漱石文庫
ある日、底本と狂郷はバスに乗ってどこかへ向かっていた。
底本「狂郷、バスになんか乗ってどこへ行くというのだ? 街からけっこう離れたようだが」。底本は外を眺めて言う。
狂郷「まあ待っていてくださいよ。そろそろ着きますから。あっ、ほら! あの銘板を見てください!」。狂郷は窓の外を指さす。
底本「ん、なになに? とっ、『東北大学』! なんだって! 正気か狂郷! 狂郷ならまだしも、拙者なんかが東北大学に入学できるわけがないだろう!」
狂郷「誰も東北大学に入学するだなんて言っていませんよ。それに、底本さんだって頑張れば東北大学に入れると思いますよ。あと東北大学の中に入るわけではないですから」。ゲラゲラ。
底本「入学できるかどうかはさておき、いったい狂郷は何をするつもりなんだ。拙者は難しいことが苦手だぞ」
狂郷「この前津島君と難しいことを話していたじゃないですか。まあ、今回は文学についてお話しましょう」
底本「文学、というともしかして……」。底本は窓を見る。
キキーッ! バスが停車する。
底本達はバスから降りてある施設の前に立つ。
底本「やはりここなのか」。底本は目の前の施設を見て呟く。
狂郷「その通りですよ底本さん。すごいでしょう」
そこは東北大学附属図書館だった。
底本達はその中へ入る。
底本「なんか、パネルがあるぞ狂郷。『夏目漱石』と書かれているな」
狂郷「それです! 今回お話するのは、『夏目漱石』についてなんです!」
底本「ほほう、夏目漱石、とはいったい?」
狂郷「明治時代の文豪ですよ底本さん。漱石の没後百年ということで、今、漱石文庫の展示会が行われているんです」
底本「拙者の知らない時代の人物なのか。どれどれ、なんかマンガが描かれているな」
狂郷「図書館の入口では漱石と交流のあった人物とのエピソードを紹介されているんですね。この図書館の元館長だった小宮豊隆や土井晩翠、芥川龍之介などとのエピソードがあります」
底本「なんか、多目的室でも何か展示されているようだが見に行くか」
狂郷「ええ、行きましょう。逆にそこへ行かなければ今日ここに来た意味がありませんからね」
底本達は多目的室に入る。
底本「これはいったい?」
狂郷「それは漱石の蔵書ですよ」
底本「ほほー、何か余白のところに書かれているようだが?」
狂郷「漱石は本を読むときその本に感想を書き込む習慣があったようです。すごい個人的な感想まで書いていたようですね」
底本「狂郷、『木曜会』ってなんでござるか?」
狂郷「漱石は仕事に専念するために、木曜日の午後三時以降だけを面会日としていたんです。するといつしかその時間は『木曜会』と呼ばれるようになったんです」
底本「ほへー! 芥川も漱石の亡くなる前年からそれに出入りしていたとあるな」
狂郷「芥川は『葬式で泣くのは偽善者だ』と言っておきながら、漱石の葬式のときに大号泣したツンデレなんですよね」
底本「そうなのかあ。というか、どうしてこんなところに漱石の蔵書などが保存されているんだ?」
狂郷「それはですね、当時ここの館長をしていた漱石の愛弟子、小宮豊隆が漱石の研究家達の役に立つように、ここに所蔵したからだそうです」
底本「漱石はたくさんの弟子に恵まれていたんだなあ。拙者もあの観音堂で木曜会でも開こうか?」
狂郷「たぶん猫ちゃんしかきませんね」