、そこに散らばった穂を取り集めている、ということでござるな」


狂郷「底本さん、ところがそれは違うんです」


底本「え、違うの?」


狂郷「はい、この人達はこの畑の持ち主というわけでなく、農村の貧しい人々であり、生計を立てるために僅かな落穂を拾い集めているんです」


底本「それって勝手に他人の畑に入って、ということだろ? それは貧しいからといってもさすがに駄目だろう」


狂郷「ええ、それで批評家はミレーを、卑しく貧困を誇張している、として非難を浴びせ、作品を『下層民の運命の三女神』と揶揄しました」狂郷は人差し指を立てて言った。「しかし、真実は違います」


底本「真実、というと?」


狂郷「実は、落穂拾いという行為は、『旧約聖書』に基づいたものなんですよ」


底本「旧約聖書だと? それにどう基づいているというのだ?」


狂郷「旧約聖書には『レビ記』というものがあり、それにはこう書いてあります。『あなたがたの地の実のりを刈り入れるときは、畑のすみずみまで刈りつくしてはならない。またあなたの刈入れの落ち穂を拾ってはならない。あなたのぶどう畑の実を取りつくしてはならない。またあなたのぶどう畑に落ちた実を拾ってはならない。貧しい者と寄留者とのために、これを残しておかなければならない』と」


底本「……え?」


狂郷「つまりはですね、落穂は貧しい人々のために残しておかないといけない、ということです。このように定めることで、農家と貧しい人との互助関係が成立するというわけです」


底本「そういう背景があったのかあ」と腕を組んで感心する。「拙者も落穂拾いをしてみようかな」


狂郷「日本じゃひっぱたかれますよ」


底本「んじゃ駄目だ」

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