人狼ゲーム
底本「狂郷どん! 今日は人狼ゲームをするでござる!」。底本はテーブルをバンッと叩いて身を乗り出す。
狂郷「え、いきなりですか」。ゲラゲラ。
津島「というか人狼ゲームなんてものを底本は知っていたんですね」
底本「拙者が無知だからといって甘く見ないでもらいたい! 拙者はインターネットとかいう便利なものでその情報を手に入れたのだ。そしてそれを一人で遊んでみたら、とてつもなく楽しくって……」
狂郷「ちょっと待ってください」。狂郷は底本が喋るのを遮る。
底本「どうしたんでござるか。まだ拙者が喋っている途中だぞ」
狂郷「いや、少し気になったところがありまして……」
底本「なんだ、言ってみそ」
狂郷「底本さん、まさか、一人で人狼ゲームをしていたんですか?」
底本「うん!」
狂郷「何しているんですか底本さん! 一人で人狼ゲームだなんて、全然楽しくないでしょう! 人狼ゲームは複数人でやるものなんですよ」。ゲラゲラ。
底本「えぇっ! そうなの! てっきり一人でも何人でも楽しめるものだと思っていたでござる」
狂郷「馬鹿だなあ」。ゲラゲラ。
津島「それに、人狼ゲームは三人だけでも全く面白くないですよ」
底本「それもそうだなあ。そうだ! ちょっと待っててくれ」。底本は家を飛び出す。
狂郷「えぇっ! 底本さん、どこへ!」
数分後
底本「参加者を連れてきたでござる」
黒白「みゃー」
少年「おじゃまします」
狂郷「誰!」
津島「この黒白の猫ちゃんはよく観音堂にいる猫ちゃんですね。ですけどその少年は?」
底本「無理やり連れてきたんでござる」
狂郷「それ誘拐でしょ!」
少年「大丈夫です。いざというときはあなた達をボコボコにして逃げます」
狂郷「とんでもないな……」
津島「そういえば僕の家の物置の中に、こんなものがありました」。津島は人型のロボットを持ってくる。
狂郷「それはいったい何ですか?」
津島「なんか裏に、平賀源内ロボって書かれています」
ロボ「私ハ、平賀源内ロボデス。ヨロシクオ願イシマス」
狂郷「平賀源内と名乗りながらその要素がない!」
底本「でかした津島君! このメンバーでなら存分に人狼ゲームを楽しめるだろう!」
黒白「みゃー!」
役職
・市民:なんの能力も持たない市民プレイヤー。要するに空気。
・占い師:夜の間に誰か一人を占うことができる。運が良ければ即市民チームの勝ちになる。
・霊媒師:死んだプレイヤーが人狼かどうか知ることができる。はっきり言ってあまり出番がない。
・騎士:夜誰かを人狼から守れる。人狼に存在を知られると真っ先に殺される可能性が高い。
・人狼二人:夜の間に人間を襲う。嘘が上手くないと勝てない。
ルール
・第一夜の占いあり。
・第一夜の殺害なし。
人狼ゲーム開始。
夜になり、朝を迎える。
そして、にわかに怪しいと思われている人物が浮上した。
その怪しいと思われている人物は……底本だった。
底本「なぜだ! 拙者はまだ何もしておらんぞ!」
狂郷「落ち着いてください底本さん。まだゲームが始まったばかりなので、みんななんとなく底本さんに票を入れたんですよ」
底本「そ、そういうことなのか……。ん、狂郷、まさか貴様も!」
狂郷「私は底本さんに入れていませんよ」。ゲラゲラ。
津島「そんなこと話していないで、とっとと話し合いを始めましょうよ」
底本「うむ、それもそうだな。それじゃまず、占い師はどいつだ?」
全員沈黙。
津島「沈黙も話し合いの一つということですね」
狂郷「下手に名乗ると人狼に殺されますからね。となれば、霊媒師や騎士も、名乗る者はいないでしょう」
少年「なら、これから処刑するべき人物は、今最も怪しまれている底本だな」
底本「なにぃっ! それはおかしいだろ! それに少年、敬語くらい使えや!」
少年「誰がお前なんかに使うもんか」
底本「むきーっ!」
狂郷「だから落ち着いてくださいよ。底本さんは人狼ではないですよ」。ゲラゲラ。
黒白「みゃー」
狂郷「だって底本さんは、嘘ついたら過剰なくらい顔と動きに出ますからね。長年一緒にいた私なら分かりますよ。今の底本さんは一切嘘をついていません」
底本「狂郷っ……!」
少年「ううん。じゃあいったい誰が……」
津島「そういえば、平賀源内ロボはずっと黙っていますね。もしかしたら、人狼なのでは?」
ロボ「私ハ、人狼デハ、断ジテアリマセン」
少年「ほーう、本当かなあ? 信用できないぞお? じゃあさ、自分の役職を言ってみろよ」
ロボ「私ノ役職デスカ? 私ハ、霊媒師デス」
少年「ほほう、霊媒師か。……ふん、かかったなアホが!」。少年は身を乗り出す。
ロボ「!」
少年「お前は霊媒師なんかじゃあねえぜ。それはなぜかって顔をしているな? 教えてやるよ。それは、本当の霊媒師が、この俺だからだよ! どうだ、この無機質がっ!」
底本「なにぃーっ!」
少年「これで一人目の人狼は決まりだ! それは、このロボットだ!」
黒白「みゃーみゃみゃーみゃー!」。黒白猫が飛び跳ねる。
底本「ん? どうしたんだい子猫ちゃん」
黒白「みゃーみゃみゃーみゃーみゃみゃみゃーみゃみゃー!」
底本「なになに? 『そのロボットは人狼じゃない!』だって?」
狂郷「なんで通じるの!」
黒白「みゃーみゃみゃーみゃみゃみゃあみゃあみゃ!」
底本「『私は占い師なのよ!』」
津島「なるほど分かったぞ。底本さんは隠れ役職――『翻訳者』なんだ!」
狂郷「勝手に役職増やすな!」
黒白「みゃーみゃみゃみゃみゃみゃみょみゃみゃみゃあみゃみゃ、みゃみゃあみゃみゃ、みゃあみゃあみゃーみゃ!」
底本「『私がロボットを占った結果、ロボットは、人間と出た!』」
少年「なんだと!」
狂郷「お、ということは……?」
底本「ああ、一人目の人狼の正体が分かったぜ」
津島「それは、少年! お前だ!」。津島は少年を指さす。
少年「うっ、ぐぐ……、アッー!」。発狂。
少年は、処刑された。
そしてまた夜になり、朝を迎える。
そこで、ある一人の遺体が見つかった。
その人物とは……、底本だった。
さらににわかに怪しいと疑われている人物が浮上した。
その人物とは……、狂郷だった。
底本「なんで拙者が殺されているんだ!」。底本は身を乗り出す。
狂郷「底本さん、底本さんは死んだので喋ってはいけませんよ」。ゲラゲラ。
底本(えー!)
