雪に戯れる侍
冬の曇りの日、底本と狂郷は特に行く宛もなく、近所をぶらぶら散歩していた。
底本「いやあ、今日はとんでもなく寒い日でござるなあ。身体も恐ろしいほど震えてしまうわ」。底本は身体を縮こませ、ぷるぷる震えながら言う。
狂郷「もうすっかり冬ですよねえ。ほら、あの木を見てくださいよ。完全に葉は落ちきっています」。狂郷は公園の中にある一本の木を指さして話す。
底本「おお本当だ。なんだか淋しく思うようになる時期になってきたなあ」
狂郷「ええ、でもそれが日本のわびさびといわれる美しさですよ。これはこれで、良いものだと思います」
そのとき、空から一粒の小さな結晶が降ってきて、それが底本の片頬にふわりと落ちる。
底本「ん、冷たっ。何かが降ってきたな。これってもしかすると……」。底本は空を見上げる。
狂郷「ああ、やっと降ってきましたね。雪が。」。狂郷も同じように空を見上げる。
空には、数え切れないほどの綺麗な雪が、まるで踊っているかのように、穏やかに舞っていた。
底本「ゆ、雪っ!」。そこで底本ははっとする。
狂郷「ん、どうしたんですか底本さん?」。狂郷は底本に対して不思議そうに問いかける。
底本「おおおぉぉっ! 雪だああああぁぁぁ!」。底本はなぜか急にものすごい速さで走り出した。
狂郷「底本さん!」
底本「あははー! 拙者は雪を見ると、なぜか酷く興奮してしまい、つい走り出さずにはいられない性格なのだーっ!」。走りながら叫ぶ。
狂郷「子どもじゃないですか!」
底本「Fooooo!」
数分後。
底本「ぜえぇ……、ぜえぇ……」。底本は息を切らしていた。
狂郷「大丈夫ですか、底本さん?」。底本はげらげら笑って心配する。
底本「いやあ、やっぱりこのくらいの歳になると、全力でダッシュしては、すぐに体力が切れてしまうでござるなあ」
狂郷「当たり前ですよー。私達はもうおっさんなんですから。あまり暴れない方がいいですって。底本さんも子どもみたいにはしゃいだりしないでくださいね」。げらげら。
底本「そうでござるなあ……。ん?」。そこで底本は何かに気付く。
黒白「みゃー」
底本の見る先には、以前出会ったことのある黒白の猫ちゃんが歩いていた。
底本「おおっ! ねーこちゃーんっ!」。底本は例のごとく、とてつもない速さで猫の元へ駆けていく。
狂郷「え、ちょっと底本さん!」
黒白「みゃっ!」。猫ちゃんは底本を思い切りパンチする。
底本「ふにゃっ!」。底本は猫によるパンチで遠くまで吹っ飛ぶ。
バタッ。底本は地面に倒れ落ちた。
狂郷「あーもう。しょうがないですねえ、言ったそばからはしゃいじゃって。まあ、これが私にとって、底本さんらしくて良いんですがねえ」。げらげら。
このようにして、底本と狂郷は、寒い冬の時期でも、通常運転で日々を過ごすのであった。