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ひとりかくれんぼ その二

前回のあらすじ。

 『ひとりかくれんぼ』について話している底本と狂郷。二人はひとりかくれんぼの脅威を知っていなかった。そこで津島がそれについて教えると底本は顔を青ざめて、「ひとりかくれんぼを始めてしまった」と告げる。

津島(つしま)底本(そこもと)さん、冗談ですよね! ひとりかくれんぼを始めただなんて、僕達を驚かせるためだけの嘘なんですよね!」。津島は何かに取り憑かれたように焦る。


底本「残念だが、今回ばかりは本当なんだ……、すまぬ」。底本は後悔した様子でうなだれる。


狂郷(きょうごう)「津島君、ひとりかくれんぼをやると、具体的に何が起こるんですか?」。狂郷は冷静に津島に尋ねる。


津島「……人形が、殺しにくるんです」。鬼の形相。


狂郷「に、人形が……ですか?」


津島「ええ、底本さん、ひとりかくれんぼを始めるために、人形を使いましたよね?」


底本「ああ、使ったぞ。まずはらわたを切り裂いて綿を取り出し、そして代わりに米と拙者の爪を入れて、最後に裂いたところを赤い糸で縫ったら風呂に沈めた」


津島「はあ、残念ながら完璧ですね。きちんとひとりかくれんぼの準備ができてしまっています」


津島「初めは拙者が鬼で、しばらくしてから風呂場に戻ったのだが、それまではなんにも起こらず、全然つまらなかったから途中でやめた」


津島「うわぁ、それは参ったなあ。途中でやめてしまうだなんて……。これはもう死にましたね」。もう投げやりである。


狂郷「何か助かる方法はないんですか?」。そう尋ねると……。



 ピシャ、ピシャ……。


 ふと、何かの音が聞こえてくる。



底本「この音はいったい……?」


津島「恐らく、米を詰められた人形が歩いている音です……」



 ピシャ、ピシャ……。


 徐々に音が大きくなってくる。



底本「人形が歩くのか!」


津島「霊を人形に取り込むようなものですから」



 ピシャ、ピシャ、ピシャッ。


 突然音が止まる。


狂郷「すぐそこで止まりましたね」。そう言うと……。



 ガラガラァッ!


 突然ドアが開かれた。



底本「なっ、あれはっ!」。底本はあるものを目撃する。


津島「まさか! 平賀(ひらが)源内(げんない)人形!」



 底本がひとりかくれんぼに使った人形とは、平賀源内の人形であった。



人形「サイキン、デバン、無イ……」。人形は出せるはずのない声を出して底本達に近づいていく。


底本「あの人形はきっと、この物語の主要キャラなのに全く出番が回ってこない平賀殿の怨霊が取り憑いた人形なんだ!」


狂郷「平賀さんはまだ死んでないですよ! あとなんであんな人形があるんだ!」


津島「大変だ、どんどん近づいてくる!」


人形「殺ス、殺ス、イナクナレ……」


底本「ええい! ここでやっと拙者の素晴らしき剣術を披露できるな! シャキーンッ!」。底本は鞘から鋭く研ぎ澄まされた刀を抜く。


狂郷「どこから取り出した!」


底本「拙者はいつでもどこでも刀を取り出せるようにしている。侍の基本でござるよ狂郷?」


狂郷「この時代では銃刀法違反ですよ!」


人形「死ネエエェェェイッ!」。人形は底本に向かって思いっきり襲いかかる。


底本「この際関係ない! くらえ! 八卦(はっけ)底本流……爆風飛龍斬!」。底本は奇妙なポーズで構え、痛い技名を叫びながら人形に向かって刀を斬りつける。


狂郷「説明しよう。『八卦底本流』とは、今の底本さんより伝わる剣術流派である。痛々しい名前の技が多く。むしろ相手を辱めることができる。ちなみに、底本さんは『八卦』の意味を理解していません」



 底本の振り回した刀は見事人形の首元を捉えるが、人形は少しも傷付かずに吹っ飛ぶ。



底本「何ぃっ! 人形のくせに斬れねぇだとぉっ!」。底本は仰天した顔で刀を見つめる。


津島「恐らく見えない力があの人形を守っているのでしょう。きっと正攻法でなければあれは止められませんよ」


狂郷「正攻法って、いったいどうすればいいんですか?」


津島「確か、コップに入った塩水を用意して、半分を口に含み、人形に口に含んだ分を吹きかけて、コップに入っている分もかけたら、『私の勝ちだ』と三回繰り返して言えば、このゲームは終るはずです」