津島「しかし、狂郷さんが疑われているんですね。確かにまだ役職が分からないんですから、仕方がないことですね」
ロボ「ソウ言ウ津島君モ、マダ役職ヲ言ッテイマセンヨ」
黒白「みゃーみゃ!」
狂郷「うわあ、底本さんがいないから分からないですよ……」
津島「この場に至っては占い師も形無しですね」
黒白「みゃみゃみゃ……」
ロボ「マダ明ラカニナッテイナイ役職ハ、市民ト騎士ト人狼デス。底本サンガ市民カ騎士カ分カリマセンカラネ」
狂郷「何にせよ、私と津島君のどちらかが市民チームで、どちらかが人狼ってことですね」
津島「となれば、このゲームの勝敗はこのターンで決まりますね。猫ちゃんとロボットは言うまでもなく白。ならばこれから処刑されるのは僕か狂郷さんということになります」
狂郷「騎士の正体は既に死んでいる底本さんか、私達のどちらかなので、市民側が処刑された瞬間、夜に市民達を守れる者がいなくなり、市民チームと人狼チームの人数が同じになります。つまり、私が津島君のどちらに票を入れるかが、ゲームの勝敗を分けます」
底本(拙者には何言っているのか全然分からんぞ……)
ロボ「津島君ハ少年ガ人狼ダト分カッタトキ、激シク追イ詰メテイタノデ、人狼ジャナイカモシレマセン」
津島「そうだね」
狂郷「しかし、それは私も同じですよ。それに、あの状況では少年が人狼だということは明らかでした。ならば、あそこで追い詰めていない方が、かえって人狼だと疑われてしまいます」
ロボ「確カニ、私ガ少年ヲ霊媒シタトコロ、実際ニ人狼デシタ」
津島「となれば、これはもう運ですね。これ以上話し合っても仕方がないので投票に移りましょう」
狂郷「……ふふっ、津島君。まだ投票に移るのは早いですよ。なぜなら、私は一つ、決定的な証拠を残しているんですから!」
ロボ「エェッ!」
津島「ほう、ならば、話してみてください」
狂郷「それでは津島君、このゲームは初め、底本さんが疑われているところからスタートしましたよね」
津島「ええ、そうですね」
狂郷「それで、少年は、底本さんが人狼だと言い出しました」
津島「人狼を底本さんに擦り付けようとしたんでしょうね」
狂郷「ええ、しかし津島君。私はそれから、どのような行動をとったでしょうか?」
底本(どうしたっけ?)
狂郷「そうです。私は、底本さんを庇ったんです!」
底本(あ、そうだった)
ロボ「ソウカ! ツマリ、狂郷サンハ人狼デハナイ?」
狂郷「その通り! 私は、人狼ではなく、市民側のプレイヤーだったんです! その証拠に、私が底本さんを庇ったことを挙げられます」
津島「ふっ、そんな証拠、ただ信頼を買うためだけに過ぎないでしょう?」
狂郷「甘いですよ津島君。もし私が人狼だとして、わざわざそんなリスクのあることをする必要がありますか? もちろんしませんよ。現に今、私達は勝敗を分ける話し合いをしています! 私が人狼なら、底本さんを人狼として見殺しにしていますよ。しかし私はしなかった。なので、私は、人狼ではありません!」
津島「うぐぐ……」
狂郷「もう逃げられませんよ津島君。最後の人狼が分かりました。それは、あなたです! 津島君!」。底本は津島を指さす。
津島「うっ! ううぅ……、ウァーッ!」。発狂。
津島は処刑された。
そしてそれからは、平和な毎日となりましたとさ。
市民チームの勝利! 完。
底本「あー面白かったでござる! やっぱり人狼ゲームはみんなとやる方が楽しいでござるね!」
狂郷「底本さん、人狼ゲームは元々一人でやるものではないですよ」。ゲラゲラ。




