占い師狂郷
底本「ただいまでござるー」。底本は散歩から帰宅する。
シーン……。底本の挨拶に応える者は誰もいない。
底本「あれ、狂郷ー? いないのか?」。底本はそう狂郷を呼ぶ。
シーン……。だが、例の如く返事はない。
底本「狂郷もどこか散歩に出掛けているのか?」。リビングに移動する。するとそこには――。
怪しい格好をした狂郷が、テーブルを前に堂々と座っていた。
底本「うおっ、なんだよ狂郷、いるなら返事くらいしろよな」。底本は狂郷を責める。
狂郷「……おかえりなさい」。狂郷は静かに底本に言った。
底本「え、どうした狂郷? 様子がおかしいぞ」
狂郷「……私は狂郷だ。だが、ただの狂郷ではない」
底本「へ、変なものでも食べたのか? 狂郷?」。底本は狂郷に問いかける。
狂郷「……私は占い師狂郷だ」。狂郷はそう断言した。
底本(駄目だ。何かが狂郷に取り憑いてしまっている!)
狂郷「それでは、底本さんの恋愛運を占いましょう」。そう言い、狂郷はタロットカードを取り出す。
底本「え、いきなり?」
狂郷「今回は、過去・現在・未来を三枚のカードで占う方法をとりますね」。狂郷は慣れた手つきでカードを切っていく。
底本「あ、ああ……」。底本は当惑した。
そして狂郷はテーブルの上に三枚のタロットカードを並べる。
狂郷「なるほど……」。テーブルの上には、悪魔の逆位置、恋人の逆位置、太陽の逆位置が並んだ。
底本「全部逆位置なのだが……」。底本は不安そうに呟いた。
狂郷「とりあえず、過去から見ていきましょうか」。狂郷は悪魔のカードを底本に見せる。
底本「おう」
狂郷「悪魔のカードは、正位置ならば、裏切りや堕落、憎悪といったネガティブな意味を持ちます」
底本「ほう……」。底本は手を顎に添える。
狂郷「ですが、逆位置となれば意味も反転します。きっと、底本さんは真面目な方なんですよね」
底本「まあ、そうかもしれないなあ。って狂郷は拙者のことを昔から知っているだろう!」。底本はツッコミを入れる。
狂郷「それでは次に現在を見ていきましょう。恋人のカードは、誘惑と戦うという意味や、結婚を意味します」
底本「おおっ」。底本は一瞬喜んだ。だが――。
狂郷「ですが逆位置なので全く逆です。誘惑に負けますし、失恋しますし、もちろん結婚だなんて夢のまた夢です」
底本「だろうと思ったわー」。落胆した。
狂郷「それじゃあ最後に未来を見ていきましょうか。太陽は成功などの意味を持っています」
底本「ああ、ということは、拙者は失敗するのか……」
狂郷「その通りです。不調になり、落胆し、衰退します」
底本「駄目駄目じゃないか!」
そして生涯底本に恋人ができることはなかった。