底本「ふっ、ゲームか……、こいつぁ命懸けのゲームでござるよ」。底本は冷や汗を垂らす。


津島「本来、ひとりかくれんぼとは霊を呼び出す儀式なんですよ」


狂郷「塩水を準備するには、台所へ行く必要がありますね」


底本「よし、ここは拙者がこの人形を足止めしよう。狂郷と津島君は台所へ行って塩水を準備してくれ!」


狂郷「分かりました。しっかりお願いしますね、底本さん!」



 狂郷達は一番近いところにあったドアから台所へ向かう。



底本「さぁて、斬っても斬れなくても、こいつをぶっ飛ばせば問題ないよな。そうとなれば、どこからでもかかって……ってあれ? いねぇぞ!」



 人形は底本がよそ見しているうちに狂郷達を追いかけたのだった。


 一方狂郷達は……。



津島「底本さん上手く足止めできていますかね?」。水に塩を入れながら狂郷に尋ねる。


狂郷「えっ? たぶんできてないです」。狂郷はなんでもないような顔で答える。


津島「えぇっ! そんな!」


狂郷「底本さんのことですからすぐヘマをこくに決まっているじゃないですか」。ゲラゲラ。


津島「そしたら、もし僕達の前に人形が現れたらどうするんですか?」


狂郷「大丈夫です。策はありますから」。自信のある顔をする。


津島「本当ですか……?」。塩水をかき混ぜながら言う。すると……。



 バンバンバン! ガラァッ!


 人形が現れた。



津島「出たぁっ!」


人形「シオミズ、嫌イ。コーラ、好キ」


狂郷「おかしいなあ、江戸時代にはコーラなんてものなかったけど……」


津島「言ってる場合ですか! どうするんですか。策はあるんでしょう?」


狂郷「んー、どうしよっかなー?」。とぼけた顔をする。


津島「狂郷さんー!」。絶望的な声。


人形「キエエェェェイ!」。狂郷に襲いかかろうとする。



 シュッ、ボッ……。



人形「ウグッ……」。動きが止まる。


津島「……? 動きが止まった? 狂郷さん、いったい何をしたんですか?」


狂郷「いやあ、ちょっとした小細工をね、試してみたんだよ」。ゲラゲラ。狂郷の手には火のついたマッチ棒がある。


人形「シオミズ、嫌イ。火モ、嫌イ」


津島「火を恐れているのか……?」


狂郷「実はですね、平賀さんは一度火事に巻きこまれたことがあるんですよ。それでそのときに、大切に書き溜めておいた研究論文が燃焼してしまったんです。それ以来平賀さんは火がトラウマになっているんですよ」


津島「そんなエピソードがあったんですね……。てことは、これは本当に平賀さんということですか」


狂郷「たぶんね。それと、人形は布でできているし、燃えやすい素材なんだよね。だから、燃えるのが怖いから近づいてこないんだよ。そう、燃やされるのが、怖いんだよねえ」。ゲス顔。


人形「ヒ、ヒイイィィィ!」


津島(狂郷さんのあんな顔初めて見た……)


狂郷「さあ津島君! 塩水をかけるんだ!」


津島「あ、はい! ゴクゴク、ブフォーッ!」。口の中に塩水を含み、それを吹きかけたあと、コップの塩水もかける。


狂郷「塩水飲んでないよね?」。ゲラゲラ。


津島「さすがに飲みません」。ゲラゲラ。


人形「ピクンッ、ピクンッ……プシュー」


狂郷「お、動かなくなった」


津島「やりましたね! って、ん?」。何か聞こえるのに気付く。



 ドドドドドドド!



津島「なんだ?」。不審に思い、音のする方向を見ると……。


??「うおおおぉぉぉぉ!」。何かが走ってきていた。


狂郷「あ、あれは……」。ゲラゲラ。


底本「おおおぉぉぉぉ! 真っ二つに割れろー! (ざぁん)っ!」。機関車の如く走ってきたのはアホな底本だった。



 パッカーン。人形は割れた。



底本「あれ? 斬れた!」。驚く。


狂郷「底本さん、もう終わりましたよ」。ゲラゲラ。


底本「えぇっ! 終わったの?」


狂郷「駄目じゃないですか人形を逃がしちゃ」。ゲラゲラ。


底本「めんぼくない……」


津島「それじゃ、あとはしっかりこの人形を弔って、焼却しましょうか」


狂郷「そうですね、それじゃあ言いましょう。私の勝ちだ」


津島「私の勝ちだ」


底本「拙者の勝ちだ」

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