監獄のエレキテルと英雄のスパイダー
某所、政府のアジトにて。
平賀「あぁー、暇じゃのー」
江戸のエレキテル、平賀源内は、この現代にやって来てから、なぜか不法入国の疑いで、政府に捕えられてしまっていた。
??「じいさん、うるさいぞ」。平賀と同じ牢屋に入れられている男、芸次は咎める。
平賀「とは言ってものぉ、暇なものは暇じゃろう。わしよりも長くこの中にいる、芸次君なら分かるじゃろう?」。平賀は目を細めて芸次に問う。
芸次「……興味ないね」。芸次は目をそらしてクールに答える。
平賀「いつまでもいけ好かない男じゃのう」
平賀がそう言うと、突然、牢屋の片隅で、カサカサと何かが動く音が聞こえてくる。
平賀「ん、何じゃ?」。平賀は音のする方向を即座に見た。すると―-。
蜘蛛「クモーっ!」
そこには非常に大きい蜘蛛がいた。
平賀「うわあああぁぁっ! 蜘蛛じゃぁぁぁっ!」。平賀はじじぃとは思えぬほど甲高い悲鳴をあげた。
芸次「やかましい! この程度の蜘蛛で騒ぐんじゃあねえぜ」。芸次は怒号をあげる。
平賀「じゃがよ、こんなにでけえ蜘蛛がいるんじゃぞ? 普通驚かないわけがないじゃろう!」。隅の蜘蛛を指さしてそう話す。
芸次「そんなことはない。この蜘蛛はずっと昔からいる」。手のひらを上に向けて床に置く。
蜘蛛「クモー」。蜘蛛はカサカサと芸次の元へ駆け寄っていき、彼の手の上に乗った。
平賀「ええぇぇぇっ! 気持ち悪くないのぉ?」。平賀は芸次の手の上に蜘蛛が乗っていることに震えおののく。
芸次「おい、それはこの蜘蛛に失礼だろう。気持ち悪いわけがない」。芸次は蜘蛛を乗せた手を顔の前まで上げる。
平賀「だって脚が八本もあるんじゃぞ? さすがに恐ろしいだろ?」
芸次「脚の数が多いからといって恐れることはない。人は何でも見た目で決めつけていけない。蜘蛛はこう見えて益虫なんだぞ」
平賀「益虫?」。平賀は芸次の手の上の蜘蛛を見つめる。
芸次「ああ、蜘蛛は害虫を食らうんだ。例えばアシダカグモ、こいつは衛生害虫であるゴキブリを食らってくれる」。芸次も同じように自分の手の上にいる蜘蛛を見つめる。
平賀「でも、蜘蛛も害虫じゃないのか?」
芸次「種類による。例えばセアカゴケグモとかの毒グモは害虫だな。だが日本に危険な毒グモなどほとんどいない。普段見かける蜘蛛の大半は無害だ」
平賀「そうなのかあ。初めて知ったのう。しかし芸次君はとても物知りじゃな。いったいどうして政府に捕えられてしまったのじゃ?」。平賀はふと疑問に思った。
芸次「……それは、じいさんには関係のないことだ」。芸次は目をそらすと、手の上の蜘蛛は下に降りた。