底本貧三と狂郷笑吉
時は江戸。舞台も江戸。そんな活気の溢れた町の外れ、人知れない一軒のボロ屋が、そこにはあった。
ある夜のことである。そのボロ屋に住む一人の侍――底本貧三が、寂しく徒然と傘を作っていたところ。
底本「はあ、拙者、侍は侍でも、位の最も低い最低級武士。そのせいで仕事もほとんどなく、食っていくにはこうやって独り、傘を作って売るしかないほど、ひもじい生活をしている。この腰に下げている刀ももはや装飾品だろう。果たして拙者はこんなんで武士の名を語ってもよいのだろうか。非常に辛い。それに、竹馬の友――狂郷笑吉殿も、発明家――平賀源内殿と遊びに行くと言って、しばらく会えていない。しかし、それもそうか。狂郷は武士の中でも遥かに長けた才能を持つと言われる鬼才。そんな狂郷殿は拙者なんかとは雲泥の差だったのだ。だったら拙者と遊ぶよりも他の人と遊んでいた方が楽しいに決まっている。ああ、辛い。嫌になっちゃうなあ」
そう底本がグチグチと独り言を言っていると、突然、外から非常に明るい光が入ってくる。
底本「むっ、何だこの光は! まさか火事か? いや、この真っ白い光、炎ではない。ではいったい何なんだ?」。底本はさっと立ち上がる。
??「ザッ、ザッ、ザッ」。すると何者かの足音が聞こえてくる。
底本「足音! 何奴だ!」。底本は即座に身構える。
??「底本さん、安心してください。私ですよ」。声の主の影が障子に映る。
底本「む、その爽やかな声、そしてがたいの良い影、まさか、我が最も親しい友人――狂郷どんか!」
狂郷「ガラガラァッ! その通りです。久しぶりですね、底本さん」
底本「ああ、本当に久しぶりだ。寂しかったでござるよ。しかし、こんな夜遅くに訪れるとは、何か理由がありそうでござるな。何があった?」
狂郷「さすが底本さん! 察しがよろしいようで。実は大変なことになったんですよ。話は後にしますから、まずはこっちに来てください!」。狂郷は底本をむりやり外に連れ出す。
底本「ちょっと待つでござるよ! これはいったい何でござるか?」。底本は家の前にある得体の知れない機械を見て尋ねる。
狂郷「ああ、これはですね、時空転送装置ですよ。平賀源内殿の発明で、過去に戻ったり、未来に行ったりすることができるんです。ちなみに白い光を放っていたのはこの機械です」
底本「んん、そうなのかあ……なんだか拙者にはよく分からないが、とにかく狂郷どんはこの機械を使って平賀源内殿と遊んでいたのでござるな」
狂郷「まあ、そうなんですけど、今は遊びどころじゃないんです! とにかく底本さん、黙ってこれに乗ってください!」。狂郷は再びむりやり底本を時空転送装置に乗せる。
狂郷「それじゃあ行きますよ。スイッチ、オン!」
底本「え、ちょっと……アッー!」
このようにして、底本と狂郷は未来へ転送されたのであった。